第513話 解析の勇者と長老

「どうかされましたかな?急に黙り込んで……それとも、我々には自分の能力を明かせないのですか?」

「あ、いえ……すいません。俺の能力は解析です」

「解析……?」



急に黙り込んだレアに対してリョクは疑問を抱くと、慌ててレアは自分の能力を明かす。但し、話すのはあくまでも解析の能力だけで「加護」の能力に関しては口にはしない。完全に信用できる相手と判断するまでは加護の能力は迂闊に口にしないようにした。



「俺の能力は相手の姿を見る事で発動する事が出来ます。能力を発動すると視界にステータス画面とは異なるが画面が表示され、相手の称号、性別、状態、レベル、特徴を見抜く事が出来ます」

「ふむ、鑑定士の鑑定と似たような能力という事か……しかし、特徴というのは聞いた事がないな。それはどういう意味ですかな?」



この世界には鑑定士と呼ばれる称号の人間も存在するらしく、彼等の鑑定は相手のステータス画面を見抜く事が出来るという。レアの解析と非常に酷似した能力ではあるが、レアの場合と違って彼等が見えるのはせいぜいが「称号」「性別」「状態」「レベル」の4つのみである。




――ちなみに鑑定士の能力はレベルに応じて精度が変化するらしく、例えば低レベルの鑑定士は高レベルの人間の鑑定してもステータス画面を完全には読み取れない。具体的にはステータス画面が文字化けを引き起こしたように正確には映らない。




一方でレアの解析の能力はレベル1の段階から相手のステータスを完全に見抜く事が出来るため、その点では鑑定士の鑑定の上位互換に位置する能力ともいえる。



「特徴というのはその人間がどんな人物なのか、もしくは今現在は何を考えているのかを見抜く事が出来ます」

「ほう、それが本当ならば凄い能力ですな。敵の捕虜から口を割らずともあらゆる情報を引き出せるという事ですかな?」

「はい、実際に前に暗殺者に襲われた時にもこの能力を使って正体を掴んだ事があります」

「きゅろ、その話は本当!!あの時は大変だった!!」

「こ、こら……大人同士の会話に口を挟んでは駄目だ」



レア達の会話を聞いていたサンが元気よく返事すると、リョクが彼女に視線を向け、慌ててリドがサンを落ち着かせる。レアの従者として従っていたのでここまで連れてきたが、大事な話し合いの場に存在するサンを見てリョクは首を傾げた。



「そちらの子供は?見たところ、ダークエルフのようだが……勇者殿の知り合いですかな?」

「あ、この子はうちが保護している子です……こう見えても腕が立ちますし、明るくて良い子なんです」

「ふむ、確かに普通のダークエルフではなさそうですな。何か、変わった気配を纏っているように感じる」

「きゅろっ?」



ダークエルフのサンを見てリョクは何か思うところがあり、彼の元戦士の直感がサンの才能を見出す。まだ子供ではあるが、彼女の戦士としての才能がある事を見抜いたのは長年戦士長として多くのエルフを指導してきたリョクだからこそ気付く事が出来たのだろう。


最も今はサンの事よりもレアとの話し合いを優先し、まずはレアの語る「解析」の能力を詳しく掘り下げる。彼は長老として勇者がどのような能力を持つのか知る必要があった。



(この少年、只者ではないな……一見は普通の少年にしか見えないが、この年齢どれほどの修羅場を潜り抜けてきたのか、凄まじい魔力を秘めておる。恐らく、レベルも相当に高いのだろう)



リョクは向かい合っただけでレアが只者ではない事を見抜き、もしも交渉が決裂してレアを敵に回すような場合に陥った時、事前に彼の情報を知っておく必要があった。


森の民は確かに過去に勇者に救われた経験があるため、後の時代に勇者が訪れた時は丁重に扱う掟が定められている。しかし、リョクとしては勇者よりも森の民の安全を優先し、もしも勇者が森の民に害を及ぼす存在ならば敵対する覚悟は抱いていた。


長い時を森の民は外界と遮断して暮らし続けてきたため、外部から訪れた者に対して強い警戒心を抱くのは仕方がない。しかし、話した限りではレアから何の悪意も感じられず、普通の人間の子供にしか見えなかった。だが、長年戦士として戦い続けたリョクの直感がレアが只者ではないと告げる。



(勇者という存在を目にするのは初めてだが、まさか他に召喚された勇者もこの少年のような存在だと考えるだけで頭が悩むな。ここは穏便に話し合いを済ませた方がいいか……)



対峙しているだけでレアの得体の知れない雰囲気にリョクは気圧され、表面上は冷静さを保ちながらも本題へと入る。レアの能力の事は気になったが、あまりに話題を長引かせるとレアの機嫌を損ねるかもしれず、率直に用件を尋ねた。

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