第484話 ツルギの混乱

「ぐおっ!?」

「何!?」

「……身体を麻痺させました。しばらくは動けないはずです」



レイナが指先を構えた途端にツルギは全身麻痺に襲われ、地面へ倒れ込む。その光景を目にしたガームは目を見開き、強さに関しては絶対の信頼を抱いていたツルギが倒れたという事実に動揺する。


一方でツルギ自身も自分の身体の異変に戸惑い、いったい何をされたのか理解できなかった。レイナが指先を構えた途端、突如として身体が動かなくなったという事実にツルギは混乱した。



(馬鹿な、あり得ん……何をされた!?魔法を使った素振りなど全く感じなかったぞ……!!)



最初にツルギが考えたのは何らかの魔法で自分の身体を麻痺させたのかと思ったが、自分が敵の魔法に全く反応出来ずに喰らった事が信じられなかった。確かにレイナが指先を構えた瞬間、指が光ったように見えたが、その光もすぐに消え去ってしまう。



(あの指の光を見たせいか……!?そういえば、指を動かしていたように見えたが、まさか洗脳の類で儂の身体を動かなくさせないようにしたのか……!?)



頭の中でツルギはレイナの行動を思い返すが、どれだけ彼女の行動を振り返っても自分が麻痺された事に納得できない。身体が動けなくなる寸前、レイナが何事かを呟いていたのは聞こえたが、身体が麻痺して動けないツルギは冷静に考える余裕もなくなってきた。


このままでは自分が捕まると判断したツルギはどうにか身体の麻痺を解除しようとするが、指を動かす事も出来ない。だが、彼はここで自分が手にしている魔剣の存在に気付き、ツルギは魔剣を体内に取り込む。



(おのれ、小娘が……近づいてきた瞬間、貴様の末路だ!!)



魔剣を体内に取り込んだツルギはレイナに憎々し気に視線を向け、彼女が歩み寄ってくるのを待つ。そんなツルギの想いが通じたのかレイナは彼の元に歩むと、ハンゾウと共に見下ろす。



「この人がハンゾウが言っていたツルギで間違いないの?」

「そうでござる。この者に嵌められて拙者たちは戦わされたのでござるよ」

「待て、それはどういう意味だ!!ちゃんと説明しろ!!」



二人の会話を聞いていたガームが口を挟み、そんな彼にレイナとハンゾウは視線を向ける。その瞬間を見逃さず、ツルギは体内に取り込んだ魔剣をレイナに放とうとした。



「くたばれっ!!」

「っ!?レイナ殿!!」

「うわっ!?」



レイナの心臓に向けて魔剣「紅月」がツルギの体内から放たれ、いち早く気づいたハンゾウは咄嗟にレイナの身体を突き飛ばす。その結果、レイナを庇ったハンゾウに紅月が突き刺さり、彼女は苦悶の表情を浮かべて膝を付く。



「ぐああっ……!?」

「ハンちゃん!?」

「な、何だ!?何が起きた!?」



ハンゾウの背中に紅月が突き刺さり、それを見たレイナは咄嗟に彼女の身体を支え、一方でガームの方はツルギの肉体から射出された紅月を見て戸惑う。その反面にツルギは舌打ちを行い、レイナを仕留めきれなかった事に苛立つ。


レイナはすぐにハンゾウの身体に突き刺さった紅月に視線を向け、彼女の身体の治療を行う準備を行う。事前に「解析」を発動させてハンゾウの詳細画面を開き、まずは紅月を掴んでハンゾウの身体から抜き取る。



「ハンゾウ、凄く痛いと思うけど我慢して!!」

「ううっ……!?」

「待て、迂闊に抜けば命はないぞ!!」

「いいから黙っていてください!!」



紅月を引き抜こうとするレイナをガームが止めようとしたが、今は彼に構っている暇はなく、レイナは紅月を一気に引き抜く。その結果、紅月を身体から引き抜かれたハンゾウは悲鳴を漏らすが、そんな彼女に対してレイナはすぐに状態の項目を「健康」へと変化させる。



「ハンゾウ、ハンゾウ!!大丈夫!?」

「あっ、があっ……おろっ?急に痛くなくなったでござる」

「ば、馬鹿なっ!?」

「なん、だと……!?」



命を落としかねない負傷だったはずだが、ハンゾウの肉体は一瞬に再生し、彼女の身体には傷一つない状態に戻っていた。その光景を確認したガームとツルギは信じられず、いったい何が起きたのか理解できなかった。


治癒魔法でも一瞬で致命傷を回復させるなど有り得ず、しかも紅月の能力は相手を傷つけるのと同時に「呪詛」で体内を犯し、再生能力を阻害する力を持つ。分かりやすく言えば紅月で傷つけられた箇所は只の回復薬や治癒魔法では治るはずがない。それにも関わらずにレイナは一瞬でハンゾウを治した事にツルギは激しく混乱する。



(馬鹿な、あり得ん……何だ、この女は……勇者でもないのにどうしてこんな事が出来る!?)



ツルギは勇者レアとレイナが同一人物である事は知らず、勇者でもない人間が「魅了」や自分を「麻痺」させたり、挙句の果てには怪我人を一瞬で治療できる能力を持っている事に彼は混乱の極みに陥る。

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