第492話 ガオの仇を
「リル様……ガオは、ガオ王子は最後に貴方様に降伏する事を誓いました。我々はガオ王子の意思に従い、貴方に忠誠を誓います。身勝手な申し出だとは理解していますが、どうかお許しください」
「ガオが、そう言ったのか?」
「はい、ガオ王子は自らの意思で降伏する事を私に伝えました」
「そうか……遅すぎるぞ、あの馬鹿者め……!!」
リルはガオが自らの意思で降伏を決意したという話に瞳を潤ませ、悲痛な表情を浮かべる。そして改めてガームに視線を向け、ガオの意思を継いだ彼の降伏を受け入れる事にした。
「分かった。亡きガオに免じて其方達の降伏を認めよう。今後は北方軍は私に忠誠を誓う事を認めるか?」
『はっ!!リル王女様!!』
遂に北方軍を傘下に加える事に成功したリルを見て家臣たちは騒ぎ出し、これで実質上は彼女がこの国の全ての勢力を手中に収めた事を意味する。つまり、リルは正真正銘にこの国を手にしたといっても過言ではない。
だが、この国の全ての兵力を手にしたからと言ってもリルは国王の座を名乗るつもりはなく、どうしても彼女は王女としてやるべき事が残っていた。それはこの国に内乱を引き起こさせ、弟の命を奪ったツルギと彼が属する組織の殲滅であった。
「これより、我々はガオの命を奪ったツルギの捜索と奴が手を結んでいるはずの魔王軍を殲滅に全力を注ぐ!!ガーム将軍、北の領地の管理はお前に任せよう!!我々は一刻も早く王都へ引きかえすぞ!!」
「えっ!?よ、よろしいのですか!?ガーム将軍をこのまま北に帰すなど……」
「北方領地を知り尽くしているのはガーム将軍を置いて他にはいない!!ガーム、草の根を掻き分けてでも我が弟を殺した仇を見つけ出せ!!そしてその首を私の前に持ってくるがいい!!」
「……承知した!!」
リルの言葉にガームは従い、他の軍団長も大将であるガームに従う。本来ならばガームはこのまま拘束して人質として王都へ留めさせ、北方軍の戦力を分散させるのが一番だろう。
だが、広大な北方領地を任せられる存在はこの国ではガームを置いて他に存在せず、彼の忠誠を得たリルはガームを信頼して北方領地をこれまで通りに任せることにした。ガームとしても甥の仇を探し出す機会を得て断るはずがなく、何としてもツルギを見つけ出してガオの仇を討つ事を誓う。
「これで戦は終わりだ!!北方軍には兵糧を分け与え、我々は王都へ引き返す!!領地内にツルギの手配書を送り込め、冒険者ギルドにも連絡して奴から冒険者の資格を剥奪させろ!!今後、我々はツルギの捜索に全力で挑む!!」
『はっ!!』
リルの言葉に全員が従い、こうして戦は終結を向けた。しかし、今回の出来事の一か月後にこの国を揺るがす大きな出来事が起きようとしているなど誰も予想できなかった――
――ガオの遺体は王都へと運ばれ、丁重に埋葬された。葬式にはガームや軍団長も参加し、更には数多くの貴族も同行した。葬式は大々的に行われ、反乱を起こしたとはいえ、ガオは決して悪意を抱いてこの国に歯向かったわけではなかった事はリルも知っていた。
彼に欠点があるとすればガオは自分の意思を主張せず、状況に流されるままに他の人間のいう事を従い続けた事である。父親が死んだ事で意気消沈したガオは何もかも全て人任せにした。仮にガームがガオを担ぎあげて戦を仕掛ける事を反対していればこのような結末には至らなかっただろう。
それでもガオは決して根っからの悪人などではなく、あくまでも彼が国王を目指したのは父親の憧れからであった。リルの命を狙おうとしたのは彼を支援していたギャン宰相の差し金である事は既に判明し、ガオ本人はリルの事を疎ましくは思っていても別に殺そうとは考えていなかった。
この国では王族は土葬で弔う事が義務付けられている。しかし、本来は反旗を翻した王族の場合は王家の墓に入れる事は禁じられている。だからこそリルは今回の反乱はガオの意思ではなく、ガオを利用した「ツルギ」と「魔王軍」のせいにして彼の無実を主張した。
今までは秘匿されていたがリルは遂に一般人にも魔王軍の存在を明かし、既に魔王軍が国内で活動を行っている事を発表した。今までの魔王軍はヒトノ帝国の領地内のみで活動していたのだが、ケモノ王国にも攻撃を仕掛けてきたという事実に民衆は戸惑い、この国はどうなるのかと不安を抱く。
それでもリルは何があろうと魔王軍などには屈服しないことを誓い、彼女は本格的に魔王軍の殲滅のために軍備の再編成を行う。北方領地はガームに任せた後、彼女は自分が指揮する白狼騎士団を中心に軍隊の強化を測り、ついでに薬草の栽培に関しても力を注ぐ予定だった。
――しかし、ガオの葬式からしばらくした後、王都に帝国からの使者が訪れた。彼等の要求は帝国が召喚した勇者の返却を要求してきた。
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