第501話 森の民の対応

「あれが……森の民?」

「きゅろっ……強そう」

「ぷるるんっ(肌が震えるぜ)」

「ぷるんっ(スライムなのに肌あるの!?)」



現れたエルフの集団を確認してレア達は緊張し、スライムであるクロミンとシルも何かを感じ取ったのか落ち着かない様子だった。やがてエルフの集団の中から外見は中年男性のようなエルフが前に出ると、腕を組んだ状態でレア達と向かい合う。



「我々はヨツバの森を守る戦士だ。そして私は戦士長を務めるリドだ」

「……初めまして、勇者のレアと申します」

「勇者、だと?」

「あの噂の……」

「本当にまだ子供ではないか……」



レアが自己紹介を行うとエルフたちは驚いた表情を浮かべ、彼等の耳にもレアの噂は届いていたが、本当に見た目は15、6才程度の人間の子供にしか見えない事に驚く。


戦士長のリドと名乗った男はレアの事を見定めるような視線を向け、やがて彼は何を考えたのか背中に抱えていた弓矢を抜くとレアに目掛けて構える。その行動にティナとオウソウは咄嗟にレアを庇おうとしたが、二人が動き出すよりも早くリドは矢を射抜いた。



(嘘!?)



自分に目掛けて躊躇なく矢を放ってきたリドに対してレアは驚くが、迫りくる矢を確認してレアは咄嗟に腰に差していたアスカロンを掴み、矢の先端の鏃に向けて刃を振り抜く。その結果、アスカロンの切断力によって矢は真っ二つに切り裂かれ、地面へと落ちる。


まるで剣の達人の如く、正面から放たれた矢を切り裂いたレアにエルフや白狼騎士団の面々は驚き、ティナでさえも動揺を隠せない。だが、一番に焦っているのはレアであり、まさかいきなり攻撃されるとは思わずに咄嗟に身体が反応してしまった。



(あ、危なかった……いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて何を考えてるんだこの人!?)



リルの話ではレアが勇者である事を伝えれば森の民も受け入れてくれるという話だったが、何の躊躇もなく攻撃を仕掛けてきたリドに対してレアは多少の怒りを込めて睨みつける。すると、レアの「威圧」を感じたリドは冷や汗を流し、一方で白狼騎士団の面々も武器を取り出す。



「おのれ!!よくも隊長に矢を!!」

「我々と戦うつもりか!!」

「そちらがその気ならば戦うぞ!!」

「待ちなさい!!」



レアに攻撃を仕掛けてきた事に騎士達は憤ってエルフの集団に迫ろうとするが、ティナが一括して彼等を落ち着かせる。年齢は若いがティナは現役の黄金級冒険者として覇気を放ち、彼女の言葉を聞いた者達は動きを止めた。


しかし、騎士達を止めたティナの方もリドの行動に対しては内心では怒りを抱き、よくも自分の大切なレアに手を出そうとしたなとばかりに彼に睨みつける。レアとティナの迫力にリドは冷や汗を流し、まるで大型の魔獣2体と向き合っているような感覚を覚えながらも言葉を漏らす。



「……すまなかった、今のは確かに我々に否がある事を認める」

「否があるだと!?命を狙っておいてその程度の謝罪で許せというのか!!」

「待て、今の攻撃はその男が勇者であるかどうかを確かめるために必要だった!!それに最初から当てるつもりはなかった。我等の魔弓術ならばその男に当たる前に矢の軌道を変化する事も容易い、信じてくれ!!」

「……魔弓術?」



オウソウの言葉にリドは言い返すと、レアは「魔弓術」という初めて聞く単語に疑問を抱き、一方でティナの方は心当たりがあるのか口を挟む。



「魔弓術……それはエルフのみが扱えるといわれている魔法と弓術を組み合わせた技術の事ですか?」

「そ、その通りだ……我々は矢に風の魔力を纏わせる事で威力や攻撃の軌道を変化させる事が出来る。先ほどの攻撃もそちらの男が何もしなければ矢の軌道を変化させて当たらないようにするつもりだった」

「その言葉を信じろというのか!?」

「嘘ではない!!それを証明しよう……あの空を飛んでいる鳥を射抜く、よく見ていいろ」



リドは自分の言葉を証明するために空を飛んでいる鳥を確認する。鳥が飛んでいる高度は地上から200メートル以上も離れており、その鳥を確認したリドは矢を番える。


鳥に矢を当てて落とすつもりなのかとレアは思ったが、リドはどういう事なのか上空に向けて矢を構えず、見当違いの方向へ向けて彼は矢を放つ。リドの行動にレアは驚いたが、解き放たれた矢は軌道を突如として変化すると、上空へ向けて飛翔し、空を飛ぶ鳥を射抜く。



ッ――!?



鳥の頭部にリドの矢は突き刺さると、地上へ向けて落下していく。その光景を見てレア達は驚き、一方でエルフの集団は誇らしげな表情を浮かべる。



「見ての通りだ。我々は矢の軌道を自由に変化する事ができる……だが、確かに急に矢を射抜いた事に関しては謝罪しよう。本当にすまなかった」

「むうっ……!!」



リドが頭を下げるとオウソウも何も言えず、確かに彼は実際に矢の軌道を大きく変化させ、空中を飛ぶ鳥の小さな頭に見事に矢を的中させた。これだけの芸当が出来るのならばレアに射抜いた矢も彼に命中しないように操作出来た可能性は高い。

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