第529話 強襲
「シュン様、どうかされましたか?顔色が優れないようですが……」
「ああ、いや……その、霧崎君の事が気になって」
「そうでしたか、確かに霧崎様の事は気になりますね」
瞬の様子がおかしい事に気づいたアリシアは心配気な表情を浮かべて尋ねると、彼は慌てて誤魔化す。レアの事が気になるという言葉を聞いてアリシアも同意するが、彼女の場合はレアの事を純粋に心配していた。
(ああ、レア様……貴方はご無事でしょうか。早く会いたい、そして命を救ってくれた事にお礼を言いたい)
アリシアは独自の調査で古王迷宮にて自分を救ったのが銀狼隊とレアの力だと見抜いていた。実際に彼女の推理は間違っておらず、仮にレアがいなければ彼女の命は助からなかっただろう。
城から脱出しながらもアリシアは自分を救うために正体が気づかれる危険性を無視して助けに来てくれたレアに対して深く感謝し、一刻も早く彼に会いたい気持ちに駆られる。今回の使者を立候補したのも何が何でも彼女はレアに会いたいがための行動だった。
「姫様、間もなく城へ到着します」
「そうですか……天気も悪くなってきましたね、少し移動速度を速めましょうか」
「はっ」
兵士の言葉を聞いてアリシアは馬車の窓から外の様子を伺い、御者に馬を走らせる速度を上げるように促す。それからしばらく時間が経過すると、アリシアの予想通りというべきか雨が降り始めた。
馬車が向かう先はかなり前に茂が世話になっていた小城であり、数百人の兵士が滞在する「ボウ」という名前の城である。今日の所はこの城で一泊した後、明日には山脈沿いに存在する大きな城へと辿り着き、本格的な山越えを開始する予定である。
「……雨が酷くなってきてませんか?」
「確かに……もう少し急ぎなさい」
「はっ!!」
馬車の窓から外の様子を眺めていると、徐々に雨の強さが増している事にアリシアとシュンは気付き、兵士に急がせる。城に辿り着くまでそれほどの時間は掛からないはずなのだが、どんどんと雨は酷くなって強風で馬車が揺れ始めた。そして馬車は突如として急停止し、大きく揺れる。
「きゃあっ!?な、何事ですか!?」
「こ、これは……!?」
「おい、何故急に止まった!?」
『ひ、姫様!!あれを見てください!!』
馬車を運転していた御者が声をかけると、アリシアは何事かと扉を開いて外の様子を伺う。その結果、前方に存在する城を発見し、城のあちこちから煙が上がっている事に気付く。
かつて茂が世話になっていたボウ城は何が起きたのかあちこちの城壁が破壊され、黒煙が舞い上がっていた。しかも多数の兵士達の死体が倒れている光景を確認すると、アリシアは嫌な予感を覚えて御者に命じた。
「これは……今すぐに引き返しなさい!!」
「し、しかし……この雨と風では馬車がもう持ちません!?」
「いいから早く!!」
「アリシア姫!?いったい何が!?」
アリシアはボウ城の様子を確認してただ事ではないと判断し、今のうちに引き返すように命じる。一方で瞬も何事が起きたのかと馬車から出てこようとした時、突如として空から雷が降り注ぎ、馬車の近くに落ちた。
雷鳴を耳にした馬たちは怯えて逃げようとすると、馬車に繋がっていた馬が勝手に暴れ出した事で御者は慌てて落ち着かせようとする。
「こ、こら!!落ち着け、落ち着くんだ!!」
「ヒヒンッ!?」
「ヒィンッ!!」
馬車に繋がった馬たちが暴れ始め、そのせいで冷静さを失った兵士達は馬を宥めるために馬車の外へ抜け出してしまう。その瞬間、何処からか無数の矢が放たれて兵士達の身体に降り注ぐ。
『ぎゃああああっ!?』
『ヒヒンッ!?』
「こ、これは!?」
「勇者様、馬車の中へ!!」
無数の矢が兵士と馬に降り注ぎ、咄嗟にアリシアは瞬の身体を掴んで馬車の中へ避難すると、二人以外の人間は矢の雨を浴びて地面に倒れ込む。馬車を引いていた馬たちも同様にやられ、それを確認したアリシアは「敵襲」だと判断した。
彼女はこのままでは敵に追い詰められると判断し、武器を抜く。しかし、今回の遠征には彼女が愛用する聖剣フラガラッハは手元には存在しない。何故ならば戦を仕掛けるわけではないのだから国宝である聖剣を無暗に持ち込むわけにはいかなかった。
「勇者様、お気を付けください……どうやら敵です」
「くっ、まさか魔王軍が!?」
「その可能性は高いです。今は様子を見ましょう……」
馬車の窓からアリシアと瞬は外の様子を伺い、敵が次にどのような行動に移るのかを待機する。外は大雨、馬車の馬たちは全滅、二人以外の兵士はもう残っていない。正に最悪の状況下ではあるが、瞬はアリシアだけでも守るために彼は剣を握りしめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます