第500話 勇者と森の民
「勇者に命を救われた森の民はそれ以降、後々に召喚された勇者のために力を貸してくれるようになりました。次世代の勇者の事を助けて欲しいというのが治癒の勇者の遺言を守り、森の民は勇者が救いを求める時は力を貸してくれるようになったそうです」
「な、なるほど……」
「つまり勇者であるレア君が使者に最適な人材なんだ。無理を承知で頼むが、どうか勇者として森の民に力を貸して欲しい事を伝えてくれるか?」
「分かりました。そういう事なら頑張ります……でも、俺一人で行くんですか?」
「う~ん……今回ばかりは私達が出向くと話がこじれそうですからね。もしも同行しても森の民はレアさん以外の人を受け入れるかどうか、あっ!!でもサンなら可能性はあります」
「サン?」
ここでサンの名前が出てきた事にレイナは驚き、彼女の種族が現在は「ダークエルフ」である事を思い出したリリスは彼女も連れて行けば力になるかもしれないと判断した。
「ダークエルフのサンなら森の民にも受け入れられるかもしれません。エルフは同族に対して仲間意識は強いですからね。きっと受け入れられるでしょう」
「そうか、なるほど……分かった。それならサンも連れていくよ」
「そういう事ならクロミンも念のために連れて行くといいですね。万が一の場合を想定してサンのペットと言い張ればいいんです」
「クロミンも?」
「よし、それならすぐに準備を進めよう」
リルは森の民にレイナ改めレアを送り込むための準備を行い、まさか手ぶらで会いに行くわけにはいかない。だが、完全な自給自足で生活を行う森の民が欲しがりそうな物など見当もつかず、結局は以前の大迷宮で確保した魔石の類などを贈り物として用意させ、使者としてレアを派遣した――
――王都を出発してから馬車で三日ほど時間が経過すると、遂にレアは森の民が暮らす「ヨツバの森」と呼ばれる樹海へと到達した。到着して早々にレアの目を見張ったのは樹木の大きさであり、樹木の一つ一つが高層ビルほどの大きさを誇る。
あまりにも巨大な樹木で構成された森を見てレアは呆気に取られ、しかも馬車は樹海の手前に到着すると勝手に止まってしまう。馬車を引く馬たちがこれ以上先に進む事を拒むように動かず、御者と護衛を務めるオウソウが困った声を上げた。
「こら、動け!!ぬうっ……駄目だ、馬どもが怯えてこれ以上先に進もうとはしない」
「という事はここから先は徒歩という事ですか……レア様、途中まで同行します」
「ありがとう、ティナ」
「ぷるんっ(助かる)」
「ぷるるんっ(いいってことよ)」
今回の旅路には護衛役として白狼騎士団の面々とティナも同行していた。彼等は森の中に入る事は出来ないがレアが帰還するまでの間、樹海の外で待機し続けるつもりだった。
万が一にもレアが戻ってこない場合、ケモノ王国は森の民からレアを奪還するために動かなければならない。実際にもしも何の連絡もなくレアが戻ってこないような事態に陥れば軍隊を動かす準備も進めていた。ケモノ王国としてもレアの存在は国にとって必要不可欠な存在と化している。
「レア様、お気をつけてください。ここから先はケモノ王国の領地ではありません」
「大丈夫、サンとクロミンもいるから平気」
「きゅろっ!!サンがレイナを守る!!」
「ぷるぷるっ(ゴーレムでも火竜でもかかってこいや)」
サンはレアの手を繋ぎ、クロミンもやる気に満ちた表情を浮かべてレアの頭の上に乗り込むと、白狼騎士団とティナも引き連れてレアは樹海へと近づく。接近すればするほどに樹海を構成する樹木の巨大さを思い知らされ、威圧感さえも感じてしまう。
やがて樹海の手前へと辿り着くと、突如として先頭を歩いていたレアの足元に矢が突き刺さる。それを確認したティナとオウソウは武器を構えて前へ乗り出すと、森の方から声が響く。
『動くな!!ここから先は我等、森の民の地だ!!いったい何の用があって近づいてきた!?』
「この声は……」
「森の民のようですね……やはり、見張りがいましたか」
何処からか聞こえてくる声にレアは驚き、ティナも警戒したように周囲を見渡す。だが、何処から矢を射たのかは特定できず、声の方もまるでスピーカーでも使用しているかのように遠くから話しかけられているようだった。
『質問に答えろ!!ここから先は森の民の地だ!!人間のお前達が何用でここへ来た!?』
「我々はケモノ王国から派遣された使者です!!どうか森の民の長と話し合いがしたい、国王代理のリル様からの贈り物も持参しました!!」
『……少し待っていろ!!』
ティナが大声を上げて言葉を返すと、森の方から聞こえてきた声が途切れ、しばらくの間は沈黙が訪れる。やがて森の奥から20名近くのエルフが出現した。どうやら彼等が森の民らしく、全員が武装した状態でレア達の元へと近づいてきた。
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