第502話 立ち合い

「だけど、いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて……」

「その点に関しては申し訳ない、だが我々としても本物の勇者かどうかを確かめる必要があったのだ」

「では、今のでレア様の実力を認めてくれたのですね」

『…………』



ティナの言葉に森の民は黙り込み、確かに今のレナの反応と剣技は素晴らしかった。しかし、それでも彼の事を勇者だとは完全には認められないのかリドは剣を手にした男を前に出す。



「この者は我が部隊の中でも一番の剣の腕を誇る。なのでこの場でそちらの勇者殿と立ち合って貰えないだろうか?」

「リュウと申す、どうか私と立ち合いを……」

「まだレア様の事を勇者だとは認められないのですか!?」

「生憎だが、我々としても勇者が本物かどうかを確かめてから上に報告しなければならん。もしも勇者でない者を出迎えたら我々の命はないのだ。どうか、お願い申す」

「はあっ……いいですよ、じゃあ戦いましょうか」

「レア?いいの?」



リドの言葉を聞いてレアはため息を吐きながらも背中に腰に差していたフラガラッハを引き抜き、リュウと名乗る剣士の元へ向かう。サンが少し心配そうな声を上げるが、そんな彼女の頭を撫でる。


サンを見たリドはここで彼女がダークエルフである事を知り、少し意外そうな表情を浮かべる。しかし、すぐにリュウとレアに視線を向け、二人は向かい合う。



「試合の合図は?」

「では……この矢が地面に落ちた時が試合開始としよう」



レアの問いかけにリドは矢を取り出すと上空へ向けて撃ち込む。その矢を目で追ったレアは地上に落ちるまでの間を待ち続けるが、ここでリュウは剣を握りしめると気合の雄たけびを放つ。



「かああっ!!」

「うわっ!?」

「これは……魔法剣!?レア様、油断しないでください!!」

「魔法剣だと!?まさか、魔法剣士か!!」



リュウの手にした剣の刀身に風の魔力で構成された渦巻が発生し、それを確認したティナとオウソウは驚愕の声を上げる。その二人の反応を見て嫌な予感を覚えたレナはフラガラッハを構えると、リュウは動き出す。


彼は剣を振るうと強烈な風圧を発生させ、地面へ落ちてきた矢を強制的に加速させて地面に叩き落す。その光景を確認したレアはリュウが仕掛けると思って武器を構えると、リュウは離れた場所から剣を振り抜く。



「風斬り!!」

「うわっ!?」



竜巻を纏った刃をリュウが振り抜いた瞬間、かまいたちの如き斬撃がレアの元へと迫り、反射的にレアは飛びのくと地面に衝撃が走る。それを見たレアはもしも自分が動いていなかったら肉体が斬られていた事を知る。


相手が剣士と聞いて接近戦を警戒していたが、まさか遠距離からも攻撃できるという事にレアは驚き、一方でリュウの方は剣を幾度も負ってレアへ「風の斬撃」を放つ。その光景を見てリドは険しい表情を浮かべた。



(リュウは我が部隊の中では一番の魔法剣の使い手、どうする勇者!?)



リドはリュウの攻撃に対してレアがどのように対処するのか見極めると、次々と繰り出される風の斬撃に対してレアはフラガラッハを構えると、勢いよく地面に踏み込んで風の斬撃に刃を放つ。



「このぉっ!!」

「馬鹿なっ!?」



風の斬撃をフラガラッハの一撃でレアは吹き飛ばし、そのままリュウの元へ直進した。そのレアの行動にリュウは驚愕の表情を浮かべ、まさか力業で自分の風の斬撃が無効化されるなど思いもしなかったのだろう。


フラガラッハを構えたレアはリュウの元へと接近する際中、アスカロンも抜いて両手に剣を構えた状態で向かう。それに対してリュウは距離を取ろうとしたが、レアはここで「瞬動術」を発動させる。俊足の固有スキルも手にした今のレアの最高速度は瞬間移動の如き速度でリュウに接近し、彼の剣を弾く。



「はあっ!!」

「ぐあっ!?」

「りゅ、リュウ!?」

「馬鹿な、あのリュウが……!!」



レアの振り上げた一撃で彼の剣は上空へ弾かれ、続けてレアが突き出したアスカロンがリュウの喉元に触れる寸前で停止した。その光景を見て森の民は動揺の声を上げ、リドの方もまさかこうも早く決着が付くとは思わずに焦りの声を上げる。



(馬鹿な、何だ今のは……まさか「縮地」か!?あの高速接近術を扱える者があの御方以外に居たのか!?)



リュウに刃を構えたレアに大してリドは信じられない表情を浮かべ、彼の眼にはリドの前に一瞬でレアが移動したかのようにしか見えず、その姿を見たリドは「縮地」と呼ばれる固有スキルの存在を思い出す。


縮地とはまるで瞬間移動の如き速度で移動する「高速接近術」であり、彼の知る中で縮地を扱える者は森の民の中でも1人しかいない。そしてレアの場合はその「縮地」と同程度の移動速度が扱えるという事にリドは脅威を抱き、同時に彼はレアが本物の勇者だと認めた。





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