第469話 どちらが王に相応しいのか
「ガーム将軍、ガオ……二人には国王暗殺の容疑が掛かっている。そしてこれほどの大軍を動かし、この私の前に立った。それはつまり、ケモノ王国への謀反と捉えても構わないのか?」
「謀反?それは違うな、第一に勘違いされているようだが俺とガオは国王様を暗殺などしていない!!罠に嵌めたのはそちらだろう?リルル王女!!お前の方こそ我々を追い詰めて国王の座に就こうとしているのではないのか!?」
「リル様に向かってなんて口を……!!」
「貴様は黙っていろ!!俺はリル王女と話しているのだ!!」
ガームの口ぶりにチイが怒りを露にするが、彼の気迫に流石の彼女も圧倒され、あのオウソウでさえもガームの威圧に怖気てしまう。まるで大型の魔物に遭遇したような小動物のような気分を味わい、大将軍として長年の間、この国を支え続けてきた男だけはあって気迫も凄まじい。
だが、リルはガームの気迫に対して涼し気な表情を浮かべて動じる様子もなく、彼女は冷静に罠に嵌めたという言葉からガームの誤解を解くために話し合う。
「ガーム将軍、貴方は誤解しているようだがそもそも私は貴方達が国王を暗殺したとは思っていない」
「えっ……ほ、本当ですか、姉上?」
「やっと口を開いてくれたな、ガオ……随分とやつれているようだが、ちゃんと食事はとっているのか?」
「あ、えっと……」
「ガオ、お前も下がっていろ」
ガオはリルの言葉に意外な表情を浮かべ、まさか彼女がそのような事を言い出すとは思っていなかったのだろう。すぐにガームは間に割って入るが、リルはそんな二人に告げる。
「私はガーム将軍が父上に忠誠を誓っている事はよく知っている。弟のガオも父上を私以上に慕っていた事も……だからこそ二人が国王に手を出したなどと信じてはいない」
「ならば何故、今まで我々に対して連絡の一つを寄越さなかったのですかな?この約一か月の間、こちらには使者の一人も派遣しなかったではないか」
「使者は何度も派遣している。だが、誰一人として帰ってくる事はなかった……それに使者を送らなかったのはそちらも同じはずだが?」
「それは……」
リルの言葉にガームは言い返す事が出来ず、確かに彼も何度か使者を送り込んだが、色々と妨害があって使者は王都に辿り着く前に引き返していた。しかし、それでもガームはリルの言葉を疑わずにはいられない。
「リル王女、我々が国王様の暗殺をしていないと信じるのならば、いったい何者が国王様を暗殺したとお考えか?」
「それはまだ調査中だ」
「ほう、では聞くが国王様が死んだ事で最も有利な立場になった人間は誰かお答えできますか?」
「……僕、だろうね」
「あ、姉上……!!」
ガームの言葉にリルは少し躊躇した上で答えると、ガオの目つきが鋭くなる。確かに状況的に考えれば国王が死亡した結果、現在のケモノ王国の大半の貴族はリルに味方に付き、彼女こそが国王に相応しいと考える者も多い。
しかし、国王の死の際にガームとガオが暗殺の容疑をかけられた件に関してはあまりにもリルによっては都合が良すぎた。二人が国王暗殺の疑惑を掛けられた事で立場が一変し、その前にはガオを支援していたギャン宰相もリルの手によって悪事が露呈し、失脚している。この事からガームは不自然にリルにとって都合のいい流れである事を指摘した。
「我が甥のガオの支援者であったギャン宰相は失脚に追い込み、更にはガオが集めた黒狼騎士団を取り上げ、白狼騎士団に改名させて勇者と共に大迷宮を攻略。その後は国王代理の座に就いた。どれもこれもがリルル王女にとって都合のいい状況となっているな」
「ガーム将軍、何が言いたい?」
「では、はっきりと言わせてもらうがこれまでの出来事が全て王女による自作自演ではないのかと我々は疑っている。私とガオを罠に嵌め、反逆者として我々を討ち取り、名実ともにこの国の国王の座に就こうとしている……違うのか、リルル王女よ!!」
ガームの大声は両軍の兵士全員に響き、誰もがリルがどのような返事を返すのかかたずをのんで見守る。しかし、そんなガームの言葉に対してリルは堂々と言い返す。
「……私が現在の立場に立っているのは私だけの力ではない、私を信じて力を貸してくれた者達が私をここまで導いてくれたお陰だ。今までの私は立場も弱く、王女という身でありながら常に危険な任務に就かされてきた。しかし、それでも私が今こうして生きているのは信頼できる部下、私に力を貸してくれる友人、こんな私でも信じて付いて来てくれた人がいるからだ」
「何?いったい何を……」
「私にとって全てが都合がいいとガーム将軍は言ったが、今の私が国王代理の座に就けたのは私と、私を支えてきてくれた人たちの協力があるからだ!!そして私自身が功績を上げた結果でもある!!逆に聞くがガオ、お前に私の真似が出来るのか!?」
「えっ!?そ、それは……」
ガオはリルの言葉に戸惑い、自分がリルの立場ならば彼女のように功績を立てる自信はない。そんなガオに対してリルは堂々と言い放つ。
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