第480話 兵糧攻め

「食料だ、食料が届いたぞぉっ!!」

「や、やっと来たのか……」

「おい、早く運んでくれ!!」



陣内の兵士達の声を耳にしたガームは幕舎から出ると、補給部隊が到着したのを確認し、安堵の表情を浮かべた。彼自身もこの数日は碌な食事を取っておらず、頬も少し痩せていた。


予定通りに補給部隊が辿り着き、これで兵士達は飢えから解放されると思われた時、何故か陣内に入り込んだ補給部隊の数が少ない事に気づく。当初の予定では8万人の兵士が一か月は養えるだけの量の食料が運び込まれるはずだったが、陣内に入ってきたのは数台の荷車だけである。



「これは……どういう事だ!?他の奴等はどうした?」

「しょ、将軍……」

「お前は……リゲン軍団長か!?」



補給部隊の護衛を任せたリゲンという名前の軍団長を発見したガームは驚き、彼は何があったのか全身がボロボロの状態だった。既に衛生兵が治療を行っているが、彼はガームの顔を見て申し訳なさそうに報告を行う。



「食料は、食料はこれで全部です……他は全て、奪われてしまいました」

「奪われただと!?そんな馬鹿なっ……守備軍の仕業か!!」



食料が奪われたという報告にガームは衝撃の表情を浮かべるが、まさか敵が糧道を絶って食料を奪ったのかと焦りを抱く。しかし、すぐにリゲンは否定した。



「いえ、我々を襲ったのはサンドワームです……森の中を移動中、突如としてサンドワームが出現し、運んでいた食料の大半が飲み込まれてしまいました」

「サンドワームだと!?そんな馬鹿なっ……」

「山岳地帯にしか生息しないサンドワームが現れたというのか!?」



リゲン軍団長は悔し気な表情を浮かべて涙を流し、その様子を見て彼が嘘を吐いているわけではない事に気づいたガームは動揺を隠せず、一方で騒ぎを聞きつけたツルギも黙り込む。


ここまでどうにか運び込まれた食料も8万人の兵士にとっては雀の涙程度の量しかなく、このままでは戦どころではない。当てにしていた食料が届かないという事実に兵士達の落胆は大きく、ガームでさえも打開策が思い浮かばない。



(いかん……このままでは兵士達が飢え死にしてしまう。兵糧がなければもう戦う事も出来ん、ここは退くしかないのか……)



この数日の間に兵士達は精神的にも体力的にも追い詰められ、最後の希望の食料もサンドワームに奪われた事で彼等の心は既に折れかけていた。このままでは戦にならないと判断したガームは決戦か撤退の選択肢を迫られる。



(今の状態で戦を挑んでも兵士がこの状態では碌に戦う事も出来ん。かといって撤退するにしても体力が持つかどうか……ここは降伏を申し出るしかないのか)



自分の命と引き換えにガームは守備軍に降伏を申し込むべきかと考え、これ以上に衰弱していく兵士達の姿を見ていられなかった。そんな彼の様子を見てツルギは何かを考え込み、やがて彼はその場を黙って立ち去った――






――時は少し前に遡り、補給部隊が襲われる直前、レアはサンとクロミンを連れて北方軍の糧道へ忍び込んでいた。初戦で大打撃を受けた北方軍がしばらくの間は攻め込んでいない事をリルは予測し、それに乗じてレアはサンとクロミンを連れて北方軍の陣地を回り込み、彼等の食料が運び込まれるはずの糧道で待ち伏せしていた。


案の定というべきか大量の食料が北方領地から運び込まれ、それを確認したレアはサンに視線を向けて彼女を元の姿へと変身させる。



「サン、絶対に兵士さんを飲み込んだら駄目だよ?出来る限り、人を傷つけないように頑張ってね」

「きゅろっ!!了解!!」

「ぷるぷるっ(いざとなったら助けに行く)」



レアの言葉にサンは従い、彼女は文字変換の能力によって元の「サンドワーム」へと変身した。その後は彼女は地中に潜り込み、地上を移動する補給部隊へと襲い掛かった。




――ギュロロロロッ!!




森の中を移動中、突然に出現したサンドワームによって補給部隊の兵士達は混乱し、対応が出来ずに慌てふためく。その間にサンドワームは次々と荷車ごと食料を飲み込み、8万人の兵士の兵糧を奪い去る。



「ひいいっ!?」

「さ、サンドワームだぁっ!!」

「何故、こんな場所に!?」

「俺達の食料が……止めてくれぇっ!!」

「ギュロロッ……」



サンドワームと化したサンは次々と兵糧を食い散らし、最終的には数分程度で補給部隊が運んでいた食料の殆どを食い散らした。やがて満足したのかサンは食料を粗方口にすると、地中に潜って撤退した。


残された兵士達は食い散らされた食料と荷車の前で項垂れる事しか出来ず、苦労して運び出した食料はせいぜい数台の馬車分しか存在せず、これを運んだところで北方軍の兵士全員に握り飯を一つ渡せるかどうかの食料しか残っていない。それでも立ち止まるわけにもいかず、兵士達は陣地へ向かうしかなかった――

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