第524話 農耕警備隊

「案ずるな!!お前達は確かに農民にはなれない。しかし、それを補って余りある才能を持っている!!」

「俺達が!?」

「そ、そんなの嘘だ!?」

「嘘じゃない!!お前は確か狩人の称号を持っていたな?事前の調査によると、お前は槍騎士の才能もある事が発覚した!!」

「えっ!?」



チイは志願者の一人の資料を確認すると、レアの解析の能力によって彼が「槍騎士」の称号を所持している事が発覚していた。他の者達も農民にはなれないが、戦闘に適した優れた称号を覚えられる資質の者も存在する。


志願者の中には薬剤師や治癒魔導士などという希少な称号の資質を持つ者も存在し、それらの人材は今のケモノ王国には必要な存在だった。彼等は農民として働いて役立つ事は出来ずとも、その他の分野で活躍する機会はあった。



「今からお前達に資料を渡す。その資料にはお前達に適した称号が記されている!!今の自分の称号に不満を抱いている物は資料に記された職業に変更する事もできる!!」

「ほ、本当ですか!?」

「俺にこんな才能が……!!」

「えっ!?私、魔術師の才能があったの!?」



資料を渡された者達は自分の知られざる資質を知って驚きを隠せず、現状の称号に不満を抱いていた者は特に戸惑う。そんな彼等に対してチイは宣言した。



「これから我々は農耕改革のために大規模な農場や農園を作り出す計画を練っている!!当然だが、魔物から守るために警備隊を組織しなければならない!!お前達はその警備隊に入る権利を与えよう!!」

「け、警備隊?」

「でも、俺は戦いたくないから志願したんですが……」

「残念ながら農民の称号を持たない人間には警備隊の仕事しか割り当てられない。しかし、仮に警備隊に所属して農場や農園を守るというのであれば農民と同じ給与を与える事を約束するとのお達しだ!!」



警備隊を組織するという言葉に志願者は驚き、戦闘を得意としない者は警備隊に入る事は躊躇したが、農民と同じ給与と聞いて少々悩む。



「自分の称号に関して悩む者もいるだろう、だが私達が出来るのはここまでだ。後はお前達が決めるしかない、警備隊に入って共に戦うか、あるいは称号を変化して別の道を探すかだ」

「え?じゃあ、警備隊に入らなくても転職の儀式は受けさせてもらえるのですか!?」

「ああ、それは約束しよう。それとある程度のレベルに上昇するまでは我々が面倒を見る事も約束する」

「本当ですか!?」

「至れり尽くせりだな……」



志願者達はチイの要求を断れば転職の儀式は受けられないと考えていたが、彼女の言葉を聞いて別に無理に警備隊に入る必要はないと知る。しばらくの間は悩んでいたが、やがて警備隊に志願する者が現れ始める。


警備隊に志願した者は自分の資質がある戦闘職の転職を希望し、一方で薬剤師や治癒魔導士などの資質を持つ者達は転職だけを希望し、後は別の仕事を斡旋してもらう者もいた。最後に戦闘職である事に悩んでいた者達は給与が高いという理由で悩んだ末に警備隊に志願した。



「俺達、本当に戦闘はてんで駄目なんですが……それでも入れてくれますか?」

「ああ、大丈夫だ。別に警備隊の仕事は戦うだけではない、時には農業も手伝って貰う。お前達には農民の支援班に手配しておこう」

「あ、ありがとうございます!!力仕事だけなら得意なんです!!」



チイの気遣いに警備隊に入る事を躊躇していた者達も決心し、遂には農民になれない者達も取り込む事に成功した。これでケモノ王国は一気に称号持ちの獣人を集める事に成功し、本格的な農耕の準備を行う――





――農耕の計画が開始されてから一か月の時が過ぎると、どうにか500人の農民を選別し、更に1000人近くの称号持ちの人間で結成された「農耕警備隊」を引き連れ、巨塔の大迷宮へと向かう。


流石に集めた称号持ち全員を取り入れる事は出来ず、高い給与を約束しようと転職だけが目的で離れる輩も多かった。希少な称号を手に入れればもっと楽な仕事で簡単に稼げる事も出来るため、転職だけを目的で志願する者もいた。最もそのような人材はレアが解析の能力をした時点で見抜く事が出来るため、その手の類の人間は面接の時点で落としたり、あるいは儀式を後回しにさせている。



「ど、どうにか半分集められた……」

「頑張りましたね、私達……でも、本番はこれからなんですよね」

「ああ、流石にこれ以上の人員は集めるのは難しいな」

「500人でござるか……これだけの人数で大丈夫でござろうか」



ケモノ王国に暮らす称号持ちの殆どをかき集めたつもりだが、その中でも農民の称号を所有する人間は結局は500人程度だった。リリスの想定では国を保つための農民は1000人は最低でも確保したかったが、生憎とその半分しか集められなかった。


予定の半分の人数しか集められなかった事は残念だが、それでも今回は森の民の協力もあり、まずは大量の肥料を確保する必要がある。そのため、今回はレアが動く予定だった。

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