第523話 レベル上げ
――転職希望者の面接を開始してから数日が経過し、農民の資質を持つ者が100人を越えた辺りから転職師のゼシンも儀式を行って転職希望者の称号の変化を実行した。
儀式の内容はゼシンが施した魔法陣の上に転職を望む人間を座らせ、そこから先はゼシンが魔法陣を発動させて対象の人間の称号を変更させる。この際にゼシンの意思では相手の称号を自由に変化させる事は出来ず、その人間の持つ職業の資質の中からランダムで選ばれる。
しかし、事前にレアが集めた者達は全員が「農民」の資質を持ち合わせているため、儀式を繰り返せば必ずいつかは農民の称号を得られる。晴れて農民の称号を手にした者達は早速ではあるが能力向上のために魔物と戦わされた。
「いいか、戦闘は俺達に任せろ!!お前達は止めを刺すだけでいい、ある程度のレベルまで上昇すれば無理にレベルを上げる必要はない!!お前達のために勇者殿が事前に用意した武器を渡す!!だが、決して盗もうとは考えるなよ!?」
「は、はい!!」
「勇者様の俺達のために武器をお貸しに……!?」
農民となった者達は白狼騎士団の護衛の下、彼等は王都の外に出向いて魔物と戦わされる。この時に彼等にはレアが事前に用意して落いた武器を貸し出す。
レアが用意した武器は解析と文字変換の能力で作り出した特殊性の武器であり、その武器には「経験値増量」や「経験値増大」などの経験値を増加させる能力が付与されている。これらの武器の類は元々は貴重な武器の資料を持って来たリリスがレアに確認させ、彼に同じ物を複製させて用意させた代物である。
武器を作り出す際は文字変換の文字数の無駄に消費しないため、武器の場合は「剣」防具の場合は「鎧」や「盾」といった1文字だけで複製を行う。内容さえ事前に知っている武器や防具の類ならば一文字だけでも作り出せる事はハンゾウが所持する聖剣を制作した際に確認済みであった。
「す、凄いぞこの武器!!こんなに簡単に魔物を倒せるなんて……」
「あいででっ!?れ、レベルを上げすぎて成長痛が……」
「成長痛を引き起こした者は一旦離れろ、すぐに用意してある回復薬を飲め!!」
「……リリス製作の王国印の回復薬、今なら1本銀貨1枚」
「金取るんですか!?」
レベルを急激に上昇した影響で成長痛を訴える者はリリスが用意した回復薬を引用して身体の痛みを和らげる。また、ある程度のレベルに達すると武器と防具は回収され、次の者に渡される。
「レベルが15まで上昇した者は今度は技能習得のために農作業へ移行する!!無暗にSPを使用して能力を覚えようとするな、農作業を続ければ自然と能力は覚える!!体力に自信が持てない人間は体力関連の固有スキルをSPで覚える事を勧めるぞ!!」
「分かりました!!」
「うおおっ!?身体が勝手に動く、農作業なんて今まで一度もやった事がないのに……」
レベルが上がった農民たちは一先ずは王都の近くに築いた農園にて作業を行い、農作業を繰り返す事で技能の習得を目指す。SPを使用せずとも、自分の職業に適した能力ならば自然と身に付けるはずのため、彼等は農作業を行いながら能力の習得に集中させる。
農民の称号を持つ者達は本能的に自分がどのように動くべきか身体が理解し、誰にも教わらずに畑の作り方や果物などの植物の育成方法を身に付けていた。しかし、転職を希望しながらも農民の称号を得られなかった者達に関してはチイが対応を行う。
「お前達は残念ながら農民になる事は出来ない!!だが、他の職業に関する資質がある事は確かだ!!今から資料を渡すから、自分がなりたい称号がある者は儀式を受けろ!!もしも気に入った称号が記されていない、どうしても農民になりたいという人間がいれば私の元へ来い!!」
「え!?農民になれないのに転職してもいいんですか?」
「構わない!!何ならばある程度のレベル上げを付き合ってやる!!仕事の斡旋を希望する者がいれば遠慮なく答えるがいい!!」
チイの発言に農民の資質が存在しなかった者達は歓喜し、特に今の称号に不満を抱いていた物はすぐに転職を希望し、自分に見合った資質の称号へと変化する。だが、中には仕事の斡旋だけを希望して転職をしない者もおり、彼等はどうしても仕事が欲しくてなりたくもないのに農民に希望する者も少なからずいた。
殆どの転職希望者は仕事の斡旋か、他の職業の変更に満足する中、一方でどうしても「農民」になって働きたいという者もいた。彼等は農民の称号に変化して働けば高給を貰えると聞いて志願したという。
「あの、農民として働けば高額な給金が支払われるという話は本当ですか!?」
「ああ、嘘ではない。仮に農民の称号を持つ人間ならば一般兵の3倍、仕事の成果によっては5倍の給料を支払う事を約束しよう。また、病気や怪我を負った場合の治療、及び治療費も王国が負担する事を約束する。仕事を開始して半年ほど働けば有給も与える事を約束する」
「し、信じられない!!その話、本当ですか!?」
「有給まで貰えるなんて……くそ、どうして俺は農民になれないんだ!!」
国を維持するための大規模な農耕のため、農民は必要不可欠な存在である。そのために彼等が不満を抱かないように最高の環境を整える必要があり、並の兵士よりも高額な給金と補償を与えるのは当然の話である。希望者達の中には農民になれない事を嘆く者もいたが、そんな彼等にチイは言葉を続ける。
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