第470話 リルとガオの違い

「私は胸を張って堂々と言い切れる!!この国を背負う事が出来るのはこの私だけだ!!だからこそ、はっきりと言おう!!この戦は何の利益も生まない、無意味な戦争だ!!ガオ、お前が本当にこの国の事を思うのならば私の弟として傍に控え、この国を支えるべきだろう!?」

「う、ううっ……ぼ、僕は……」

「ガオ、耳を傾けるな!!リル王女よ、貴様が全てを仕組んだのだろう……国王様の死も、そして我が領地に暗殺者を送り込んだのも、全て貴様の仕業ではないのか!?」

「口に気を付けろ!!私が国王様を殺したと本気で思っているのか!?」



リルが普段には見せない凄まじい気迫を放ち、自分よりも大きくて年齢も重ねているガームに対して一歩も引かずに言い返す。その姿は王女ではなく、正にこの国の王として威風を放つ。


そんなリルの姿にチイは誇らしげな表情を浮かべ、一方でレイナも驚く。まさかリルがこれほどまでの覚悟を持っていたとは思わなかったが、改めてリルとガオを見比べると誰の目から見ても国王に相応しいのは彼女の方だと分かる。


ガオはリルに対して何も言い返す事が出来ず、黙って俯く。そんなガオを見てこれ以上の問答はまずいと判断したガームは彼を連れ、その場を立ち去った。



「戻るぞ、ガオ!!リル王女……理由はどうであろうと俺は貴女の事を国王だとは認めん!!」

「ならば掛かってくるがいい……だが、覚悟しておけ。勝つのは私達だ」

「……その言葉、忘れるな。今日の所は引き返す、明日の正午、雌雄を決しようぞ!!」



ガームはガオを連れて自軍に戻ると、そのまま攻め込まずに軍隊を連れて引き返していく。その様子を確認してリルは内心では冷や汗を流し、本当に攻め込まれていたらまずかったのはリル達の方だった。



「ふうっ……とりあえずは命拾いしたな」

「リル様、やはりガーム将軍は我々が国王様を暗殺したと思い込んでいるようですが……」

「そう思い込むのも仕方ないさ、だが話してみて分かったがガオの方はどうやら迷いがあるようだ。あまり出来の良い弟ではないが、それでも今回の戦が間違っている事は理解しているんだろう」



リルは立ち去るガオの後ろ姿に視線を向け、複雑な感情を抱く。もしも戦が始まった場合、ガオが今回の戦の大将首である。軍隊を指揮するのはガームだとしても、彼等が戦う理由はガオを国王にするためであり、もしもガオを失えば彼等は大義名分を失う。


いくらガームが兵士達に信頼を得ているといっても、ガオを失えば彼は戦う理由がない。仮にガームがガオの代わりに国王の座に就こうとしても彼は王族の血筋ではなく、流石に他の地方の貴族達も納得するはずがない。いくら国内最強の戦力を治めていようとガームでは王になる事は出来ない。



(ガオ……道を誤るな、頼むから私に弟殺しなどという罪を背負わせないでくれ)



去っていくガオに対してリルは姉として弟の事を真剣に心配し、ほんの一時期ではあるがリルもガオも仲の良い姉弟として過ごしていた時期もある。その日々の事を思い出したリルは黙って最後まで立ち去っていく二人を見送った――






――その後、本当にガームは軍隊を撤退させ、攻め込む事はせずに守備軍が築いた陣地から10キロほど離れた場所に自分達の陣を形成した。物見を送り込み、逐一守備軍の様子を観察しながらもガームは作戦を考える。



「ガーム将軍、どうやら敵の兵数は4万弱、王都に1万ほどの兵を残して出向いているようです」

「なんと……リル王女め、どうやら噂ほど大した人物ではないようですな。国王代理を自称しておきながら、大将軍のライオネルに軍隊を任せずに自分が指揮して出向くなど何を考えているのやら……」

「いやはや、まさか本当に実戦経験もない王女を大将にして挑むおつもりなのか……ライオネル将軍も今頃は自分の立場に苦悩しているでしょうな」

「お前達、リル王女を侮るな……あの王女は決して愚か者ではない、何か策を考えた上での行動だろう」



ガームの配下の軍団長達はリルが軍勢を率いて出向いた事を嘲笑し、いくら王都に兵士を残して守備させようと、本来ならば一番守るべき存在のリルが王都の外部に出向いている時点で決して得策とは言えない。


理由としては王都にの守備を固めたとしてもこの戦はリルが捕まるか、あるいは討ち取られれば意味を為さない。彼女さえいなくなれば王族の血筋であるガオこそが次の国王の継承者となり、当然だがリルに従っていた者達も他に仕えるべき王族がいない以上はガオに従うしないだろう。


王族の血筋を重視するケモノ王国では王族以外の存在が国を継ぐ事など有り得ず、この戦の要は王族であるリルとガオだといえる。この戦を勝利するためには一刻も早く二人のどちらかを捕縛するか、討ち取るしかない。

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