第478話 これが勇者の力

「し、信じられない……無敵の獣犬兵が一撃でこんな!?」

「これが勇者の力なのか!?」

「か、勝てるわけが……!!」

「落ち着かんか!!冷静になれ、相手は一人だ!!」



怖気づき始めた兵士達に対して軍団長は叱咤するが、彼等自身もレアの得体の知れない力を目の当たりにして動揺を隠せない。その一方でレアの方はデュランダルを翳し、再び刃を振動させる。


先ほどの攻撃を繰り出すつもりなのかと慌てて兵士達は距離を開こうとしたが、レアは大剣を掲げると狙いを定めて衝撃波を放つ。別の場所に埋め込んでおいた魔石に衝突した瞬間、強烈な衝撃波が発生して地面が吹き飛ぶ。



「う、うわぁあああっ!?」

「な、なんだあの剣は!?」

「まさか、聖剣か!?」

「勇者が聖剣を持っているぞ!!」

「ぐぅっ!?」



一度ならず、二度までも強烈な衝撃波を見せつけたレアに大して兵士達は動揺を隠しきれず、その場を逃げ出そうとする者達もいた。だが、ツルギは聖剣を所有するレアを忌々し気に視線を向け、自らが出向こうとした。



「儂が行く、お主等は下がっておれ!!」

「駄目だ、師よ!!無暗に突っ込めばあの攻撃の餌食となるぞ!?」

「しかし、このままでは……!!」



聖剣の力を目の当たりにした軍隊は動揺を隠しきれず、一撃で数千人の兵士を吹き飛ばす程の攻撃を連続で行ったレアに危機感を抱く。だが、ガームは将軍としてレアの行動に違和感を抱き、これほどまでの凄まじい攻撃が行えるのならばどうして最初から使用しなかったのかと疑問を抱く。


仮に聖剣の力で自分達を圧倒的に叩きのめす力を持つのならば最初から切りかかればいい。しかし、レアは軍勢に近付こうとする素振りはなく、それ以上は動く様子もない。余裕のつもりなのか、あるいは攻撃を行えない理由があるのか、どちらにしろガームは撤退を指示するしかなかった。



「本陣まで撤退せよ!!獣犬兵を救助して退け!!」

「ガーム!?本気で言っているのか!!」

「それしか手はあるまい!!」



ガームの言葉に兵士達は即座に従い、倒れている獣犬兵を担ぎ上げて撤退を開始した。その様子を確認した北方軍はライオネルが前に出ると、兵士達に指示を出す。



「敵が逃げ出したぞ!!追撃せよ!!」

『うおおおおっ!!』



ライオネルの号令の元、撤退を開始した北方軍に対して守備軍も動き出し、敵軍の要である獣犬兵へと襲い掛かった。レアの攻撃で負傷した獣犬兵が救助される前に守備軍は動き出し、捕縛を開始した。



「出来る限り殺すな!!捕縛に専念しろ!!」

「我々も将軍の後に続け!!」

「逃がすかぁっ!!」



倒れている獣犬兵の元にライオネルが指揮する軍隊が殺到し、捕縛を開始した。獣犬兵が次々と捕縛されていく光景を見てガームは歯を食いしばるが、現状では撤退を優先しなければならない。


獣犬兵の大半をここで失うと北方軍の戦力は大きく下がってしまうが、得体の知れない力を持つ勇者を相手にこれ以上の戦闘など出来ない。そう判断したガームは残念ながら獣犬兵の半数を見捨てるしかなく、本陣まで引き返すしかなかった――






――初戦は守備軍の大勝利で終わり、結果から言えば北方軍の戦力はかなり削らされた。特に攻撃の要である獣犬兵を失った事は非常に大きな痛手だが、問題なのは兵士の士気が大きく下がる。


先の戦で見せつけたレアの聖剣の力、更にはケモノ王国最強を誇っていた獣犬兵の敗北を見せつけられ、兵士達の士気はあからさまに低下していた。しかも追い打ちをかけるように食料の配給に関しても碌な食料を与えられない。



「おい、これだけしかないのか!?」

「文句を言うな!!貰えるだけでも有難いと思えっ!!」

「くそっ……こんな量じゃ満足に戦えねえよ!!」



陣内にて食料の配給が行われ、兵士達は明らかに昨日と比べて与えられる食事量が少ない事に不満を漏らす。だが、先日の夜襲で食料を焼き払われたため、現在の陣内で備蓄されている食料は3日分しか残っていなかった。


補給部隊が到着するのは5日後の予定のため、それまでの間は3日分の食料をどうにか分けて持たせるしかない。しかし、普通の人間よりも食事量を必要とする獣人族にとっては食料を減らされる行為は不満が蓄積される。


それでも兵士達は我慢して食事を行い、明日以降の戦に備えて身体を休める必要があった。だが、その日の晩にまたもや問題が発生した。



「将軍、大変です!!」

「どうした!?何事だ!!」

「そ、それが……!!」



夜中にガームは兵士に起こされ、何事か起きたのかと兵士に尋ねると、陣内に凄まじい咆哮が響き渡る。




――グガァアアアッ!!




その咆哮を耳にした瞬間、ガームは目を見開いて幕を飛び出す。そして陣内に入り込んだ「黒竜」の姿を確認して目を見開く。

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