第496話 ケモノ王国の問題

――帝国からの使者を追い返した後、リルはレイナ達を呼び出して話し合いを行う。今回の会議の参加者はレイナ、チイ、リリス、ハンゾウの4人だけに留める。ネコミンはサンやクロミン達の世話を任せており、ティナは白狼騎士団の指導役を行ってもらうため、リルは先にこの4人を呼び出して会議を行う。



「今回の話し合いに関しては我が国の食料と薬草の問題だな……」

「そういえばケモノ王国は同盟国のヒトノ帝国に薬草と引き換えに食料を分けて貰ってるんですよね」

「ああ、我が国の領地は薬草の栽培が盛んだが、近年はその薬草の収穫量が減少の一途を辿っている。そのせいでヒトノ帝国が満足する量の約束を提供出来ず、その点で不満を抱かれている事は知っているな」

「そういえばそんな事を前にも聞いたような……でも、薬草はともかく、どうして食料が不足しているんですか?」

「理由はケモノ王国では帝国と違って農作が主流ではないからだ。ヒトノ帝国と違い、ケモノ王国では人口は少ない。ヒトノ帝国と比べれば領地は3分の1、人口は5分の1程度だろう」

「えっ!?そんなに違うんですか!?」



リル曰く、残念ながらヒトノ帝国とケモノ王国では国力に大きな差があるらしく、ヒトノ帝国の食料の援助がなければケモノ王国の住民は飢えを凌ぐのも難しい状態だった。



「ケモノ王国は薬草栽培に力を注いできました。どうやらケモノ王国は大陸で一番薬草が育ちやすい環境のようですからね。薬草を世界の国々に提供する事で代わりに食料を援助して貰っている状態です。主にケモノ王国内に存在する米などの農作物は殆どが外国産ですからね」

「そうだったんだ。でも、どうして農耕をやらないんですか?」

「やらない、のではなくて出来ないんだ。農耕を行うにしても魔物の被害を防ぐ術を用意しなければならない。ケモノ王国の領地には危険種指定されている野生の魔物がヒトノ帝国よりも多い。だから農耕を試みても野生の魔物に襲われる可能性も高いんだ」

「なるほど……でも、それなら薬草の栽培はどうやってるんですか?」

「薬草は特定の地域でしか育たないんですよ。その地域に兵士を配備させ、栽培の技能を持つ人間を送り込んで育成を行ってるんです。ですけど、近年では魔物の被害が激化して薬草の栽培地も大きな被害を受けている状況です」



地球とは違い、こちらの世界には人間に害を為す魔物が多数生息するため、農耕なども危険を伴う仕事である。その点ではヒトノ帝国は広大な領地を持ち合わせながらも危険種指定された魔物は他国と比べれば少なく、更に「農民」といった農作業などに適した能力を持つ称号の人間も多数存在する。


農民のような職業は「生産職」と呼ばれ、彼等が育てる農作物は成長速度が速く、栄養値も高い。そのためにヒトノ帝国は毎年豊作で食料に関しては他国よりも余裕があった。だからこそケモノ王国は薬草と交換でヒトノ帝国から食料を提供して貰っていたが、それも今後は難しくなる事が予想された。



「ヒトノ帝国は必ず勇者を取り戻すため、我が国の食料の提供を中止する可能性もある。だからこそ、帝国が完全に食料の提供を辞める前にこちらも手を打たなければならない」

「すいません、俺のせいで国に迷惑を……」

「いやいや、レイナさんがいなかったらリルさんは殺されていたかもしれないし、それに魔王軍のせいで国も無茶苦茶になっていた可能性もあります」

「その通りでござる」



レイナは自分のせいでケモノ王国に迷惑を掛けたかと思ったが、この場にいる3人はレイナの責任ではない事を断言する。実際にレイナがケモノ王国に訪れていなければ今頃はこの国がどうなっていたかも分からず、むしろ今までのレイナの功績を考えれば彼を守るために今度はリル達が力を貸す番である。



「とはいえ、食料も薬草の問題もレイナ殿がいればどうにでもなるのでは?例えば適当な道具を利用して大量の薬草や食料を作り出したりなど……」

「それはどうでしょうかね、確かにレイナさんの能力は凄いです。ですけど、決して万能ではありませんよ。そもそもの話、レイナさんの力を借りて問題を解決したとしても、レイナさんが元の世界に戻った後はどうするんですか?元の木阿弥ですよ」

「むむ、言われてみるとその通りでござるな……」



仮にレイナが解析と文字変換の能力で大量の食料や薬草を造りだとしても、それはあくまでもレイナが存在する場合でしか扱える方法ではない。いずれレイナは元の世界へ帰る予定のため、もしもレイナがケモノ王国から立ち去った後は同じ方法には頼れない。


ケモノ王国では農耕が難しいという根本的な問題を解決しなければならず、どうするべきかと考え込む中、ここでレイナはある事を思い出す。それはケモノ王国に訪れた理由は元の世界に帰るための手がかりを掴むためだった。

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