第505話 サンの秘めた才能

「きゅろろろっ♪」

「クエエエッ!!」

「ば、馬鹿なっ……空を飛ぶグリフォンを乗りこなしているだと!?」

「あ、あり得ない!!私達でも乗りこなすのに半年は最低でも訓練しないといけないのに……それをあんな子供が!?」

「グリフォンと心を完全に一つにしなければ乗りこなせいはずなのに!!」



空を翔けるグリフォンの背中ではしゃぐサンを見てエルフ達は騒ぎ立て、一方でレアもサンの姿を見て驚く。どうやらグリフォンの言葉を理解できるサンは意思を通じ合わせる事が出来るらしく、周囲を旋回するとやがて満足したのか地上へと降り立つ。


戻ってきたサンを前にしてエルフ達は戸惑い、リドでさえもサンの行動に動揺を隠せない。自分達が用意したグリフォンを瞬く間に手懐け、しかも完璧に乗りこなしたという事実に彼等はサンの才能の恐ろしさを知る。



「し、信じられない……勇者様、この子は天才だ!!こんな短時間でグリフォンを乗りこなせるエルフなど聞いた事もない!!」

「サンが天災?」

「字が違うよ……でも、よく空を飛べたね。よしよし、サンは凄い子だな」

「きゅろろっ♪」



レアがサンの頭を撫でると彼女は嬉しそうにレアの背中に飛びつき、その様子を見てエルフ達は唖然とする。グリフォンを初めて乗って完璧に扱いこなすエルフなど今までに一人もおらず、サンの高い才能に気付いたリドは冷や汗を流す。



(この子は紛れもない天才だ!!間違いなく、今から育て上げれば超一流の戦士となれる!!これほど逸材、逃すわけにはいかん……しかし、勇者様の従者となると迂闊には声を掛けられん)



サンの才能を高く買ったリドはどうしても彼女が欲しいと思った。欲しいといっても別に変な意味ではなく、自分が指導を行って彼女を立派な戦士に育てたいという風に考える。


戦士長として長年の間、数多くのエルフを立派に育て上げたリドはサンの才能を見抜き、彼女は自分の元で修行すれば誰よりも優れた戦士になると考えた。しかし、そのためには彼女の保護者であるレアに許可を得なければならない。



(この御方の機嫌を損ねるような真似は出来ん……ここは何としても森の民の未来のため、この子供を預けて貰えるように印象を良くしなければ!!)



見た限りではレアはサンの事を妹のように可愛がっている事は間違いないため、彼の機嫌を損ねればサンを引き取る事など出来ない。リドは戦士達に視線を向け、自分の考えをくみ取らせるとここからはより一層にレアの事は丁重に取り扱うように命じる――






――その後、グリフォンに乗ったレアはリドの先導の元で森の中を突き進み、やがて大きな渓谷の前へと辿り着く。この渓谷を越えれば森の民が暮らす里まですぐに辿り着けるらしく、渓谷を越える準備を行う。



「勇者様、ここを越えれば我等が暮らす東里へと辿り着けます」

「東里?」

「森の民の戦士は東西南北に別れて別々の集落を作り出しています。そして東西南北の里の中央に存在するのがヨツバの里です。今日の所は東里へ立ち寄り、身体を休めた後に明日の朝にヨツバの里へ向かいましょう」

「分かりました。でも、この渓谷はどうやって渡るんですか?」



レアは渓谷を見下ろし、随分と底が深い事を確認する。向かい側までかなりの距離があるため、グリフォンが空を飛ばない限りは渡る事は難しそうではあるが、ここでリドは戦士達に合図を送るように手拍子を行う。



「お前達、撒き餌を用意しろ!!」

「はっ!!」

「撒き餌?」

「この渓谷を渡るためにはある魔物の力を借りなければなりません。その魔物を引き寄せる餌がこちらです」



女性のエルフがレアの疑問に答えるように何処からか大きな肉を取り出す。それを見てレアは不思議に思い、この肉で何をするつもりなのかと考えると、エルフ達は肉に紐を括り付けて渓谷へ向けて投げ込む。


その行為を見たレアは驚くが、肉が投げ込まれた瞬間、向かい側の渓谷の岩壁に亀裂が走り、やがて派手な土煙を巻き上げながらレアも見覚えのある魔物が出現した。



「ギュロロロロッ!!」

「きゅろっ!?」

「サンドワーム!?」

「今だ、肉を引き寄せろ!!」



全体が灰色の皮膚で覆われた巨大なサンドワームが出現したかと思うと、空中に浮かんでいた肉に嚙り付く。それを確認したリドはエルフ達に指示を出すと、彼等は力を合わせて引っ張り込む。


グリフォンの力を借りて肉に嚙り付いたサンドワームを引き寄せると、長い胴体が渓谷の橋代わりとなり、サンドワームが肉に夢中の間にリドはレアを乗せたグリフォンに渡るように指示を出す。



「今のうちです!!さあ、早くお通り下さい!!」

「ええっ!?」

「勇者様、こちらです!!」



女性のエルフが勇者のグリフォンを先導し、サンドワームの背中に乗り込むと、そのまま渓谷の向かい側まで走り抜ける。その際にサンは橋の代わりに利用されたサンドワームに視線を向け、何か言いたげそうな表情を浮かべた。

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