第521話 転職師の職業変化条件
――転職師はこちらの世界では貴重な称号で森の民の中でも2人しか存在しない、その内の一人がケモノ王国に派遣された。転職師の称号を持つのは「ゼシン」という名前の少女のような風貌をした少年だった。
少年と言っても外見が少年のように見えるだけで実年齢は100才近くのエルフらしく、彼は転職師という立場上、森の民の中でも優遇されている。転職師の力を使用して彼は今までに何人ものエルフの称号を変化させていた。
「初めまして、ゼシンと申します。お初にお目にかかり、光栄です勇者様」
「初めまして……勇者のレアです」
「白狼騎士団副団長のチイだ」
「ケモノ王国専属治癒魔導士のリリスです」
レア達は転職師の能力を具体的に知るため、会議室にゼシンを呼び出す。こうして顔を合わせるのは実はレアも初めてであり、ゼシンの見た目は確かに女性のようにしか見えない整った顔立ちの少年のような風貌だった。その点ではレアと近しい雰囲気をしている。
「それでは早速ですが、転職師の能力の事を詳しく教えて貰えますか?」
「はい、分かりました。転職師とは――」
質問されたゼシンは転職師がどのような方法を用いて称号を変化させるのか具体的に説明を行う。まず、転職師は相手に対して「儀式」を行い、その儀式に相手が同意した時に限って称号を変化する事が出来るという。
この儀式とは転職師にしか描けない魔法陣を刻み、その上に称号持ちの人間を移動させると、転職師は能力を発揮できる。ちなみに魔法陣を肉体に直接刻む必要があるため、転職する際はタトゥーのように魔法陣の痕跡が残ってしまうらしい。
「転職の儀式を行った後、儀式を受けた人間のステータス画面が変化します。儀式が成功した場合、別の称号へと切り替わっているはずです。しかし、称号の選択はできませんので必ずしも望み通りの称号が手に入るとは限りません」
「それは……困ったな」
「まあ、確かに自由に別の称号に変化できるのならばとんでもない力ですからね」
残念ながら転職師の能力では自由自在に称号を変化できるわけではなく、転職する際は自動的にその人間に適した別の称号が刻まれるという。過去に「剣士」の称号を所持していた人間が転職の儀式を受けた場合、本人は「騎士」になりたがったが、結果は「狩人」と呼ばれる称号に変化した事もあった。
また、称号が変化した時点でその人間はレベルがリセットされ、職業専門の技能や固有スキルを失う。前者の例の場合だと剣士の称号を持っていた人間は「剣術」の技能を失い、レベルもリセットされてしまった。仮に騎士の称号に転職が成功していた場合は剣術の技能も失われる事はなかったが、職業に適していない技能や固有スキルは自然と消滅してしまう。
「よく勘違いされるのですが、転職の儀式を受けたとしても自分の望んだ称号になれるとは限りません。それに転職した場合はレベルもリセットされるため、能力の方も大きく低下します。一部の技能は引き継ぐことはできますが、次の称号に適していない能力は勝手に消えてしまいます」
「むうっ……それは困ったな」
「なら、望みの称号を手に入れるまで儀式を繰り返す事は出来るんですか?」
「それは……お勧めできません。転職の儀式は何度でも行う事は出来ますが、変化する称号の数は個人の資質で左右されます。そして大抵の場合は一人の人間が習得できる称号の数は多くても3つ、仮に一番最初の称号に戻れたとしてもレベルはリセットされているので能力は大きく低下した状態でしょう」
ゼシンの言葉を聞いてレア達はお互いの顔を見合わせ、予想外の事態に困る。転職師を仲間に出来れば農民の称号を持つ人間を増やせると思ったが、話を聞く限りではそれも難しいらしい。
「困りましたね、自分の称号に不満を持つ人たちを集めてきましたが、話を聞く限りでは転職させても農民になれるかどうかは運次第のようですね」
「自分の称号に不満を持つ人達?」
「言葉通りの意味だ。生まれ持った称号のせいで悩む者は意外と多い、戦う事が好きじゃないのに戦士や格闘家の称号を得たせいで自分の称号に見合った仕事しか出来ない者も多い。今回集めた称号持ちの人間の殆どが自分の称号に思い悩まされ、他の称号への転職を望む者を集めてきた」
「要は戦う事よりも別の事で役立ちたいという人を集めてきたんですよ」
レアは二人の言葉を聞いて納得し、確かに生まれ持った称号のせいで人生が思うように進まなかった人間も多い事は予想できた。仮に人を救うために医者を目指していた人間が格闘家の才能を持っているからといって格闘家を目指せと言われても納得できるはずがない。
才能があるからといっても当の本人が納得する職業でなければ意味はなく、結局は本当に求めていた夢を諦めて無難に自分に適する職業を選ぶ人間も多い。しかし、そんな彼等に一筋の希望を与えるのが転職師だった。だが、その肝心の転職師も彼等の望み通りの職業を与えられるかどうかは分からず、希望は潰えたかと思われた時、ここでレアはある事を思い出す。
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