第504話 ヨツバの里
「レア様、お気をつけて……」
「くれぐれも油断するなよ……隊長」
「うん、ありがとう。じゃあ、行こうかサン」
「きゅろっ」
「ぷるぷるっ」
レアはサンの手を繋ぎ、クロミンを抱えると森の民の案内の元で森の中へと入り込む。森と言っても全ての樹木が巨木といっても過言ではなく、近づいてみて改めてレアは巨木の大きさに驚かされる。
ヨツバの森は広大で森の民の先導がなければ間違いなく道に迷い、更に凶悪な危険種指定された魔物も多数生息するという。レアは途中までは徒歩で移動していたが、ある程度まで森の奥へと移動すると、リドが口笛を吹く。
「勇者様、ここから先は我々が飼育している騎獣へお乗りください」
「騎獣?」
シロやウルのような狼型の魔獣でも呼び寄せるのかと思ったレアだったが、森の中から鷹のような鳴き声が鳴り響き、姿を現したのは鷹と獅子が組み合わさったような生物が登場した。
「クエエエエッ!!」
「うわっ!?びっくりした!!」
「はははっ……勇者様はグリフォンを見るのは初めてですかな?大丈夫、外見と違って意外と人懐っこい奴等です」
レアの前に十数体のグリフォンが姿を現すと、エルフ達の前に立ち止まり、腰を屈めて乗るように促す。普通の馬よりも一回りや二回りは大きく、その背中にリドは乗り込むように促す。
初めて見るグリフォンにレアは戸惑いながらも背中に乗ると、サンも楽しそうな声を上げてクロミンを抱えた状態で飛び乗る。二人が乗り込むとグリフォンは起き上がり、挨拶するように首を向けてきた。
「クエエッ!!」
「おっとっと……よ、よろしく」
「レア、この子の名前はグリだって言ってる!!よろしく、グリ!!」
「……えっ!?ど、どうしてその子の名前を知っているのですか!?」
鳴き声を聞いたサンがグリフォンの名前を告げると、近くにいた女性のエルフが驚き、グリフォンの名前を言い当てた事に驚く。慌ててレアはそれを誤魔化すようにサンの口を塞ぐ。
「い、いやいや!!この子は初めて見る動物の名前を付けたがるんですよ!!へえ、偶然同じ名前だったんだ。それはびっくりだ!!」
「ふがふがっ……?」
「そ、そうですか……まあ、確かにありきたりな名前ですよね」
エルフはレアの説明に納得し、いわれてみればグリフォンだからグリという名前を子供が付けてもおかしくはない。レアはサンが魔物の言葉をある程度理解できる事をどうにか誤魔化した事に安堵した。
これからはサンの動向を見張る必要があり、レアは油断しないようにしっかりと彼女を抱き寄せる。その様子を見てまるで親子や兄妹のように子供を守ろうとしているようにしか見えず、他種族であるダークエルフのサンを大切に扱うレアにエルフ達は好印象を抱く。
(子供を連れてきたときは驚いたが、大切に扱っているようだな。それにしてもダークエルフとは……こんなに年端もいかない子供が実の家族を失い、今まで生きてきたとは可哀想に)
リドはサンを見て不憫に思い、実は彼もサンと同じぐらいの年齢の娘がいるため、サンの境遇を聞いて同情する。だが、当のサン本人は特に自分の境遇に関しては何も感じず、むしろレア達と一緒に居られるのならば満足だった。
「では、出発しましょう。グリフォンは我々が誘導しますのでどうかご安心下さい」
「わかりました。よろしくね、えっと……グリリン」
「クエエッ(勝手にリンを付け足さないでよ)」
レアの言葉にグリフォンは不満そう嘴をつつき、そんなグリフォンの頭を撫でながらもレアは初めて乗る空を飛ぶ生き物に内心ドキドキとしていた。この翼でグリフォンが空を飛んでいくのかと思ったが、ここでリドが口を挟む。
「ご安心ください、グリフォンは誰かを乗せている間は空を飛ぶ事はあり得ませんので」
「えっ!?飛ばないんですか?」
「いえ、空を飛行するグリフォンを乗りこなすのは熟練の技術が必要なので……初めて乗る勇者様では難しいでしょう」
「そ、そうなんですか……仕方ありませんね」
「きゅろろっ……」
内心では空を飛ぶグリフォンに乗って移動できるのかと期待していたレアだったが、リドの言葉を聞いてあからさまにがっかりしてしまう。
しかし、ここでレアの背中にしがみついていたサンは何を思ったのか、誰も乗っていないのグリフォンに視線を向けて飛び込む。
「とうっ!!」
「クエッ!?」
「サン!?急にどうしたの!?」
「こ、こら!!グリフォンに飛び乗るな、興奮して背中から落とされるぞ!!」
「ほら、危ないから降りなさい!!」
サンの行動にレアは驚き、エルフ達は慌ててグリフォンから引き剥がそうとするが、当のサンはグリフォンの身体を撫でると耳元に何か囁き、空を見上げて呟く。
「飛んで!!」
「クエエエッ!!」
『えっ!?』
「ぷるんっ!?」
サンを乗せたグリフォンは彼女の命令を聞いて翼を広げ、地上を疾走すると勢いを付けて空へ飛び込む。その光景を見たエルフ達は唖然とした表情を浮かべ、レアも素直に驚く。
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