第494話 勇者の登場
「言っておくが勇者殿が所持している武器はあくまでもケモノ王国の領地に存在する大迷宮内で発見された物だ。まさかとは思うが、勇者殿と共に我が国で発見された武器まで渡せと言い張るつもりではないだろうな?」
「ぐっ……そ、そのような事は言いません」
聖剣を勇者が所持しているという話を聞いて使者たちは顔色を変えるが、事前にリルは注意しておく。万が一にも有り得ない話ではあるが、仮にレアが帝国へ戻るとしても聖剣をお前らの国には渡さない事を伝える。
使者としては聖剣を所持した勇者を帝国へ連れ帰れば大きな手柄になるが、いくらなんでも理由も無しにケモノ王国で発見された聖剣を寄越せとは言えない。聖剣の所有権に関しては現在では発見した人間の国の所有物だと認められているため、レアが他国に持ち込む事も許されない。
「そもそも勇者殿は帝国に戻る気はない。何度来られようとケモノ王国は勇者殿を渡すつもりはないとしっかりと皇帝に伝えるといい」
「お、お待ちください!!せめて勇者殿に会わせてください!!」
「そうです!!我々としても皇帝陛下から直々に命令を受けた身です、このままみすみすと引き返せばどんな罰を受けさせられるか……」
「そちらの事情など知った事か!!とっとと消えろ!!」
必死にレアと会わせるように縋りつく使者たちだったが、そんな彼等に対して大将軍のライオネルが怒鳴りつける。彼の気迫に使者たちは怖気づくが、そんな彼等に対してリルは淡々と告げた。
「はっきりと言おう、勇者殿はもうこの国にはなくてはならない存在なのだ。お前達も噂はもう耳にしているだろう、我が国の領地にも魔王軍と名乗る輩が現れて破壊工作を実行した。先日の戦も魔王軍の仕業である事は既に発表している」
「ま、魔王軍が……」
「あの大国の帝国ですらも勇者の力に縋りたいほどに手強い相手だ、だからこそ我々も勇者殿の力を借りて共に戦わねばならん。そもそも勇者殿も帝国よりも王国の方が居心地が良いだろう」
「し、しかし!!せめて勇者殿と会わせてください!!どうか我々にも話し合いの機会を!!」
「しつこいぞ!!さっさと国へ帰れ!!」
「レアは渡さない」
「見苦しいでござるよ」
しつこくレアと会わせるように頼み込む使者達に対して白狼騎士団の面々も我慢の限界を迎えて怒鳴りつけると、使者の一人が怒りを露にして怒鳴りつけた。
「さっきから何だその態度は!?我々はヒトノ帝国の使者だぞ、上国の使者に対して無礼だとは思わんのか!?」
「上国だと?いつからヒトノ帝国はケモノ王国の事を下に見ているんですか?ヒトノ帝国とケモノ王国は同盟国、つまり立場は対等のはずですよ」
「な、何だと……小国の分際で我が国と対等に張り合うつもりか!?」
「馬鹿者、辞めんかっ!!」
怒り出した使者の男を他の人間が慌てて引き留めようとするが、ケモノ王国がヒトノ帝国と同格という言葉に使者の男は怒りを煮えたぎらせる。実際の所は国力も領地も兵力もヒトノ帝国はケモノ王国を遥かに上回るだろう。
だからといってヒトノ帝国がケモノ王国よりも立場が上であるという理由にはならない。過去に両国は何度か戦をしたが、結局はヒトノ帝国はケモノ王国の領地を奪えた事はない。
「どうやら何か勘違いしているようだな……いっておくが、ケモノ王国はヒトノ帝国の属国ではない。我等は対等な立場だ、そちらの一方的な要求に従う義理などない。しかも、自分達が追い出した勇者を返却などと虫のいい話が通ると思っているのか?」
「何を言うか!!勇者は元々は我が国で召喚した!!ならば勇者をどのように扱おうとこちらの自由ではないか!!」
「ほう、ではヒトノ帝国は勇者殿の意思に関係なく連れ帰るというつもりか?お前の言葉は自分達が召喚してやったのだから自由に扱っても構わないと言っているのに等しいんだぞ?」
「それの何が悪い!?」
「……だそうだ、勇者殿」
開き直った使者の男の言葉に対してリルは玉座の裏側に向けて声をかけると、彼女の行動に使者達は呆気に取られるが、すぐに理由を察する。玉座の裏側にずっと隠れていた「レア」が姿を現したのだ。
「どうも、帝国の皆さん……貴方達に追い出された勇者です」
「ゆ、勇者様!?」
「ま、間違いない……本物だ!!」
「こ、これは勇者様……ここにおられたのですか?」
「ええ、最初からずっと聞いてましたよ」
「……見ての通りだ。僕の言った通りだろう?どうやらヒトノ帝国では勇者の事を物として扱い、人権を認めていない様子だ」
レアは暴言を吐いた使者の男を睨みつけると、先ほどまでの態度はどうしたのか使者は慌てふためき、その場に平伏を行う。よりにもよって連れて帰る対象のレアがこの場にいるなどとは思わず、自分がとんでもない発言をしたとやっと理解した使者の男は慌てて言い訳を行う。
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