第497話 旧王都

「そういえば今までは聞きそびれていたんですけど、この国ではどうやって勇者召喚が行われていたんですか?というか、俺が元の世界に帰る方法はありますか?」

「あ、その件に関しては私の方が調べておきましたよ。結果から言えば、残念ながらケモノ王国ではレイナさんを元の世界に戻すのは難しいですね」

「難しい?」



レイナがケモノ王国に訪れた理由はこちらの国でも地球から勇者が召喚されたという話を聞き、元の世界に戻る手がかりが掴める可能性もあったのでリル達に同行してこの国へ訪れた。その件に関しては転生者であるリリスが事前に調べており、彼女は調査の結果を伝えた。



「過去の文献によると勇者が召喚されたのは王都の王城だと伝えられていますが、実際の所はこの王都ではなく、旧王都の王城で召喚されたらしいんです」

「旧王都?」

「ああ、そういえば僕も父上から聞いた事がある。何代か前の国王の時代に魔物の被害によって都が壊滅し、現在の王都が存在する場所に遷都を行ったという話を聞いた事がある。旧王都とはこの国で最初に作り出された都の事だろう」

「じゃあ、その旧王都はどうなったんですか?」

「それが旧王都の情報に関しては一切残っていないんですよ。巨塔の大迷宮のときにように明らかに過去の文献が何者かに改竄か、あるいは処分されていますね」

「という事は旧王都の居場所は分からないのでござるか?」

「残念ながら……元々は国の王都として栄えていた場所なんだから何らかの手がかりが残っていてもおかしくはないんですが、今のところは旧王都と思わしき場所は見つかっていません」



リリスの調査を以てしても「旧王都」に関する情報は碌に得られず、そこが何処に存在するのか、どのように勇者が召喚されたのかまでは分からないという。転生者であるリリスの言葉は信用できるため、彼女が嘘を吐いて隠しているとはレイナも思わなかった。


現状では旧王都に関する手がかりはないため、やはりレイナが元の世界に帰還するのは先延ばしになってしまった。だが、旧王都という存在を知る事が出来たのは喜ばしく、その場所を見つけ出して調査すれば勇者がどのような方法で召喚されたのかが判明し、元の世界へ戻る方法も分かる可能性もある。



「まあ、旧王都の調査の方は私に任せてください。それよりも当面の問題は食料ですね。現在のケモノ王国は他国の食料の配給がなければ国としては成り立たないぐらいです」

「その通りだ。だが、もしも食料問題を解決し、自給自足で暮らせるようになればヒトノ帝国の援助を打ち切れる。そうなれば薬草の提供の問題も解決するだろう」



ケモノ王国は貴重な薬草を大量に栽培してヒトノ帝国に引き渡す条件で食料の援助を受けていた。過去に何度も戦に発展した両国だが、どちらも薬草と食料という優位があったからこそ、同盟国として上手く付き合っていた。


だが、薬草の不作が続いたケモノ王国は窮地に立たされ、このままでは食料の援助が打ち切られる可能性も高い。それを打破するには食料問題を解決しなければならず、やはり一番に期待されるのは「農耕」だった。



「ケモノ王国でも農耕が出来れば食料問題の解決に繋がると思うんだが……やはり、そうなると魔物の被害対策を考えなければならないな」

「でも、農耕するといっても時間が掛かりますからね。それにヒトノ帝国の農作物は質が高い物ばかりですから、仮に農耕が成功して農作物を採取できるよになっても質が悪ければ民衆からも文句を言われそうですね」

「だが、農耕が出来れば一気に食料問題は解決するのは確かだ。問題があるとすれば土地だな……大々的に行うのであれば人手も大量に必要になる。いったいどこから手を出すか……」

「う~ん……」



農耕を行う場合、必要となるのは土地と人手と魔物の対抗手段だった。ケモノ王国が現在他国から援助を受けている食料分の農作物を入手する場合、相当に広大な農場を作り出さなければならず、相当な時間と手間が掛かると考えられた。



「魔物の出現率が低く、それでいながら大規模な農場を作り出せるほどの広大な土地……駄目だ、全く思いつかないな」

「むう、困ったでござるな」

「う~ん、そんな条件を満たす場所なんて都合よくありますかね」

「……あっ」



リル達が頭を悩ませる中、レイナは話を聞いていてある場所の事を思い出す。広大な土地でしかも魔物が近寄る事も少なく、それでいながら多くの人間が興味を集める場所をレイナは告げた。



「あの……巨塔の大迷宮はどうですか?」

「……巨塔の大迷宮?」

「あの場所って、確か魔物は大迷宮の付近には寄り付かないんですよね。大迷宮の周囲は草原に囲まれてるから障害物もないし、近くに川も通っていたし、それに大迷宮の近くは確か魔物が寄り付きにくいんですよね?」

『……あっ』



レイナの言葉にリル達は思い出したような表情を浮かべ、確かに巨塔の大迷宮は全ての条件を満たしていた。

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