第525話 肥料の確保

「それでレアさん、例の肥料に関してはどうなったんですか?」

「森の民の話によると地中深くに埋まっている地属性の魔石が良質な肥料になるという話だが……」

「うん、大丈夫。その点はこの間、サンと一緒に確保してきたよ」

「きゅろろっ!!あの時は楽しかった、レアと一緒に泥まみれになった!!」

「ぷるぷるっ♪」



今回の農耕の前にレアはサンとクロミンを連れて先に巨塔の大迷宮の地方へ出発し、良質な地属性の魔石の確保のために動いた。森の民によれば農業を行う上では必ずや地属性の魔石を用意しなければならず、魔石が良質であればあるほどに肥料としては最高の素材になるらしい。


レアはサンとクロミンを引き連れて事前に魔石確保のために動き、まずはサンを一時期的に「サンドワーム」へと変化させる。サンドワームは普段から地中で暮らす生物のため、サンを連れていけば何かに役立つかと考えた。



『ギュロロッ』

『ここ?ここを掘ればいいの?』

『ぷるぷるっ』



適当にサンが地中を掘り進んでいると、彼女は大量の地属性の魔石の魔力を感じ取り、巨塔の大迷宮から少し離れた平地にてレアに穴を掘るように指示を出す。底から先はレアが人力で穴を掘る――わけでもなく、いつも通りに「文字変換」の能力を使用して大穴を作り出す。



『えっと……とりあえず、100メートルぐらいの大穴が出来ろ!!』



適当な小石を拾い上げてレアは解析の能力で名前を「大穴」と書き換えると、小石を地面に落とす。次の瞬間に深さが100メートルほどの巨大な穴が出来て危うくレアは落ちかけたが、寸前でサンが首を伸ばして拾い上げる。



『ギュロロッ!!』

『うわわっ!?た、助かったよサン……危うく死にかけた』

『ぷるぷるっ(落ちても僕がクッションになって助けられるのに)』



大穴を作り出したレアは底の方を確認し、ひとまずはロッククライミングの要領で降りていく。途中で何度か落ちそうになった時は岩壁をくり抜いてサンが助けてくれたため、どうにか落ちずに済んだ。


底の方へと辿り着くと大量の地属性の魔石が岩壁に埋まっている事が判明し、これらを持ち帰って森の民に確認させたところ、肥料としては十分な素材だと判明する。こうして大穴の方では地属性の魔石を取り出すための発掘作業員が送り込まれ、肥料の確保は成功した。



「あの時は大変だったよ、別の場所でも大穴を作ろうとしたら間欠泉が出てきてサンとクロミンが吹き飛ばされたから」

「あの時は暑くて死ぬかと思った」

「ぷるぷるっ(熱湯は勘弁してほしいぜ)」

「そ、そうか……そんな目にも遭っていたのか」

「相変わらずレア殿は規格外でござるな。しかし、肥料を確保できたのは喜ばしい事でござるが、この人数を一気に移動させて大丈夫でござるか?」



今回の農耕のために用意した人数は500人の農民と警備隊1000人、更には白狼騎士団の面々や兵士も連れてきているため、だいたい2000人が集まっている。今回はリル以外の者は殆どが同行している状態であり、これだけの巨塔の大迷宮に移動させても休む場所の問題があった。


これから彼等はここで大規模の農耕を行い、最低でも1年は暮らさなければならない。ハンゾウは事前に兵士を送って安全に兵士達が住む場所を用意するべきではないかと考えるが、その点もレアが事前に準備を行う。



「あ、巨塔の大迷宮が見えてきた……でも、前の時と何か違う」

「それはどういう……ぬおっ!?こ、これは……」



巨塔の大迷宮へと辿り着くと、そこには巨大な兵舎が二つ存在した。前に訪れたときはなかったはずの建物の出現にチイ達は驚くが、すぐにレアが説明する。



「そうそう、兵士が休めるように建物も用意しておいたんだよ。それとあちこちに石柱もあるでしょ?石柱には俺が改造した魔除けの石も設置しているから、ここら辺の魔物はもう近づく事も出来なくなったよ」

「た、確かに……魔物の気配が全く感じられないでござる」

「全く、お前という奴は……いや、だが助かった」

「流石はレア……そこに痺れる憧れる」



巨塔の大迷宮の周辺には石柱が建てられ、その上には魔除けの石が施されている。元々、大迷宮の付近では滅多に魔物が現れることはないのだがこれで完全に野生の魔物は立ち入れない地域と化す。


安全地帯を確保し、更には既に兵士達が暮らせる環境を整えたレアに女性陣は呆れるやら感心すればいいのか反応に困るが、これには同行していた森の民も驚く。彼等から見れば既にケモノ王国は農耕の準備を整えていた事に動揺を隠せない。



(まさか人手を集める前からこれだけの施設と環境を整えていたとは……ケモノ王国は本気で独立する気か、他国からの援助を得ずに国を保つ覚悟はできているのか)



サンの指導役として同行を願い出たリドは目の前の光景を見てケモノ王国が本気で農耕改革を起こそうとしている事を知り、冷や汗を流す。

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