第476話 レアとリリスの秘策
「うおおおおっ!!」
「き、来たぞっ!!全員、勇者を捕縛しろ!!」
「得体のしれない武器には注意しろ、不用意に近づくな!!取り囲んで一気に制圧しろ!!」
レアが雄たけびを上げて駆け出した事で獣犬兵は即座に動き出し、彼の元に向けて駆け出す。総勢1万近くの獣犬兵が迫る光景を確認してレアは立ち止まり、手にしていた剣を鞘に戻して待ち構える。
獣犬兵が動き出した途端に武器を収めて立ち止まったレアを見てガームは疑問を抱くが、既に獣犬兵は持ち前の機動力の高さを生かしてレアを取り囲む。レアを中心に円を描くように獣犬兵の部隊が取り囲んだ光景に守備軍が騒ぎ出す。
「勇者様が囲まれたぞ!?」
「我々が助けに行くべきでは……!!」
「どうする!?どうすればいいのだ!?」
「取り乱すな!!レア隊長を見ろ、あの落ち着きぶり……きっと何か考えがあるのだ!!」
取り乱し始める兵士達を白狼騎士団の団員が落ち着かせ、動揺を現さないように指示をする。敵兵に取り囲まれたレアは特に取り乱した様子がない事は兵士達も確認できたが、それでもたった一人で数千人の獣犬兵に取り囲まれたレアを見て不安を抱かないはずがない。
獣犬兵の大半がレアの周囲を取り囲み、徐々に距離を詰めていく。ある程度まで近づけば一気に数の暴力で押し寄せ得てレアを捕縛する作戦なのだろうが、当のレアは地面に視線を向けて準備を測る。
(さあ……上手くいくかな)
敵に取り囲まれた状態でありながらもレアは決して恐れず、これぐらいの窮地はもう飽きるほど味わっている。何ならば竜種と相対した時の方が怖かった。この世界に訪れてから幾度も恐ろしい敵に立ち向かったレアにとっては数千の獣犬兵など恐れるほどではない。
大分自分の元に人が集まったのを確認すると、レアは地面に視線を向けて「目印」を探す。この周辺一帯は彼女が仕組んだ罠が地面の中に仕込まれており、昨夜のうちに仕掛けを施していた。
(あった、これだな……)
レアは地面で光り輝いている物を発見し、それを観察すると地面の中に埋まっている「風属性の魔石」を発見した。そして背中に背負っていた「デュランダル」を取り出すと、獣犬兵を指揮するケン将軍が警戒したように指示を出す。
「つ、捕まえろ!!最悪、殺しても構わん!!」
『うおおおおおっ!!』
謎の行動を起こした勇者の存在を恐れた獣犬兵は彼が何かを仕掛ける前に動き出し、一気に近づく。だが、それを見越してレアは十分に獣犬兵が自分の元に接近してきたのを確認すると、デュランダルの能力を発動させた。
「ぬうっ!?いかん、下がれ!!下がれぇっ!!」
「ガーム将軍!?」
遠目でレアの様子を観察していたガームは得体のしれぬ危機感を抱き、獣犬兵を下がらせようとした。だが、既に行動を起こしていた獣犬兵達には彼の声は耳には届かず、そもそも指示に従っていたとしても彼等はレアに近づきすぎていたので逃げる暇もなかった。
刃を振動させた状態でレアは大剣を振り抜いた瞬間、地面に埋まっていた風属性の魔石に衝撃が走り、次の瞬間には強烈な衝撃波が発生して周囲へと拡散した。その威力は凄まじく、数千の獣犬兵の身体を吹き飛ばす。
『ぐわぁああああっ!?』
「な、何だっ!?何が起きたっ!?」
デュランダルの能力で生み出した「衝撃波」が更に地中に埋まっていた風属性の魔石に衝突した事で魔石が暴発し、内部に蓄積されていた魔力が暴発する。その結果、聖剣の生み出した衝撃波に更なる力が加わり、周囲へと拡散した。
衝撃波の中心地に存在したレアだけは無傷のまま立っており、彼の足元の地面にはクレーターが誕生した。その光景を見ていた者達はまるでレアが大剣を振り下ろしただけで途轍もない威力の攻撃を繰り出し、獣犬兵を吹き飛ばしたかのようにしか見えなかった。そして吹き飛ばされた獣犬兵は派手に身体を吹き飛ばされ、地面に次々と倒れ込む。
「ぐえっ!?」
「ギャインッ!?」
「がはぁっ!?」
「ギャンッ!?」
兵士もファングも地面に倒れた時点で悲鳴を上げ、身体を痙攣させる事しか出来ない。幸いにも死傷者は生まれなかったようだが、それでも戦闘を続行できる状態ではなく、一気に半数以上の獣犬兵がレアの攻撃で戦闘不能に追い込まれた。
その様子を確認したレアはクレーターの中心地で額の汗を拭い、無事に作戦が成功した事を悟る。ここでレアは昨夜の出来事を思い返す――
――時刻は昨日まで遡り、リリスは白狼騎士団の面々と共に地面に穴を掘って風属性の魔石を埋め込んでいた。理由はレアに頼まれて敵を出来る限り殺さず、無力化する方法を考えた上での行動だった。
彼女はレアが魔法を使えない事は知っているが、聖剣の力を使えばレアでも魔法のような攻撃が行える事を知っている。そこで彼女はデュランダルの「衝撃波」を利用した作戦を思いつく。
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