第503話 勇者の試練

――立ち合いを終えると森の民はレアの前に跪き、勇者であるレアに大して無礼な態度を取った事を謝罪する。戦士長であるリドは部下の前にも関わらずに深々と頭を下げた。



「勇者殿、誠に申し訳ございません!!貴方様こそ間違いなく勇者、それをこんな試すような真似をして……!!」

「いや、別にいいですよ。信じてくれるのなら……」

「そういってくれるのは有難いです……しかし、言い訳をさせて貰えるのならば我々も勇者以外の存在をこの森に招く事は許されない立場の身、本物の勇者であるかどうかを確かめる必要があったのです」

「いえ、本当に気にしてないので……」



何度も頭を下げてくるリドに対してレアは慌てふためいて顔を上げるように促し、別に自分の事を勇者と信じてくれるのならばレアとしてはこれ以上は責めるつもりはなかった。そんなレアの優しさにリドは内心は安堵しながらも、彼がこの地へ訪れた理由を問う。



「それでは勇者殿、本日はどのようなご用件でこの地に訪れたのでしょうか?」

「あ、はい。実は森の民の力を借りたいんですが……」



レアはここに訪れるまでの経緯を話し、現在の自分はケモノ王国に世話になっている事、そしてケモノ王国が自分を受け入れた事でヒトノ帝国との関係に少々亀裂が入った事を伝える。


ケモノ王国は今後は他国からの援助を受けずに国として保つため、大々的な農耕を行う計画を立てている事まで話す。そして農耕の際には森の民の力が必要な事を伝えた。



「……という事でここまで来たんです。どうか森の民の力を貸してくれませんか?」

「な、なるほど……農耕ですか、確かに我々は農耕も行っていますし、その点の知識に関してはケモノ王国の住民よりも詳しいでしょう。しかし、転職師に関しては……」

「やっぱり、問題ありますか?」



話を聞き終えたリド達は困った表情を浮かべて顔を見合わせ、残念ながらリドの一存ではレアの要求を受け入れるかどうかは決められる事ではない。内容が内容だけにリドとしても上の人間に相談しなければならず、彼はレアに対して提案を行う。



「勇者殿、これから勇者殿を我が里まで案内しましょう。そこで先ほどの話を長老に直接お伝えして貰えませんか?」

「長老?」

「現在、このヨツバの森を仕切っている族長は病で伏せており、今現在は長老が管理を行っています。従って長老の許可を得れば先ほどの話も協力できると思います。なので我々の里まで御同行を願えますか?」

「待ってください、それはレア様だけを里へ招くという事ですか?それでは我々は同行できないのですか?」



ここでレアの護衛役として同行していたティナが口を挟むと、リドは表情を一変させて淡々とした口調で告げる。



「当然だろう、外部の人間で我が森に立ち寄る事は出来るのは勇者様のみだ。仮にケモノ王国の国王がここへ訪れようと我々の里に入る事は許さん」

「何だと!?俺達は隊長の護衛だぞ!!」

「言っておくが我々の中に勇者様に害を為そうと考える不届きな輩は存在しない。だから護衛などは不要だ、お前達はここで待っているがいい。食料と休む場所に関しては用意してやる」

「何っ!!」

「オウソウ、落ち着きなさい!!」



一方的なリドの言葉にオウソウは怒りを抱くが、それをティナが抑える。彼女もリドの言い分には色々と思うところはあるが、森の民との協力が得られるかもしれないのに話をこじらせるわけにはいかない。


レアも駄目元で彼等を連れていけないのかを頼むが、リドは断固として勇者以外の余所者の立ち入りは認めず、ティナたちを連れていく事は出来なかった。だが、ここでサンとクロミンが間に割り込む。



「きゅろっ!!サンはだーくえるふだからレアについていく!!」

「お主は……確かに人間ではないな、それにダークエルフだと?」

「まだ生き残りがいたのか……しかも子供ではないか」

「両親はいないのか?」



ダークエルフであるサンが声をかけるとリド達の態度も変化し、自分達と同じくエルフの血が流れるダークエルフのサンならば受け入れても構わないと考える。



「勇者殿、このダークエルフの子供はどのようなご関係なのですか?」

「えっと……山奥で一人で暮らしていたのを保護したんです。家族ともはぐれたようで……ずっと人と接する事が出来ずに暮らしていたので言葉もちょっとおかしな部分もありますけど、凄くいい子ですよ」

「きゅろっ!!レアはサンが守る!!」

「何と健気な……」

「家族から見放され、山奥に捨てられていたのか……可哀想に」



レアの話を聞いたエルフたちはサンに対して同情した表情を浮かべ、ティナたちと違って彼等はダークエルフに対するサンに対しては冷たい態度は取らなかった。


ダークエルフといっても同族の血が流れているのならば見捨てる事は出来ず、リドも子供が一人同行した所で問題はないと許可してくれた。



「分かりました。そういう事ならばその子供の同行は認めましょう」

「ありがとうございます!!あ、この子も連れて行ってですか?サンも可愛がってるんですけど……」

「ぷるんっ(←つぶらな瞳を向ける)」

「スライムですか……まあ、別にスライム1匹なら構わないでしょう」



サンの頭に乗ったクロミンを見てリドは特に気にした風もなく許可を出す。基本的にスライムは人畜無害の魔物なので受け入れても問題ないと判断したリドは許可すると、彼はレアとサンとクロミンを連れて森の中へと招く。

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