第526話 農耕開始

――全ての準備が整うと、翌日から本格的な農耕が開始された。森の民の指導の元、500人の農民と1000人の警備隊が始めたのは農園と農場の製作であった。畑を耕すだけならば農民だけに頼らず、暇を持て余している兵士にも手伝わさせ、更には地属性の良質な魔石の発掘にも人手をやる。


すぐに王都から増員の兵士が送り込まれ、大規模な農耕が開始された。当初は農耕には相当な時間が要すると思われたが、この世界の農作物の成長速度は地球の日ではなく、なんと農民の称号を持つ者が育て上げた農作物は一か月足らずで育ち切った。


巨塔の大迷宮の周辺の土地一帯に大量の農作物が育て上げられ、地属性の魔石の肥料のお陰で大地の養分は漲り、予想を大きく上回る収穫量を確保した。更に巨塔の大迷宮の「草原」の階層にて採取した薬草の類も育てた所、農作物と同様に驚異的な成長速度で育つ事が判明した。



「やりましたよ!!見てください、この大量の薬草を!!やっぱり養分がある土地だと薬草も育ちやすいですね!!」

「こ、これは……凄いな、どれだけあるんだ!?」

「こんなにいっぱいの薬草、初めて見た」

「きゅろろ、この草は苦いから嫌い」

「いや、生で食べないでください!!折角育てたのに!?」



薬草栽培が行われている土地にも地属性の魔石を送り込んだ結果、肥料が変わった影響なのか薬草の成長速度と収穫量も跳ね上がり、これまで薬草不足に苛まれた問題も解決した。まさか肥料を変えるだけでここまでの成果が生まれるとは思わず、この結果には誰もが非常に喜ぶ。



「この調子ならば今まで以上の薬草の栽培も行えるはずです!!そうすれば食料問題どころか、大量の回復薬の製作も行えます!!これからは薬草を各国に流通させるのではなく、より効果の高い回復薬も販売できるようになりますよ!!」

「それって……凄い事なの?」

「何を言ってるんですか、普通に薬草を使うよりも回復薬の方が効果が高いんですよ!?きっと薬草以上の成果を生み出せます!!そうなれば他の国々も掌を返してケモノ王国との貿易を望むはずです!!」

「なるほど、ではすぐに手配しよう」



リリスの提案で今後はケモノ王国は他国に回復薬の販売も行い、薬草の流通だけでは留まらず、回復薬の販売も行う事に他国は真っ先に反応した。特にヒトノ帝国にとっては回復薬の存在は喉から手が出るほどに欲しい代物でもあった。





――しかし、先日の勇者の返還を拒否して以来、ケモノ王国とヒトノ帝国の関係は悪化していた。使者を追い返した後、ヒトノ帝国は一時的にケモノ王国への食料の配給を中止する。


元々ヒトノ帝国としては前回の薬草の支援の際、ケモノ王国から十分な量は受け取っていなかった。更に自国が召喚した勇者を勝手に迎え入れ、返還を拒否した時点でケモノ王国に対してヒトノ帝国は外交を中断する。国内の商人達にもケモノ王国との貿易を禁止させるほどの徹底ぶりだった。


しかし、よりにもよって外交を禁じた後にケモノ王国は薬草どころか回復薬の販売も大々的に行うようになると、ヒトノ帝国以外の国家が積極的にこの機にケモノ王国との関係を結び始める。巨人国、和国、その他諸々の小国がケモノ王国と良好な関係を結ぶために食料の支援や大量の金銭を支払い、ケモノ王国は急速的に発展していく。


ケモノ王国を追いつめるはずが逆に自分達が不利益を受けたヒトノ帝国側は追い詰められ、特に商人達の不満は爆発した。折角の稼ぎ相手との交易を禁じられたのだから当然と言えば当然の話でもあり、ヒトノ帝国の皇帝は非情に頭を悩ませる。




「――父上、やはりここは私が使者としてケモノ王国へ向かい、勇者様の一件を謝罪してケモノ王国との貿易を再開するようにすべきです」

「ぐぬぬっ……!!」

「皇帝陛下、僕達も霧崎君がケモノ王国に誘拐されたとは思えません。きっと、彼がケモノ王国に協力するのは理由があるはずです」

「そうだよ~あんなひどい事をするから怒って出ていったんだよ~」

「俺もそう思うぜ」



帝都の城では皇帝の元にアリシア、瞬、茂、雛の3名が集まっていた。彼等はケモノ王国との貿易を中断した皇帝を説得し、ケモノ王国との関係改善のために自分達が使者としてケモノ王国へ向かう事を告げる。



「陛下、冒険者ギルドや商人から薬草の流通量に関しての苦情が殺到しています。我が国で得られる薬草の収穫量だけでは限界があるのです。ここはケモノ王国の国王代理に謝罪を行い、薬草の供給を再開してもらいましょう」

「しかし、使者達の話によると国王代理は傲慢な態度で追い払ったそうではないか?小国の分際で大国の我々に対してなんと無礼な……」

「それは使者達の対応にも問題があったからでしょう。亡命した勇者様を一方的に返せなどと言われれば納得できるはずがありません」



皇帝は小国だと認識しているケモノ王国に対して自分達の方から頭を下げるような真似は出来ないと意地を張るが、そんな皇帝にアリシアは呆れた表情を浮かべた。

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