第512話 長老
「何だ?あの人間は……」
「侵入者かしら?でも、わざわざこんな場所まで……」
「中々可愛い顔をしてるわね」
「おい、そいつは誰なんだよ?」
街を通り過ぎる際、好奇心を抱いたエルフ達が話しかけるが、そんな彼等に対して森の民の戦士達はレアの事を隠すように通る。その様子を見てレアがただの人間ではない事を理解した住民達は増々興味を募らせた。
その一方でレアの方は街並みに視線を向け、どの建物も全てが木造製である事に気付く。森の民は外界との交流を立っているため、自給自足で生活している事を踏まえても建物も森から取れる素材だけで構成しているらしい。
「建物は木造製ばっかりですね」
「ああ、そういえば人間の国では煉瓦で建物を作るそうですが、我々の国では木造製の建物しか作りません。自然から得られる素材だけで作り出した建物だけが心に安らぎを与えてくれるので……」
「なるほど……」
エルフは自然を大事にする種族のため、だからこそ森の民は自然を破壊する人間をあまり好んではいない。そのために住民の中には人間であるレアを見てあからさまに嫌悪感を露にする輩もいた。
「何故、人間がこんな所に……」
「汚らわしい、始末するか?」
「止めろ、森の戦士達が連れている以上は何か理由があるんだろう」
初めて出会うエルフに対して敵意が混じった視線を向けられたレアは最初の頃に出会ったオウソウを思い出す。今の彼は割と従順にレアに従うが、最初の頃は酷く彼に反発していた。
一方でリド達はエルフ達の反応を見てレアの機嫌を損ねるのではないかと心配するが、彼等はレアが勇者である事を口にする事はない。それには理由があり、このままレアの素性を隠したまま彼を長老の元へと連れていく必要がある。
「さあ、辿り着きました。ここが集会所です、基本的には長老はここにいます」
「集会所……この建物が」
「きゅろっ……冒険者ギルドよりおっきい」
「ぷるるんっ……」
レア達の前に巨大な建物が存在し、冒険者ギルドよりも大きな建物だった。外見は四角形の建物をしており、人間の作り出す建物と違ってエルフの建築物は殆どがシンプルなデザインばかりだった。集会所も同じらしく、レアは森の戦士と戦士長リドと共に中に案内される――
――建物の中に通ると、レアはリドの案内の元で長老が待機するという部屋の元まで案内され、遂に森の民の現時点でのまとめ役である長老と対峙した。長老という名前の通りに年老いた老人が現れ、お互いに机を挟んで向かい合う形で座り込む。
「初めまして勇者殿……儂がヨツバの森の長老の任に就いているオチバと申す」
「は、初めまして……今代の勇者として召喚されたレアと申します」
相当な高齢だと思われるが、それでも元大将軍のガームにも負けず劣らずの威圧感を誇る長老に対してレアは縮こまり、そんな彼を見て長老は目を細める。
部屋の中にはリドも同席し、彼の隣にはサンとクロミンも大人しく座っていた。そちらの方に関しては長老はちらりと見た後、改めてレアと向き合う。
「レア殿とおっしゃられたな……其方が勇者であるというのは真か?」
「はい、ヒトノ帝国で勇者として召喚されました」
「では、能力を明かして貰えますからな?伝承によると、勇者はそれぞれが異なる特別な称号を持ち合わせていると聞いております」
長老の言葉を聞いてレアは勇者の事を良く知っている事に気付き、ケモノ王国の者達は勇者というだけでレアがどのような称号や能力を所持しているのか聞いた事がない。そもそも彼等は「勇者」そのものが称号と捉えている節がある。
質問された以上は答えなければならず、レアはまずは自分の称号をどのように説明するのか考え、とりあえずは信用できるまでは「文字変換」の能力の事は伏せて話す。
「俺の称号は解析の勇者です」
「解析……?歴代に召喚された勇者の中にはそのような称号を持つ者は聞いた事がありませんな」
「そうなんですか?」
「まあ、別に我々も全ての勇者と接触したわけではないので、もしかしたら過去に召喚された勇者の中にそのような人物もいたかもしれんが……それで、肝心の能力の方は教えて貰えますかな?」
長老は目つきを鋭くさせてレアを見つめると、レアは返答を間違えると彼からの信頼を得られないと直感的に判断し、ここで彼に「解析」を発動させた。
(解析……これは!?)
視界にオチバの詳細画面が表示され、その内容をみて驚く。老人ではあるが相当な修羅場を潜り抜けた猛者らしく、現役の戦士長にも勝るレベルを誇っていた。
――リョク・オチバ――
職業:戦士
性別:男
状態:腰痛
レベル:68
特徴:ヨツバの森の長老を務める前は東里の戦士長として活躍していた。先代の長老が死亡後に次の長老へと指名され、それを引き受けて戦士を引退して長老の座に就いた。現在は族長の代理としてヨツバの森の管理を行う。最近は年齢のせいか腰痛に悩まされており、仕事中以外は寝たきりである事が多い
――――――
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