第483話 真の敵は……
「ぐっ……貴様等、この儂をまんまと嵌めたつもりか!?」
「つもり、ではなくて嵌めたのでござるよ」
「助けを求めても無駄ですよ。もうこの周辺の兵士達は俺の味方です」
「ああっ……」
「レイナ様ぁっ……」
「なんと美しい……」
レイナの言葉に兵士達は彼女に見惚れ、その様子を見てツルギは内心舌打ちした。彼等の様子からレイナが「魅了」の能力で兵士達を篭絡したのは目に見えており、それに気づいたツルギは魔剣を構えて全員を切り伏せようとした時、思いもがけぬ声が響く。
「何事だ!?これは何の騒ぎだ!?」
「おお、ガーム……!!」
「ガーム将軍……」
騒動を聞きつけたのかガームが軍団長を率いて駆けつけ、目の前の光景に驚く。何しろ兵士達が自分の師匠であるツルギを取り囲み、更に黒装束のハンゾウと白狼騎士団の制服を身に付けたレイナが取り囲んでいるのを見て驚愕した。
いったい何がどうなってこのような状況に陥ったのかは不明だが、レイナの格好を見て白狼騎士団の団員だと悟った彼はすぐに兵士と軍団長に彼女を捕縛するように命じる。
「何をしているお前達、早くその娘達を捕まえろ!!」
『…………』
「聞こえなかったのか!?早く捕まえるのだ!!」
しかし、ガームの言葉に対して何故か軍団長達も動く様子がなく、それどころかガームの元に離れてレイナの前に移動する。彼等の行動にガームもツルギも戸惑うが、軍団長達はまるでレイナを守るように武器を抜いた。
「申し訳ありません、将軍……!!」
「将軍の命令といえど、この御方を傷つけることは出来ません!!」
「この方に手を出すというのであれば容赦はしません!!」
「なっ!?お、お前達……!?」
「まさか、軍団長さえも取り入れていたのか!?」
軍団長さえもレイナの「魅了」の能力によって既に寝返っていた事を知り、ガームとハンゾウは混乱する。そんな彼等を見てレイナはこの数日の出来事を思い出す――
――実を言えば最初の夜襲の時からレイナはハンゾウの手助けで敵陣に忍び込み、魅了の能力を使用して兵士達を取り込んでいた。その中には軍団長も含まれ、彼女は魅了の能力で次々と敵兵を味方に付けていた。
どれだけ高い忠誠心を持っていようと、魅了の能力を使えば彼等の忠誠を誓う相手はレイナへと変貌する。そしてレイナは数日の間にガームやツルギに気付かれないように味方を増やし続け、遂には陣内の軍団長と隊長全員を味方に付ける事に成功した。
ツルギとガームは警戒心が高かったので味方にするような真似はせず、着々と準備を進めていく。そして遂にツルギが本性を現したのをハンゾウの合図で知ると、彼女は姿を現す。
「ガーム将軍、もうガオ王子はこちらで保護しています。どうか降伏して下さい」
「な、何だと……」
「ガーム、落ち着け!!その女を斬れば魅了の能力は解除される、耳を貸すな!!」
レイナの言葉にガームは唖然とするが、ツルギは慌ててレイナを倒して彼女を黙らせようとするが、それを他の兵士達が許すはずがない。レイナは兵士達に守られながらもガームと向かい合い、リルからの伝言を伝える。
「リルル王女からの伝言を承っています。降伏するのであれば我々は貴方達にこれ以上の危害は加えません。また、食料に関してもすぐに提供します。弟であるガオから事情を聞きました、どうやら我々の間に誤解があったようなので詳しく話し合いたいという事です」
「……リルル王女がそういったのか?」
「ガーム!!何をしておる、そいつらは敵なのだぞ!?」
「ガーム将軍!!この男の言葉に耳を傾けてはならないでござる、この男こそが真の黒幕……今回の騒動を引き起こした張本人でござる!!」
リルの伝言に戸惑うガームに対してツルギは注意するが、即座にハンゾウが口を挟む。ガームはツルギを見てどういうことなのかと焦るが、一方でツルギの方はレイナを見て忌々し気な表情を浮かべた。
(おのれ、この小娘さえなんとかすれば……!!)
このままでは自分の企みをガームに知られてしまうと判断したツルギは魔剣を握りしめ、どうにかレイナを仕留めようと接近する。しかし、それに対して兵士や軍団長、さらにはハンゾウがレイナの前に立ちふさがる。
いくらツルギが剣の達人といえど、多くの人間に保護されたレイナを仕留める術はなく、しかもレイナ自身もツルギを警戒して視線を向ける。その瞳を見てツルギは言いようのない不安を抱き、このままではまずい事態に陥ると彼は判断した。
「解析!!」
「な、何を……!?」
レイナは解析の能力を発動させ、ツルギの詳細画面を開く。そして指先を状態の項目に伸ばし、文字変換の能力を発動させて二文字を書き込む。その文字の内容は「麻痺」であり、次の瞬間にツルギは身体が唐突に動かなくなって倒れてしまう。
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