閑話 〈その頃のアリシア〉

――ヒトノ国の皇女であるアリシアは「聖剣フラガラッハ」の使い手であった。彼女は幼少期の頃から剣の才能に満ち溢れ、既に12才の時には将軍を相手に互角以上に渡り合える剣の技術を会得していた。


彼女は王都にて保管されいた聖剣フラガラッハを手にした時、自分が聖剣を扱える事を知る。その後に皇帝に正式に聖剣を譲渡された。聖剣フラガラッハの恩恵によって彼女は皇女という立場でありながらも戦に身を投じ、自分の騎士団を指揮して常に最前線で活躍していた。


しかし、先日の古王迷宮の一件で彼女の騎士団の団員はほぼ壊滅し、彼女自身も危うく命を落としかけた。表向きは王都の冒険者達の手によって彼女は救われたと世間には発表されているが、実際の所は彼女を救った「銀狼隊」と呼ばれる他国の冒険者達は姿を消してしまう。


銀狼隊が消え去った後、帝都では彼等の捜索のために兵士を総動員させたが、結局は誰も見つかる事はなかった。念のために彼等が宿泊していた宿屋なども調べるが、そもそも銀狼隊がどのような経緯で帝都にまで辿り着いたのか誰も知らなかった。



『リル、貴女が救ってくれたのですね……』



しかし、リルの友人であるアリシアは彼女達の正体も知っており、恐らくは既に国に引き返した事も予想していた。だが、彼女が気になったのは銀狼隊が捜索に参加する際、冒険者ではない人間を同行させていたという話を聞いてアリシアは疑問を抱く。



『リルがわざわざ同行させたという事は腕の立つ人物だったのでしょうが……人間の少女?』



リルが管理する騎士団の構成は基本的に彼女の趣味嗜好で集められているため、女性団員しか存在しない。前にリルはハンゾウという和国の人間の少女を団員にしたという話は聞いていたので彼女を連れてきたのかと思ったが、どうにもリルの聞いていたハンゾウの容姿と今回の同行者の容姿が一致しない。


他の冒険者の話によるとリルが連れてきた人間の少女は変わった戦い方をするらしく、強いには強いが何故か戦い慣れていない様子だったという。念のためにその女性の容姿を詳しく教えて貰い、似顔絵を描いてもらったところ、アリシアは違和感を抱く。



『この少女……レア様と似ている?』



勇者として召喚されながら、ウサンの策略によって勇者である雛の暗殺未遂の一件で危うく処刑されそうになった「レア」という名前の少年と容姿が良く似ていた。あくまでも他人の空似かもしれないが、どうしてもアリシアは少女の事が気になった。


彼女は少女の聞き込みを行い、そして王都から離れた場所に存在する「廃墟街」にて彼女らしき人物に命を救われたという冒険者との接触に成功する。彼等の話によると少女のお陰で命拾いしたらしく、同時に廃墟街に救っていたホブゴブリンの群れが一掃されていたという。


廃墟街の探索を行った結果、その少女のお陰なのか廃墟街に暮らしていたホブゴブリンが激減し、更に普通のゴブリンの方も大分数を減らしていた。廃墟街は魔物としての危険度は低いが、高い知能を持つゴブリンの巣窟なので熟練の冒険者でも油断すれば命を落としかねない危険な地帯である。本来ならば冒険者でもない人間が立ち寄れる場所ではない。



『いや、あの人は本当に強かったんですよ!!俺達、もう殺されるかと思った時にさっそうと現れて助けてくれて……』

『それに凄い良い人で、わざわざ私達を王都まで運んでくれたんですよ!!ああ、もう一度会いたいわ。あのお姉様に……♡』

『あ、それと変わった剣を持っていましたよ。そういえばアリシア王女様が持っている聖剣とよく似ていたような……』



少女に助けられた3人の冒険者からアリシアは直接話を聞き、ここで彼女は廃墟街にて少女が装備していた剣が自分と同じ代物であるという事を知る。そして先日、城内で発見されたアリシアの聖剣と瓜二つの聖剣の存在、これらの情報からアリシアは少女の正体がレアだと見抜いた。



『レア様……貴方が私の事を救ってくれたのですね』



古王迷宮ではアリシアは意識を失い、何が起きたのか覚えていない。だが、聡明な彼女はすぐに銀狼隊と同行していた少女の正体をレアだと見抜き、自分を救うために危険を犯して助けに来てくれた事を知る。


ウサンの勘違いで理不尽に城を追い出されたにも関わらず、自分のために危険な大迷宮に挑んで助けに来てくれたレアに大してアリシアは心の底から感謝し、日に日に彼に会いたいという気持ちを募らせていく。



「ああっ……レア様、貴方は何処で何をしているのでしょうか」



王城の自室にてアリシアは当てもなく窓の外の光景を眺める事が多くなり、姿を消してしまったレアとの再会を願う。その表情は正に恋する少女の瞳だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る