第495話 とっとと国へ帰れ!!

「ち、違うのです勇者様!!今のは言い間違えて……」

「そ、そうです!!この男が勝手に言っただけです!!」

「我が国は貴方様のご帰還をお待ちしております!!」

「貴方……前にも見た事がありますね。思い出した、俺が召喚されたばかりの頃、城の中で会った事がある」



レアは使者の中に自分がヒトノ帝国の城で暮らしていた時に何度か顔を合わせた事がある人物がいる事を思い出す。恐らくはそれなりの位に就く帝国の家臣なのだろうが、別に親交があったわけでもない。


そもそも帝国の城で暮らしていた時にレアにまともな対応をしてくれたのはクラスメイトの勇者達ぐらいであり、他の人間の中でレアを大切に取り扱ってくれたのは皇女アリシア程度である。皇帝は滅多に顔を出さず、他の臣下や兵士に至るまでレアの事をぞんざいに扱っていた。



「帝国から使者が来たというからここで待っていたのに随分と酷い事を言ってましたね。自分達が召喚したのだから勇者を好きにしてもいいみたいに聞こえましたけど、貴方達は俺達の事を何だと思ってるんですか!?」

「ひいっ!?お、お許しください勇者様!!」

「ふざけるな!!勝手に召喚しておいて、しかも俺の事を殺そうとしておきながら国へ戻ってこいだなんて図々しい話があるか!!どうしても俺を連れ戻したいならウサンの奴をここへ連れて来い!!」

「そ、それは……」



ウサンの名前をレアが口にすると使者達は顔色が青くなり、当然だがレアの要求をのめるはずがなかった。現在のウサンは行方不明の扱いを受けており、不始末を起こした彼は帝国は表向きは追放したと発表してしまう。


姿を消したウサンの捜索は現在も行われているが、ウサンに関する手がかりすら掴めておらず、そもそも彼が生きているのかも怪しい状況だった。ウサンを見つけ出すのは砂漠に落ちた1本の針を探し出す事に等しく、到底レアの要求を呑む事は出来ない。



「とにかく、俺は帝国なんかに戻るつもりはありません!!どうしても俺を連れ戻したければ他の3人の勇者をここへ連れてきてください!!そうすれば話ぐらいは聞きますから!!」

「ま、待ってください勇者殿!!貴方は誤解を……」

「いい加減にしつこいぞ、この無礼者たちを追い払えっ!!」

『はっ!!』



リルが命令を降すと白狼騎士団の団員達が即座に動き出し、使者たちを取り囲む。そのまま彼等は強制的に連れ出され、玉座の間の外へと追い出された。



「ま、待ってくれ!!勇者様、話を……」

「離せ、我々を誰だと思って……」

「勇者様、どうかお許しくださっ……」

「うるさい!!とっとと帰れ!!」



最後にレアが怒鳴りつけると使者達は大勢の騎士に拘束され、追い出される。その様子を見届けたレアは安堵した表情を浮かべ、一方でリルは愉快な表情を浮かべてレナの肩を掴む。



「中々の名演技だったよ。見たかい、連中のやらかしてしまったという顔……これは国に帰ってどのように報告するのか楽しみだ」

「はあ……半分は本気で怒ってたんですけどね」

「まあ、気持ちは良く分かる。流石に奴等の言い分は私もで剣を抜こうかと思ったぐらいだからな」

「世界を救う勇者様を物みたいに扱うなんて許せない」

「その通りでござる」

「でも、あの様子だと諦めずにまた来るかもしれませんよ」

「その時は同じように追い返せば問題はありません」

「きゅろっ!!今度はクロミンとシルが追い返すと言ってる」

「「ぷるぷる~ん(この世の地獄を見せてやるぜ)」」



レアの元に他の者達は集まり、使者達を追い返したレアの姿を見て全員の気分が晴れていた。使者の態度には他の者達も不満を抱いていたらしく、特にリルは立場上の問題もあってレアが追い返してくれた事に感謝する。



「本当に助かったよ。僕の立場で使者を勝手に追い出すと、色々と都合が悪かったからね。国の代表が勇者にも会わせる事はせずに使者を追い返したとなると色々と問題があるからね。その点ではレア君が追い返してくれたすかったよ」

「他の人間が追い返すのと、被害者である勇者のレアさんが追い返すのでは意味合いが違いますからね。きっと、国へ戻ればきついお仕置きを受けるでしょう」

「しかし、そう簡単に国へ戻るとは思えません。きっと、面会を求めてくるでしょう。その時はどう対処しますか?」

「何、その点はちゃんと考えてあるさ。既に市中ではこんな噂が広がっているはずだ……帝国から訪れた使者が勇者を蔑ろにした、だから勇者は怒って使者を追い払った。そんな噂がもう流れているはずだ」

「ま、まさか事前にこうなる事を予測して噂を流していたのですか!?」



リルの周到な準備にティナは驚き、彼女は何も言わずに笑みを返す。仮に使者が国内に留まろうとしてもケモノ王国の国民は彼等を歓待しないだろう。先の戦で活躍した勇者レアは民衆からも人気が高く、そんな勇者に無礼な態度を取ってしかも帝国へ連れ帰ろうとする存在を許すはずがない。


後日、王都中の宿から出禁を受けた使者達は仕方なく引き返す事しかなくなり、彼等は帝都へ帰還する。ケモノ王国から帝国まで一か月近くの日数を費やして移動してきたにも関わらず、何の成果も得られずに引き返す事に彼等を皇帝がどのように対処するのかはレアは想像がつかないが、リルの予測では最悪でも位の降格、下手をしたら身分剥奪されてもおかしくはないと考えていた。

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