第511話 戦士長との対峙

――クエエエエッ!!



多数のグリフォンが鳴き声を上げながら中里が存在する湖の島へ飛び、遂にレアは森の民の族長と長老が暮らす場所に足を踏み入れる。ここから先の交渉が非常に重要となるため、緊張を隠せない。


その一方でサンの方は楽しそうにグリフォンを操作して誰よりも前に飛び出す。他のエルフも慌てて後に続くが、サンが操るグリフォンに追いつく事は出来ない。長年、グリフォンを従えているエルフ達よりもサンの方がグリフォンを乗りこなしている事に戦士長のリドは彼女の才能を感じた。



(やはりこの子は天才だ!!大人になるまで鍛え上げれば立派な戦士になれる!!しかし、外部の者を他の者が受け入れてくれるかどうか……)



リドとしてはサンを鍛え上げ、立派な戦士に育てて森の民に加えたいと思っていた。だが、外部で暮らしていたエルフを森の民に加えるかどうかを決められる権利は戦士長にはなく、長老か族長の許可を得なければならない。そもそもサンを連れてきた勇者のレアから許可を得なければならない。



(勇者殿の機嫌を損ねればあの子も森の民に加える事は出来ない。しかし、これだけの才能を持つ者を放置する等できない。どうにか勇者殿の機嫌を損ねず、説得する方法を考えなければ……)



サンの才能を見抜いたリドはどうにか彼女を自分の指導で育て上げる方法を考える中、ここで中里の方から翼を生やした白馬に跨ったエルフ達が登場する。彼等はリドが従える森の民の戦士よりも立派な装備を整え、中里へ近づいてくるリド達の前を遮る。



「止まれ!!それ以上、近づくな!!お前達は何者か!?」

「きゅろっ?」

「えっ?」

「待て!!私は東里の戦士長を務めるリドだ!!」



グリフォンに乗ったサンに対して翼を生やした白馬に跨ったエルフ達は武器を構えるが、慌ててリドが間に割って入る。ここでレアはエルフ達が乗っている翼を生やした白馬の正体を調べるため、解析を発動させた。



(解析……なるほど、やっぱりペガサスか)



解析を発動させて白馬の正体を調べると、大方の予想通りに「ペガサス」という名前の魔獣である事が判明した。以前にもレイナは見かけたことがあるが、こちらの前回に遭遇したペガサスよりも大きかった。。


ペガサスに跨ったエルフの戦士達はどうやら中里の警護を行う部隊らしく、戦士長のリドの顔を見て彼等は驚く。相手が戦士長と知って彼等は敬礼を行い、急な来訪の理由を問う。



「リド戦士長でしたか、これは失礼しました。しかし、急にどうなされたのですか?事前に連絡を寄越してくれれば我々の方から出迎えに参りましたが……」

「急用なのだ。ここを通してくれ、この御方を族長と長老に紹介したい」

「人間を……ですか?」



リドがレアを紹介するとエルフ達は訝し気な表情を浮かべ、どうしてたかが人間如きを森の民を纏める立場にある族長と長老に紹介しなければならないのかと疑問を抱く。しかし、そんな彼等に対してリドは叱りつけた。



「この御方は只の人間ではない、異界から召喚された勇者殿だ!!無礼が態度は改めろ!!」

「ゆ、勇者殿!?」

「そ、それは真ですか?」

「無礼をお許しください!!」

「あ、いや……別にいいですよ」

「えっへん、レアは偉い人!!」

「ぷるるんっ(えっへん)」



相手が勇者だとしってエルフ達は態度を改め、その様子を見たサンとクロミンは胸を張る。まさか相手が勇者だとは思いもしなかったエルフ達は慌てて中里まで誘導し、出入り口まで案内を行う。



「こちらへどうぞ、勇者殿……戦士長、すぐに長老へ報告しに参りますのでこちらで待機して下さい」

「うむ、急いでくれ。それと勇者殿と別件で俺も長老に用事がある」

「え?」



長老に報告へ向かおうとしたエルフに対してリドは耳元で何事かを囁き、その話を聞いたエルフは驚いた表情を浮かべるが、すぐに頷いて報告へと向かう――






――それからしばらく時間が経過すると、すぐにレア達は里の中へと通される。どうやら長老からの許可を降りたらしく、レアはエルフに囲まれながらも里の中を案内された。


湖に浮かんでいるとはいえ、森の民が暮らす島はかなり大きく、里や集落というよりは街が出来上がっていた。森の民の大半はこの島の上で暮らしているらしく、驚くべきことに大きな農場も存在した。


周囲を湖に覆われているので外敵から襲われる事はなく、しかもペガサスを従えたエルフの戦士が常に島の警護を行っているため、魔物から襲われる心配もない。また、世界樹の周辺では魔物が滅多に近寄らないらしく、中里に暮らすエルフ達は平和に暮らしているという。


そんな街中にレアは足を踏み入れると、住民達は驚愕や困惑の表情を浮かべて彼を見つめ、どうして人間がこの里の中にいるのかと戸惑う。しかもレアと共に歩いているのが東里の戦士長となれば只者ではない事は明白だった。

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