第514話 交渉
「それで勇者殿、本日のご用件は何ですかな?」
「それは……」
ここでレアは森の民に会いに訪れた理由を話し、現在のケモノ王国は他国からの援助無しでは国は成り立たない状況を脱するため、大々的な農耕を行う計画を話す。その農耕を成功させるには森の民の力を借りたい事を告げた。
農耕の話が出てきた事に長老は驚き、てっきり彼は勇者であるレアを利用してケモノ王国が森の民の戦力を借りたいのではないかと考えていた。だが、話しを聞けば農耕に力を貸して欲しいという内容に拍子抜けしてしまう。
(まさか我々の農耕技術を教えて貰うために勇者を派遣するとは……ケモノ王国は勇者を重要視していないのか?)
森の民の立場からすれば勇者を使者として送りつけ、しかも農耕技術を教えて欲しいという内容に長老は訝しく思う。いくら森の民がケモノ王国と一時的に対立していたとはいえ、今現在は不可侵条約を結んでいる。だからこそ別にわざわざ勇者を送り込まなくとも使者を用意すれば話ぐらいは聞くつもりだった。
(いや、勇者を送り込む事で我々の反応を伺っているのか?まあ、農耕技術を授けるぐらいならば問題はないが、森の民を外に出すのは少々面倒な問題だな……)
ケモノ王国側の要求は森の民から直々に指導を受けるため、指導役を派遣して欲しいという内容だった。本来、ヨツバの森のエルフは外部に出向く事を固く禁じられているが、長老は今回の件に関しては非常に思い悩む。
(さて、どうするべきか……ケモノ王国が窮地に陥ろうと我々には関係ない。しかし、勇者の言葉を無視する事は掟に反する。まあ、農耕技術を授けるだけならば問題はないだろうが、いったい誰を派遣するか……)
農耕技術を身に付けたエルフを派遣する事に長老は難色を示し、森の民を無暗に外部に送り込むのは抵抗感があった。しかし、ここでケモノ王国の要求を受け入れないと再び森の民とケモノ王国の関係が悪化する恐れがある。
別に森の民はケモノ王国に従っているわけではないので要求を断る事は出来るが、話に聞く限りでは勇者はケモノ王国に属しており、ここで断ると彼の立場がない。あり得ない事だがもしも今回の話し合いの責任を勇者に押し付けられた場合、森の民は大恩がある勇者に対して不義理を行った事になるのかと長老は悩む。
(むう、ケモノ王国の新しい王め……厄介な問題を持ち込みおって)
これが普通の使者ならばそのような要求は受け入れられないと突っぱねる事は出来たが、相手が勇者となると森の民も慎重に対応しなければならない。やがて長老は考え込んだ結果、報酬を尋ねる。
「話は分かりました。では、ケモノ王国側の報酬を先に提示してもらいたい」
「報酬ですか?」
「農耕技術を持つ森の民の派遣する事と引き換えに、ケモノ王国側は我々にどのような報酬を用意しているのかをお聞きしたい。いくら勇者殿の頼みとはいえ、無償で仕事を引き受ける事は出来ませんからな」
「あ、そうですよね」
レアは長老の言葉を聞いて納得し、長老としては話に見合う報酬を用意しなければ今回の話は断るつもりだった。ケモノ王国側がどのような報酬を用意しているのかを見極め、それに応じて仕事を引き受けるべきか否かを判断するつもりだった。
(もしも生半可な報酬を用意するようであればケモノ王国は我がヨツバの森の民を侮っている。その場合、勇者であろうと追い返させてもらうぞ)
ケモノ王国が提示する報酬の内容によっては長老は相手が勇者だろうと追い払い、仕事を引き受けるつもりはない事を決める。いくら勇者を大切に扱えという掟があるかあらといって、森の民に碌な利益を与えない仕事を引き受けるわけには行かない。
長老はケモノ王国側がどのような報酬を用意するつもりなのかとレアに尋ねると、レアの方はサンに視線を向け、彼女が所持していた鞄を持ってくるように促す。
「サン、例の物を」
「きゅろっ……はい、これ」
「……これは?」
レアがサンに声をかけると、彼女は自分が抱えていたポーチを取り出し、レアに渡す。それを確認した長老は訝し気な表情を浮かべるが、そんな彼の前でレアはポーチの中身を見せつける。
「これをよく見ていてください」
「よく見ろと言われても……ぬおっ!?」
「こ、これは!?」
ポーチの中身を見せつけた瞬間、長老とリドは驚いた声を上げる。何しろポーチの中身は暗闇の空間に覆われ、底が見えなかった。更にレアがポーチに手を伸ばすと、森の中で暮らす森の民が滅多に手に入りにくい火属性や聖属性の魔石を取り出す。
次々とレアはポーチから大量の魔石を取り出し、それを目の前に積み重ねる。その光景を目にして長老とリドは唖然とした表情を浮かべるが、更にレアは大迷宮で手に入れた「弓矢」を取り出す。
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