第515話 交換条件

「こちらの方は先日に巨塔の大迷宮を制覇した時に手に入れた武器です。森の民の方々は弓矢を得意武器としていると聞いたので持ってきました」

「こ、この弓は……!?」

「何と素晴らしい……!!」



大迷宮の宝物庫にて回収した弓矢を見せつけると、リドと長老は目を見開く。それほどまでに見事な代物らしく、彼等は弓矢に釘付けになっていた。大迷宮で保管されていた代物だけはあり、貴重な素材で構成された弓矢は正に名剣ならぬ名弓と呼ぶに相応しい代物だった。


森の中で暮らす者にとって火を生み出す事が出来る火属性の魔石や、傷を治すときに必要な聖属性の魔石は手に入りにくく、それらを大量に持参してレアは訪れていた。さらに彼等を納得させるためにレアはポーチも差し出す。



「このポーチはストレージバックと同じようにあらゆる物を収納できる機能を持っています。この中にはまだまだたくさんの魔石が入っていますのでどうかご確認下さい」

「あのストレージバックと同じ効果を持つ……!?そんな貴重品を我等に与えてくれるというのか!?」

「森の民の皆さんにはお世話になるので当然の事です。それと、こちらの方は俺からの手土産です」

「これは……魔除けの石か?」



レアは自分の能力で強化した魔除けの石を取り出すと長老とリドは戸惑いの表情を浮かべ、レアが取り出した魔除けの石はバスケットボールほどの大きさが存在した。魔除けの石に関しても森の民では手に入りにくい代物であり、更に言えばレアの取り出した魔除けの石の効果は市販で販売されている物の比ではない。



「この魔除けの石の石は半径数十メートルの魔物を近づけさせないほどの効果があります。これを砕いて里の周囲に配置すれば大抵の魔物は近寄る事も出来なくなると思います」

「た、確かに……凄い魔力の波動を感じるな」

「これほどの代物、いったい何処で……!?」

「他にもポーチの中には金貨が数百枚入っています。また、ケモノ王国に派遣される森の民の皆さんにも給与を与える事を確約します。どうか、この仕事を引き受けて貰えませんか?」

「む、むむうっ……」

「長老、私からもお願いします。この話、引き受けるべきかと……」



リドはレアが取り出した弓に夢中であり、一流の戦士として一級品の武器を見抜く観察眼は持ち合わせていた。一方で長老の方はケモノ王国側がここまでの報酬を用意するとは思わず、非常に断りにくい雰囲気ではあった。



(まさかケモノ王国側がここまでの報酬を用意するとは……勇者を派遣した時は何事かと思ったが、どうやらケモノ王国も我々と良好な関係を結びたいという事か)



勇者であるレアが送り込まれた事に長老は彼がケモノ王国ではいいように利用されているのではないかと考えていた。しかし、予想外の報酬の大きさに彼は考えを改め治し、勇者を派遣した本当の理由はケモノ王国が森の民との関係性を重視して王国にとっては重要な存在である彼を送り込んだのかと思う。


実際にケモノ王国側としても森の民との協力を得られればこれ以上に心強い事はない。彼等の力がなければ大規模な農耕が上手くいくはずがなく、どうしても今回の交渉は失敗するわけにいかなかった。



「……一先ずは今回の件は儂の方から族長へと報告を行う。今日の所はここで泊まり、明日に返事を行うというのはどうでしょうか?」

「あ、はい。分かりました」

「では勇者殿は本日は我が屋敷に泊まってくだされ、里の方を見て回りたいのであればそこのリドも連れて一緒に……」

「長老、その前にご報告があります」



長老は受け取った報酬の確認のあと、族長に報告へ向かうつもりだったが、ここでリドが口を挟む。真剣な表情を浮かべて昨日にレアの元に現れた暗殺者の件を話す。



「実は昨日、北里を納める戦士長が送り込んだと思われる暗殺者を捕縛しております。しかも、その暗殺者の狙いはどうやら勇者殿だったらしく……」

「何!?それはどういう事じゃ!?」

「捉えた暗殺者の武器には家紋が刻まれていました。こちらをご確認下さい」



リドがヨウ家の家紋が刻まれた武器を差し出すと長老は驚愕の表情を浮かべ、勇者の元に暗殺者が送り込まれたという事実に彼は顔色を変える。よりにもよって勇者の命を狙う等、許される行為ではない。


森の民はかつて治癒の勇者によって全滅の危機を免れ、それ以降は勇者を丁重に扱えという新たな掟が加えられた。その勇者をまさか森の民が始末するなどあってはならぬ話である。長老も勇者が不利益を催す存在ならば最悪の場合は手を掛ける事は考えていたが、それはあくまでも最後の手段であって別に彼自身は何の恨みもないレアを殺す理由はない。



「いったいどういう事だ!!何故、ヨウ家が勇者殿を殺そうとした!?」

「勇者殿の協力の元、捕まえた暗殺者によると命令を降したのは北里の戦士長で間違いないと……狙いは私の首だそうです」

「お、おのれ……あの不届きものが!!」



よりにもよって自分と同列の戦士長を陥れるためだけに勇者を狙ったという事に長老は激怒すると、彼はすぐに北里に存在する戦士長を呼び寄せるように命じた――

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