第508話 命を狙う存在

「勇者殿、今の音はいったい……貴様、何者だ!?」

「ぐうっ……!?」



リドは外にまで吹き飛ばされた侵入者に視線を向け、即座に手にしていた剣を引き抜く。その一方で侵入者の方は立ち上がろうとしたが、碌に身体も動けないのか苦痛の表情を浮かべたまま起き上がる事も出来ない様子だった。


侵入者を確認したリドは剣を抜いて侵入者の元に向かい、口元を隠す布を取り払う。そして顔を確認して目を見開き、侵入者の正体はエルフの男性である事を知る。



「貴様は……!?」

「……うぐっ」

「なっ!?しまった、毒を……吐き出せ!!」



侵入者はどうやら口内に自害用の毒を口に含んでいたらしく、その場で泡を噴いて倒れ込む。その様子を見てリドはもう助からないと判断したが、その前にレアが動き出す。



「その人を見せてください!!」

「えっ?」

「早く!!」

「は、はい!!」



レアの鬼気迫る気迫にリドは従うと、侵入者の男の顔を覗き込み、解析の能力を発動した。すると視界に侵入者の詳細画面が表示され、完全に事切れる前ならばレアの解析の能力は通じるはずだった。



――シン・ヨウ――


職業:暗殺者


性別:男


状態:重体


レベル:27


特徴:ヨツバの森に暮らす森の民にしてヨウ家と呼ばれる貴族の出自だが、当主と愛人との間に生まれた子供のため、正式な跡取りではない。幼少期から暗殺者として育てられ上げ、当主の命令で勇者の暗殺に赴く。目的は勇者を殺害する事でリドに罪を被せ、彼を戦士長の座から追い払うつもりだった



―――――――――




視界に表示された画面を確認してレアは驚き、色々と気になるところはあるが今はシンという名前の青年を助けるために文字変換の能力を発動させる、指先を光らせて空中に何かを書き込むレアを見てリドは動揺の声を上げる。



「勇者殿、何を……」

「はい、これで大丈夫だと思います」

「っ……!?」



レアの言葉を聞いてリドは侵入者に顔を向けると、いつの間にか泡を噴いて倒れていた侵入者の顔色が良くなっている事に気付き、彼は胸元に耳を押し当てると心臓の鼓動も正常に戻っている事を知った。


先ほどまでは毒を引用して死にかけていた侵入者が復活を果たした事にリドは驚き、いったい何をしたのかとレアに振り返る。しかし、レアの方は「シン・ヨウ」という名前の侵入者に顔を向け、一先ずは彼を拘束して閉じ込めるように促す。



「この人は捕まえて下さい。今度は死なれないようにしっかりと見張りを付けておいてください」

「あ、ああ……お前達、何をしている!!早くこの男を牢へ連れていけ!!」

「は、はい!!」



リドの言葉に屋敷の護衛を行っていた者達が駆けつけ、急いでシン・ヨウを運び込む。その様子を見送ったレアは一先ずはこれで大丈夫かと思う反面、リドには色々と聞きたいことがあった――






――騒動の後、リドの部屋に招かれたレアは彼と向かい合うように座る。昼までは彼と友好的な関係を築いていたと思っていたレアだったが、よりにもよって彼の屋敷に侵入者が現れてレアの命を狙った件に関しては流石に簡単に許すわけにはいかない。



「申し訳ございませんでした、勇者殿!!」

「頭を上げてください、まずはどうして俺の命を狙われたのか理由を教えてください」

「は、はいっ!!」



リドは見た目はただの少年であるはずのレアから尋常ではない気迫を感じ取り、冷や汗を流す。現在、彼の部屋にはリドとレアしか存在せず、今回の件の言い訳をリドの口からレアは聞こうとした。


解析の能力で侵入者の正体は見破り、リドが無関係である事はレアも承知している。だが、だからといってリドに何の責任もないわけではないため、彼を攻めるようにレアは尋ねた。



「俺の命を狙ってきたのは何者だったんですか?」

「恐らく、他の里の森の民で間違いありません。我々も顔を見た事はなく、現在は尋問を行って何者であるかを吐かせようとしているのですが……」

「ならどうして俺の命を狙ってきたのか理由は分からないんですか?」

「申し訳ありません……恐らく、勇者殿の命を狙ってきたのは狙いは勇者殿ではなく、私なのでしょう」

「それはどういう意味ですか?」



勇者の自分ではなく、自分を狙ってきたというリドの言葉にレアは先ほどの「解析」で得た情報を思い出す。リドは包み隠さず、彼が狙われる理由を語る。



「実は私は貴族の出自ではないのですが、武功を立てる事で戦士長の座に就きました。しかし、その事を快く思わない貴族の出身のリョクという男が存在し、この者はヨウ家の当主を務めているのですが、同時に北里の戦士長を務めてもいます」

「そのリョクという人がリドさんを狙う理由は?」

「単純に平民だった私が戦士長の座に就く事が我慢ならないのでしょう。他の3人の戦士長は貴族なのに対し、私だけは平民の出自でありながら戦士長の座に就いた。その事はリョクにとっては気に入らず、何度も族長や長老に掛け合って私を戦士長の座から離れるように進言した程です」

「なるほど……」



同じ戦士長といっても貴族の出自ではないリドが自分と同格である事がリョクという人物は気に入らず、前々から彼の事を狙っていたという。

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