第520話 森の民の農耕技術

――森の民から派遣されたエルフ達はケモノ王国で行われている農耕地に赴き、農作業の確認を行う。その結果、彼等からすればケモノ王国の農耕はあまりにも時代遅れでこんな方法では国内の民衆を養う食料の確保など不可能だと断言した。



「この数日の間、ケモノ王国の農耕技術を確認させてもらいましたが……正直に言えば酷すぎます」

「あ~……やっぱり、そうですか」



森の民から送り込まれたエルフの中で農作業を営む者達が集まり、会議室にて話し合いが行われる。リルの場合は多忙なので応対はリリスとチイが行い、レアも同席していた。


現時点でのケモノ王国の農耕技術では十分な食料の確保はできず、むしろ下手に農耕の規模を増やしても負担が増えるだけで逆効果である事を示す。



「まず、確認させてもらいましたがケモノ王国では農作業を行う際、肥料を魔物の排泄物を使用していますがこれだけでは不十分です」

「肥料に問題があるのか?」

「いえ、正確に言えば肥料だけでは足りないのです。肥料の他に地属性の魔石が必要です」

「魔石?農作業に魔石を使うんですか?」



エルフの言葉にリリスも驚き、彼女としても農作業を行うためだけに地属性の魔石を扱うなど知らなかったという。この方法は森の民が独自に見出した方法らしく、彼等によると地属性の魔石を利用すれば収穫量を何倍にも増やせるらしい。



「地属性の魔石がどのように入手できるのかは皆さんは知っていますか?」

「ケモノ王国では鉱山でしか発掘できない代物ですね」

「確かに地属性の魔石ならば鉱山でも手に入るでしょう。しかし、良質な地属性の魔石は地中深くでしか入手できません。つまり、地属性の良質な魔石を手に入れるためには地面を掘り起こす必要があるのです」

「なるほど、ですけどどれくらい深く掘り進めないといけないんですか?」

「具体的な数値は我々も把握していませんが、相当な深さまで掘り進めなければ手に入りません。簡単に地属性の魔石が手に入るのであれば苦労はしませんよ」

「まあ、それもそうですね」



ヨツバの森にて農作業で行う際、森の民は地中深くに埋まっている地属性の魔石を掘り返して利用しているらしく、この地属性の魔石を利用して彼等は通常以上の量の収穫を成功させていた。



「だが、地属性の魔石を使ってどのように農作業を行うのだ?」

「簡単な事です、地属性の魔石を粉末状になるまで磨り潰し、肥料と共に混ぜて大地に栄養を与える。これだけで収穫量は5倍、あるいはもっと増えるでしょう」

「えっ!?でも、魔石を壊せば内部に蓄積されている魔力は大丈夫なんですか?」



レアは先日の戦の時を思い返し、軍隊に対してレナは地中に埋め込んだ魔石に刺激を与えて破壊した。その結果、魔石の内側に蓄積した魔力が暴発し、凄まじい被害を敵軍に与えた事を思い出す。


魔石を破壊すれば魔力が暴発して大惨事を引き起こすというのがレナの見解だったが、森の民によると魔石に強い刺激を与えて破壊するのではなく、ヤスリのような物で少しずつ削り取れば暴発する心配はないという。



「魔石を破壊するのではなく、あくまでも削り取るだけならば暴発の危険性はありません。粉末状になった魔石の破片にも魔力が宿っているので、この粉末を肥料と共に大地に混ざれば栄養のある農作物が手に入るでしょう」

「そ、そんな方法があったとは……」

「盲点でしたね、まさか貴重な魔石を肥料代わりに使用するとは……」

「貴重と言ってもある程度の深度まで掘り進めれば地属性の魔石はいくらでも手に入ります。それに時間が経過すれば地属性の魔石は新たに誕生しますのでなくなる心配はありません」



地中から回収した地属性の魔石も時間が経過すれば新たな地属性の魔石が発掘できるようになるため、この方法を利用して森の民は農作業を行う。実際に森の民は農耕のお陰で常に食料不足に苛まれる事もなく、不作の年でも十分な量の食料を確保してきた。



「それと魔物が現れた時の対策として兵士を配置させる必要があります。ケモノ王国はどの程度の兵士を用意できますか?」

「そちらの方はリルさんが手配しています。それと農作業を行う人員も募集をしたところ、結構な数の人数を確保しました」

「では次の問題は「農民」の称号持ちの確保ですね。我々の中にも「農民」の称号を持つ者はいますが、それでも数が少なすぎます」

「転職師の方が称号を所持している人を農民に変えてくれるんですよね?」



森の民が派遣した転職師の力を借りれば称号を別の職業に変化させるという話だったはずだが、レアの言葉に対して森の民は難しい表情を浮かべる。



「皆さんは転職師の事を少し勘違いしているようですね……転職師が変化させられる職業に関しては個人の資質によって左右されます。つまり、転職師本人が自由に相手の称号を変化できるわけではないのです」

「そ、そうなのか!?」

「それは……困りましたね、折角今日の日のために称号持ちの人達を集めたというのに」



チイは驚いた声を上げ、リリスも難しい表情を浮かべる。二人は転職師の力を借りれば農民を増やす事が出来ると考えていたが、そんな簡単は話ではなかったらしい。

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