第471話 持久戦
「我等よりも数が少なく、それでいて1万もの兵士を王都の守備に使うとは……しかし、気になるのはやはり勇者と黄金級冒険者の2名ですな」
「うむ、特に勇者の方は何やら特殊な能力を持っているとか……間諜の報告によれば何でも武器を制作する能力を持っていると聞いておりますが」
「ふむ……勇者に関しては我々も侮れんな。当然、黄金級冒険者も警戒すべき相手ではあるが、こちらにはツルギ殿が居られますしな。それにツルギ殿の弟子も強者揃い、戦力も我等が倍……全く、これで負ける方が難しいですな」
会議に参加する軍団長は余裕の表情を浮かべ、ガームとしても敵は警戒するべきだとは思っているが、自分達が敗北するとは微塵も思っていない。いかに相手が勇者を味方に付けていようと。北方軍こそがケモノ王国の最強戦力であるという事実は揺るがない。
勇者が仮に1万人分の戦力を誇ろうとこちらには8万の戦力が存在し、しかも兵の質もこちらの方が高い。戦略に関してもライオネルは力押しの戦法を得意とするのに対し、ガームは策を練って堅実に戦を勧めるため、大将軍を務めていた時にガームはライオネルと何度か模擬戦を行ったが、一度として負けた事はなかった。
(警戒するべきはやはり勇者と黄金級冒険者のみ……それと、例の暗殺者か)
ツルギが相対した暗殺者は相当な腕利きだとガームは聞いており、実際にあのツルギから逃げ遂せただけでも只者ではない。だが、ツルギによれば暗殺者に深手を負わせたので生きている可能性は低いらしいが、それでも常に警戒しなければならない。
(ガオだけは何としても守らねば……)
甥であるガオの事をガームは一番に気にかけており、同時にこの戦はガオが存在しなければ勝利を勝ち取っても意味はない。ガオにもしもの事があればガームは大義名分を失い、ただの反逆者となってしまう。
「ガオの様子はどうだ?」
「王子は現在、幕舎の中に引きこもっております……全く、少しはリル王女を見習い、堂々して欲しい物です」
「こら、王子に失礼だぞ!!」
「しかし、王子があの様子では兵の士気に関わります。本来であれば主君が鼓舞して事で兵士の士気を高めなければならないというのに……」
「そう虐めるでない、あの御方はいずれ我等の王となる少年だぞ」
「おお、ツルギ殿!!」
会議の最中にツルギが中に入り込み、軍団長達は歓迎した。何しろ今回の戦の発起人はツルギであり、彼等はツルギと内密で結託してガームに王都を攻める事を決心させた。
ツルギが現れるとガームは表情を険しくさせ、敬愛するべき師匠である事は理解しているが、最近のツルギはどうも様子がおかしい。だが、この戦で勇者に対抗できる最も優れた武人である事に違いはなく、彼を加えて会議を行う。
「師よ、これからどう相手はどう動くと思う?」
「ふむ、現状では我々の方が有利じゃ。兵の質も数も勝り、兵糧に関してはこちらの方が余裕があるとはいえ、油断はならん。ここは堅実に持久戦で挑み、互いの兵士の損害を抑えながら奴等を王都へ追い込み、籠城させるのだ」
「籠城……ですか?」
「うむ、敵を籠城に追い込めば5万の兵士の兵糧だけではなく、王都に暮らす数万人の民の食料も必要となろう。そうすれば以て一か月、早ければ二週間で王都の食料は全て空となろう。食料がなくなれば民衆は暴動を引き起こし、リル王女に対する信頼も失われる……儂の考えは間違っておるか?」
「いや……こちらも同じことを考えていた」
ガームはツルギの言葉に頷き、最も兵の損害を少なく勝利するには持久戦こそが有利だとガームも考えていた。国内の騒動が長く続けば他国も動き出す可能性はあるが、ケモノ王国は地形の関係で他の国々から攻められる事は滅多にない。
兵糧に余裕があるのならば持久戦に追い込み、相手を降伏に追い込む。この方法ならば大量の食料を失う事になるが、最も損害を少なく敵に勝利する事が出来る。食料を碌に得られなければ当然だが兵士はまともに戦えず、仮に追い込まれた兵士達が特攻を仕掛けてきても万全な状態の北方軍に勝てるはずがない。戦場において食料は最も重要な問題であり、特に獣人族は並の人間よりも食が大きいので生半可な食事量では満足できるはずがなかった。
「焦らず、じっくりと敵を追い詰め、損害を最小限に抑えて勝利する……これが最善の策じゃ」
「そうだな……一番の問題は明日の決戦、我々が必ず勝利しなければならん。初日に大打撃を与えればリル王女も軍を撤退せざるを得んだろう。上手くいけばリル王女を捕縛すれば決着はつく……皆の者、明日に備えて英気を養えておけ」
『はっ!!』
軍団長達はガームの言葉に従い、会議を解散させようとした。しかし、軍団長達が幕舎の外に出ようとした時に外が騒がしい事に気づき、許可もなく兵士の一人が幕舎の中に入り込む。ひどく慌てた様子であり、それを確認したガームは何事が起きたのかを問う。
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