第499話 ケモノ王国と森の民の関係

――ケモノ王国が建国される前から森の民と呼ばれるエルフたちは後に「ヨツバの森」と呼ばれる樹海へ暮らし、彼等は自然の恵みだけで生活していた。しかし、そんな彼等の元に傲慢な人間の使者が訪れ、勝手に貢物を要求してきた。


当然だが森の民はこの一方的な要求に激怒し、自分達の方が先にこの地に暮らしていたのに勝手に領地の所有権を主張し、税金と貢物を納めるように言い出してきた人間に彼等は許せなかった。当時の森の民は二度と来ないように使者を痛めつけてから追い返す。


結果から言えば初代国王はこの森の民の行動に怒り狂い、自分達が国を築き上げた時点でヨツバの森もケモノ王国の領地だと認識していた彼は軍隊を派遣した。要求に従わなければ森を焼き尽くせという命令も受けた当時の軍隊は森の民が暮らす樹海へと赴く。


しかし、結果から言えば軍隊は森の民に壊滅させられた。樹海の中には道らしき道など存在せず、しかも凶悪な魔獣が生息していたので身体を休める暇もなく、更には森の民が度々奇襲を仕掛けてきた。彼等は自然物の毒を使用した矢を撃ち込み、確実に兵士達を討ち取る。


遂には自棄になって軍隊は国王の命令通りに樹海を焼き払おうとしたが、ヨツバの森は定期的に大雨が降り注ぎ、炎など簡単に消されてしまう。結局は万を超える規模の軍隊は撤退を余儀なくされ、王都へ帰還したのはわずか数百名の兵士だけだった。




結局は森の民によって軍隊は壊滅させられ、不用意に森の民を刺激してしまった事で初代国王は信望を失い、すぐに世代交代をしてしまう。次の国王は森の民との関係をこれ以上に拗らせないため、彼等と不可侵条約を結ぶ。


ケモノ王国に存在しながらもヨツバの森に関してはあくまでも森の民の土地であり、ヨツバの森はケモノ王国の領地ではない。そもそも彼等の方が先に暮らしていたのだから後になって土地の所有権を言い張る方がおかしな話であり、こうしてケモノ王国は不可侵条約を結んで彼等が暮らすヨツバの森には何人も立ち入らないようにさせた。





「――森の民はケモノ王国の領民ではなく、ヨツバの森に関しても森の民の所有物だと認められている。だからケモノ王国の命令に従う事はあり得ない、つまり森の民の力を借りるには相応の対価を用意してから彼等と会わなければならないだろう」

「相応の対価?お金とかですか?」

「いや、森の民はそもそも森の外に出る事は滅多にない。仮に私達が扱う通貨を支払たところで彼等には使い道がないだろう。となると、ここは実用性のある物を用意した方がいい」

「森の民が貰って喜びそうな物ですか……そう言われると難しいですね。見当もつきませんよ」

「そもそもケモノ王国と森の民は不可侵条約を結んでいるから互いに不干渉を約束しているのでは?こちらから接触しようとしても相手側が警戒させる可能性もあると思うでござる」

「ああ、だからこそ送り込む使者は慎重に考えなければならない。という事でレイナ君、よろしく頼むよ」

「えっ!?」



さらりととんでもない発言をしたリルにレイナは驚愕の表情を浮かべ、ハンゾウも流石に驚いた大口を開くが、リリスは納得したように頷く。



「確かに私達の中ではレイナさんが、いや勇者であえるレアさんが適任ですね」

「ど、どういう事!?どうして俺が使者!?」

「ケモノ王国の関係者を送り込んだとしても森の民を警戒させます。しかし、勇者となると話は別なんです。実は森の民は勇者とも深い関りがあるんです。彼等は過去に一度だけケモノ王国が召喚した勇者に助けを求めた事があるんですよ」



リリスによると森の民は不可侵条約を結んでからしばらくの年月が経過した後、ある時の森の中で謎の病が発生したという。この病のせいで森の民は大勢の被害者が誕生し、このままでは全滅は免れなかった。


そんな時にケモノ王国で召喚された勇者の中には「治癒」と呼ばれる特殊な称号の勇者が存在すると知り、この治癒の勇者はあらゆる病気や病を癒す能力を持っていた。噂を聞きつけた森の民の住民は勇者の元に赴き、助けを求める。


当時の勇者は快く彼等の願いを引き受け、治癒の能力で病に侵された者達を助け出し、更には病の原因を突き止めて除去したという。この事もあって森の民は勇者に深く感謝を示し、この時に勇者に対して彼等は薬草の栽培の技術を教えたという。


現在のケモノ王国が薬草の栽培が盛んな理由は基を正せば治癒の勇者が森の民から教わった薬草栽培の専門知識が伝わったお陰でもあり、食料不足という危機を迎えながらもケモノ王国が国として成り立っているのは薬草の栽培技術のお陰で貴重な薬草を大量生産し、他の国に流通させる見返りに援助を受けているからであった。そう考えると治癒の勇者の功績は大きく、実際にケモノ王国では彼の事を神格化する宗教も存在するほどだった。

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