第482話 ハンゾウVSツルギ

「馬鹿な……ならば、何故今まで隠していた!?王子を連れ去った事を告げればお前達の勝ちは確定していたはず……!!」

「もしも王子を連れ出した事を告げれば、お主が逃げると思ったからでござるよ。しかし、もう逃がさないでござる」

「……小娘がっ!!」



ツルギは魔剣を構えると、ハンゾウが所有するフラガラッハと刃を交わす。単純な剣の技量はツルギが上回るが、ハンゾウはそれを見越して忍者ならではの戦い方で挑む。



「はあっ!!」

「ぬうっ!?」



戦闘の際中にハンゾウは小瓶を取り出し、ツルギへと向けて投げつける。反射的にツルギは小瓶を斬り付けようとしたが、一流の武芸者の勘が無暗に小瓶を破壊するのはまずいと判断し、彼は小瓶を躱す。


ハンゾウが取り出した小瓶は例のリリスが作り出した魔石の粉末を取り込んだ液体であり、仮にツルギが小瓶を破壊していたら瓶の中身が爆発していただろう。しかし、ツルギが小瓶に注意を引かれた隙にハンゾウは次の手を打つため、彼女は懐に隠していた笛を吹く。



「お主もこれまででござる!!」

「何を……!?」



笛をハンゾウが吹いた瞬間、すぐにツルギは嫌な予感を覚え、ハンゾウをいち早く始末しようとした。だが、騒動を聞きつけた兵士達が駆けつけ、ツルギとハンゾウが交戦している姿を見て驚く。



「お、おい!!あれを見ろ!!」

「ツルギ様!?」

「あの女は……」

「……お前達、こいつは侵入者だ!!ガオ王子を攫おうとしておる!!」



ツルギは咄嗟に集まってきた兵士達にハンゾウが敵である事を伝え、加勢するように暗に伝える。しかし、どういう事なのか兵士達は戦っているハンゾウとツルギの姿を目撃しても動こうとせず、虚ろな瞳を向けていた。


その様子を見てツルギは疑問を抱き、一方でハンゾウは笛を吹き続ける。犬笛の類だとは思われるが、いったい何を呼び寄せるつもりなのかとツルギは彼女の目的が見抜けない。



「貴様、兵士に何をした!?」

「……拙者は何もしていないでござるよ。は」

「ぬうっ!!お主等、何をしておる!!敵が現れたのだぞ!?」

『…………』



ツルギは動こうとしない兵士達に対して怒鳴りつけると、兵士達はやっと武器を構えた。ようやく戦う気になったのかと思われた時、兵士達が狙ったのはツルギの方だった。



「うおおおっ!!」

「逃がすなっ!!」

「取り囲めっ!!」

「なっ……貴様等、何を!?」

「生憎と、この周辺に存在する兵士達は拙者の味方でござるよ」



自分を取り囲んだ兵士達に対してツルギは動揺するが、それに対してハンゾウは笑みを浮かべた。彼女の様子を見て既に兵士達も敵兵と入れ替わっているのかとツルギは考えたが、よくよく観察すると兵士達の様子が普通ではない事に気づく。


ツルギが覚えている範囲では兵士達は紛れもなく北方軍に所属する兵士達であり、その中にはガオの直属の配下も存在した。変装の類で化けている可能性もあるが、ツルギの鋭い観察眼が彼等が本物の兵士である事を見抜く。それならば兵士達が寝返ったのかと思ったが、それにしては様子がおかしい。



「小娘、こいつらに何をした?」

「さっきも言ったように拙者は何もしていないでござるよ。しかし、拙者の代わりに彼等を説得して仲間に引き入れた人物がいるといえば分かるでござるか?」

「馬鹿な、ここにいる全員が裏切ったというのか……有り得ん!!」



北方軍の兵士はガームに対して忠誠を誓っているため、兵士達が寝返るなど考えにくい。だが、いくら忠誠心があろうとハンゾウの知っている人物がある能力を使えば彼等を仲間にする事は容易い事だった。



「……まさか、魅了か!?魅了の能力を扱える者がいるのか!?」



ツルギは考えた末に兵士達の様子が普通ではないことからヴァンパイアやサキュバスが扱う「魅了」の能力を思い出す。魅了の能力を使用すれば異性であれば相手を従わせる事が出来るため、その能力を使用して北方軍の兵士を寝返らせたのかと彼は気づく。


ハンゾウはツルギの推察に否定はせず、実際に彼の予測は的中していた。そして時間稼ぎも十分に果たし、彼女の元にこちらに近付いてくる足音が聞こえてきた。



「拙者の役目はここまででござる……レイナ殿!!後は任せたでござるよ!!」

「何だと!?」

「分かった!!」

「ウォンッ!!」



何処からか狼の鳴き声が響くと、ハンゾウ達の元に白い毛皮の狼に乗り込んだ「レイナ」が現れ、彼女はツルギの元に近付くと右手に掴んでいたアスカロンを振り下ろす。ツルギはレイナの攻撃に対して咄嗟に攻撃を防ぐ事には成功したが、予想以上の攻撃の重さに彼は仰け反ってしまう。


シロから飛び降りたレイナはツルギと向かい合うと、両手にフラガラッハとアスカロンを握りしめて対峙する。ツルギの背後にはハンゾウが移動し、他の兵士達も彼を逃がさないように取り囲む。完全に周囲を塞がれたツルギは忌々し気な表情を浮かべ、魔剣を構えた。

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