第488話 ツルギの暴走

「き、貴様!!」

「お、叔父上……がはぁっ!?」

「おっと、動くでない……ふうっ、大分身体が楽になったわい」



刃に紅月が突き刺さったガオは吐血し、その光景を目撃したガームは激高してツルギに襲い掛かろうとしたが、それに対してツルギは即座にガオの身体を後ろから羽交い締めにする。


ガオを人質に取られたガームは険しい表情を浮かべ、一方で紅月の力でツルギは身体の麻痺を解く。紅月は切りつけた相手に呪詛を送り込む一方、その人間の「生命力」を奪う能力も持っている。レイナの能力によって麻痺された身体だったが、どうにか他者の生命力を奪う事で麻痺を解除させる事に成功した。



「おのれ、血迷ったかツルギ!!」

「血迷ったのはお主であろう、弟子よ……今更降伏など、儂が許すと思っているのか?」

「黙れ!!貴様は何故、戦争を長引かせようとする!?」

「知れた事よ……我々の目的の成就のためにはこの国を疲弊させる必要がある。それだけの事」

「我々、だと!?」



ここでガームはツルギに対してある疑問を抱き、彼がどうやってこの場所まで移動したかである。ツルギは全身麻痺で碌に動く事も出来ず、彼がどのような手段で身体を動かしてきたのかと思ったガームだが、よくよく観察するとツルギの肉体に黒色の蛇のような物が巻き付いている事に気付く。



「その身体は……!?」

「ふふふ……お前は影魔法というのを知っているか?相手の身体に闇属性の魔力で構成した影を送り込み、相手を拘束したり、場合によっては肉体を操作する希少魔法の事を……それを使えば全身麻痺したこの肉体であろうと動かす事が出来るのだ」

「馬鹿な……では、他に仲間がいるというのか!?」

「生憎とそこまで答える術はない。それよりも自分の甥を心配したらどうだ?」

「ぐ、ああっ……!?」



ガオは刃を突き刺された状態のまま苦しそうな表情を浮かべ、それを確認したガームは彼を助けようと手を伸ばす。だが、その前にツルギの肉体に絡まっていた「黒蛇」を想像させる魔力がガオの肉体へと移り、ガオは目をも開く。



「うああっ!!」

「が、ガオ!?」

「安心しろ、殺しはせん……お主が素直に従うならばな」



黒蛇がガオの身体に移動した瞬間、ガオは身体の自由を奪われたかの如く、ガームの腕を振り払う。ツルギはガオの肉体から刃を抜き取ると、ガオは苦痛の表情を浮かべるが肉体は自由に動かせず、その場に直立不動する。


身体に纏わりついた闇属性の魔力の黒蛇によってガオは自由を奪われ、傷口から血液が漏れ出る。一刻も早く治療しなければならない状態ではあるが、ツルギはそんな彼の首筋に刃を構えてガームに告げた。



「さあ、愛弟子よ……甥の命が惜しければ軍を動かしてリル王女と戦うのだ。お前にそれ以外の道はない」

「貴様……何者だ!!我が師がこんな姑息な手を使うはずがない!!」

「姑息な手、か……生憎だが、儂は正真正銘のお前の師じゃ」

「つ、ツルギ殿……どうして、こんな……!?」



苦しそうな表情を浮かべてガオはツルギに視線を向けると、彼はそんなガオを見て見下した表情を浮かべ、自分の皺だらけの肉体と彼の若い肉体を見比べて嫉妬した表情を浮かべる。



「黙れ、小僧!!貴様に分かるか?かつては最強の剣士として名を馳せたこの儂が、老いによってどんどんと身体は衰える苦しみ……だからこそ儂は若さを取り戻す!!最も強かった頃の肉体を取り戻すにはこうするしかないのだ!!」

「な、何を言っている!?」

「お主等には理解できんだろう、まだ若くて力が有り余るお前達にはな!!だが、儂の夢はもう少しで叶う。さあ、ガームよ!!号令を出せ、リルル王女を討ち、この国を支配するのだ!!」

「ぐうっ……!!」



ガオを人質に取られた以上はガームはツルギに逆らう事は出来ない。しかし、この状況下で軍隊を動かしてもリルが率いる守備軍を打ち倒す可能性は皆無に等しかった。


兵士達は弱り切り、更には敵からの情けとして配布された食料で命を繋いでいる。この状況下でガームが号令を出して軍隊を動かしたところで兵士の大半は信義に反する行為だと非難するだろう。


そもそも敵軍の中には聖剣を扱える勇者や、魅了の能力を使用する手練れの女剣士も存在する。この時点で北方軍が仮に万全の状態で戦ったとしても勝ち目はない。あくまでも現在の軍隊が無事でいられるのはリルが見逃しているからに過ぎない。



「さあ、どうする?甥の命が惜しければお前はもう戦うしかないぞ、ガームよ」

「ツルギ……そこまで堕ちたか!!」

「何とでもいうがいい……儂には他に手は残されておらんのだ」

「お、叔父上、構いません。早くこの男を討ってください!!」

「ガオ!?」



ガオの言葉にツルギとガームは驚愕の表情を浮かべるが、ガオは顔色を青くしながらも自分の命と引き換えであろうと命令に従うなと告げる。

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