第522話 転職の儀式

「もしかしたらだけど、俺の解析の能力なら「農民」の資質を持つ人も見分ける事が出来るかもしれない」

「えっ……そ、それは本当ですか!?」

「なるほど、その手がありましたか!!」



レアの言葉に盲点を突かれたとばかりにリリスは驚き、他の者達は戸惑う。確かにレアの「解析」の能力を使用すれば他の人間の情報を正確に読み取る事が出来る。


例えば他の職業に転職する場合、レアが解析を使用すればどのような職業に付けるのかを事前に見抜く事が出来る。後は農民の職業に変化するまで儀式を繰り返せばいいだけの話だった。



「リリス、集めた人と会ってもいいかな?試してみたいんだ」

「そういう事ならすぐに手配しましょう。ゼシンさんもいいですか?」

「は、はい……あ、転職の儀式の準備は必要なので今すぐにとはいきませんが」

「分かりました。なら準備が済み次第に試してみましょう」



こうしてレアは急遽集めた人員を一人ずつ解析の能力で分析し、農民の資質を持つ者達の厳選を行う――





――翌日、レアは王都に集められた転職を希望する者達と一人一人面会を行い、資質の確認を行う。基本的に面接方式で一人ずつ応対を行い、リリスが適当な質問をしている間にレアは横で解析の能力を発動させて資料に書き込む。



「ようこそいらっしゃいました。それでは今から色々と質問させてもらいますが、嘘偽りなく答えてください」

「は、はい!!」



緊張気味の女性の兵士が椅子に座り込み、その対面にレアとリリスが並んで座る。机の上に置かれた資料に手を伸ばし、ある程度の内容を確認しながらもレアは解析を発動させる。



(……うん、この子は資料通りの能力を持ち合わせているな。嘘は言ってない様子だし、それに「農民」の資質も持ち合わせている)



資料には転職を希望する人間達に書かせた現時点の称号と特技が記されており、仮に偽りの情報を記していればレアは解析で見抜く事が出来る。


資料と詳細画面の内容が一致しているのか確認し、女性兵には農民の資質がある事を確認するとレアは内密にリリスに合図を送り、質問を終えて次の人を呼ぶように指示を出す。



「貴女の人となりは分かりました。では、退室して次の方を及び下さい」

「えっ!?も、もういいんですか!?」

「はい、お疲れさまでした」



二、三質問しただけで部屋の退室を促された事に女性兵は戸惑うが、言われた通りに彼女は出ていく。その後は同じように次々と部屋の中に人が入り、だいたい1分程度の質疑応答を行って次の人を呼び出す。



「私は以前は冒険者ですが、実は結婚を考えている人がいるんです。しかし、彼女の父親が冒険者という危険な職業に就いた人間には娘を嫁にやる事は出来ないと言われて……」

「あ~はいはい、分かりました」



面接の感覚で質疑応答はリリスが基本的に行い、その間にレアは資料と解析で得た情報を照らし合わせ、一致していない人間がいた場合はリリスに警告を行う。



(この人、嘘を言ってるよ。自分が狩人である事に不満を抱いて他の職業に転職したいと考えている。恋人なんていないし、それっぽい事を言えば合格するだろうと思ってる)

(やれやれ、またその手の類の人ですか。仕方ありませんね、資質の方はどうですか?)

(ない、この人の資質は商人だけだよ)

(なるほど、では私の方で内密に処理しておきます)



虚言で自分の職業を変更しようする者に対してはリリスが後々に対処を行い、適当な理由を付けて彼等は雇い入れない事にしていた。今回の募集はあくまでも「農民」に転職して働きたいという人材だけを募集しており、嘘を告げて適当に他の職業に転職しようという人間は必要ない。


また、農民になる事を願っていても資質が存在しない人間に対しては保留扱いとなり、彼等の場合は後でリリスが考えた方法で「実験」を行う予定だった。実験といっても別に危害を加えるわけではないが、とりあえずは追い返さずに王都に留めておく。



「ふうっ……疲れた、ちょっと休憩しない」

「駄目すよ、まだ半分も見ていませんからね。もう少しだけ頑張りましょう、ちなみに農民の資質を持つ人はどれくらいいましたか?」

「えっと……50人ぐらい?意外といたね」

「50人ですか、だいたい200人程は面接したんですけどね。つまり獣人族の間では農民の資質を持つ人は4人に1人という割合ですか」

「だいたいどれくらいの人数がいればいいの?」

「そうですね……理想としてはヒトノ国の5分の1、2000人ぐらいですね。ですけど、森の民の協力で農耕技術も向上しましたし、だいたい半分でも問題はないでしょう。目標は1000人です」

「1000人か……つまり、単純に計算すれば5000人は面接しないといけないわけか。とほほ……」

「頑張りましょう、解析の能力を持つのはレアさんだけなんですからね」



自分の案とはいえ、これから毎日何百人の人間の面接を行う事にレアは苦労される事に頭を悩ませる。

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