第491話 内乱終結
――レイナの力によってどうにか死の淵から蘇ったガームはリルルの元へと赴くと、配下の軍団長と共に彼女の前に跪く。その様子を見てリルルは堂々とした態度で見下ろし、まずはガームに対して質問を行う。
「ガーム将軍、私の前に跪くという事がどういう意味なのか理解しているんだな?」
「はっ……我が軍は降伏いたします」
「降伏……!!」
「あのガーム将軍が頭を……」
リルの傍に控えていた家臣たちはガームが降伏という言葉を出した事に騒ぎ出し、同時に安堵の表情を浮かべる。国一番の戦上手であるガームが降伏を申し出た事は素直に喜ばしく、誰もがリルがガームの降伏を受け入れると思っていた。
しかし、リルは毅然とした態度を貫き、ガームが降伏を申し出たからといって態度を変える事はなく、少し冷めた表情を浮かべてガームに問い質す。
「理由を問おうか?そちらの軍は兵士の数も十分、兵糧は不足しているようだがまだまだ戦える余力は残していただろう。それなのにいきなり降伏とは……理由を聞かせてくれ」
「ガオが……ガオ王子が死亡しました」
「……そうか」
ガームの言葉にリルは表面上は冷静さを保つが、ガオの死亡を彼の口からはっきりときいて内心では衝撃を受ける。ガームの軍隊が降伏を申し込んできた時点で薄々とは勘付いていたが、やはり義理とはいっても弟の死を聞かされては心が穏やかではいられない。
「ガオ王子は本日の昼間、我が軍の客将であったツルギによって殺されました。ですが、ガオ王子は無抵抗で殺されたわけではありません。最後まで戦って死んだのです……それだけは間違いありません」
「ツルギだと……ツルギといえば黄金級冒険者のツルギの事か?」
「はい……奴がガオ王子を殺したのを私はこの目で目撃しております」
「何という事を……!!」
「王族を殺すなど、何と大それたことを!!」
敵であったとはいえ、王族の血筋であるガオが殺されたという話にリルの家臣たちは騒ぎ出し、これで実質的に王家の跡取りはリル王女以外には存在しなくなった。先王の実子であるガオが死んだ以上、先々代の国王の娘であるリルこそが最後の王家の血筋である。
正直に言えばリルもこの戦でガオを討ち取り、自分が王位に就くという覚悟は抱いていた。しかし、いざガオが死んだという報告を耳にした彼女は頭を抑え、無償に怒りを抱く。
――白狼騎士団が北方軍の陣地に夜襲を仕掛けた際、ガオも捕縛してハンゾウと既に入れ替わっていた。最初に捕まった時はガオも怯えて碌に離せない状態だったが、リルは守備軍にガオを返す前は毎日に彼の元へ訪れて話しかけていた。
『ガオ……お前は本当に国王になりたいのか?』
『姉上……僕は、僕は父上のように立派な国王になりたいと思っていました。けど……』
『けど?』
『……僕は王の器ではなかった』
最後の日の晩、ガオは自分が国王の座に就けるような器はない事は理解していたのか、リルに対して自嘲気味の笑顔を浮かべる。その翌日、リルはガオを連れてガームの元へ訪れ、彼を返した。
はっきりと言えば最初にガオを誘拐した時にリルは北方軍を降伏させる事はやろうと思えば出来た。北方軍が戦を仕掛けてきたのはガオを国王に就けるためであり、その大義名分を奪ってしまえば北方軍は戦う事は出来ない。
ガオを誘拐した事を最初から知らせておけば北方軍を撃退どころか引き返す事も出来た。ガオを人質にすればガームも手を出せず、表向きは北方軍も従える事は出来ただろう。だが、リルはガオの変わり様を見て彼がもう自分と戦うつもりはないと判断し、ガームの元へ返す事を決めた。
『ガオ、明日お前を北方軍へと送り込む事に決めた』
『えっ……ど、どうして?』
『もうお前は愚か者ではない、このまま私達姉弟が戦い続けても父上が悲しむ事は理解しているだろう。ならばお前のために戦ってくれた人達にはお前が説得するんだ。これ以上の戦は無益である事を伝えろ』
『……もしも僕が姉上に逆らって戦おうとしたらどうするつもりですか?』
『その時は全直で叩きのめすだけだ。忘れたのか?どんな勝負事だろうと私はお前に手加減をした事はない』
『ふっ……言われてみればそうでしたね』
リルはガオが自らの意思で軍に戻り、ガームや彼の配下を説得して降伏させようとした。ガオを人質にして彼等を従えさせるのではなく、ガオの意思で北方軍を降伏させればリルとしてもガオの対応を改めるつもりだった。
反逆したといっても今回の戦に関してはガオも不本意であり、彼はそもそもリルに挑むつもりはなかった。それならばガオを人質にするよりは彼を説得して降伏を促せばリルとしてもガオも丁重に扱えた。捕まえて強引に敵軍を従えるよりも、ガオが自ら進んで降伏を申し込めば彼の体裁も保てる。
しかし、そのリルの考えは失敗に終わった。降伏を決意したはずのガオはよりにもよってガームが招き寄せた客将に殺されたという事実に彼女は深く悲しんだ。自分が情けを掛けず、ガオを人質にしてでも北方軍を降伏させていれば彼が死ぬことはなかったのかと落ち込む。
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