第472話 夜襲

「し、失礼します!!一大事です!!」

「なっ!?貴様、許可もなく入るなど……」

「良い!!それより、何か起きたのか?」



軍団長の一人が勝手に入り込んだ兵士を叱りつけようとするが、ガームが即座に黙らせて何が起きたのかを問う。彼の眼には兵士が尋常ではないほどに焦った様子に見えたため、何が起きたのかを問う。



「そ、それが……夜襲です!!夜襲を受けました!!」

「何だと!?」

「夜襲!?馬鹿なっ……我が陣に攻め込んできたのか!?」



夜襲という言葉にガームは驚愕し、まさか守備軍が明日の決戦の前に攻め込んできたのかと驚く。昼間に彼は明日に戦いを挑む事を宣言したが、それを先んじて相手の方から仕掛けてきた事に動揺する。


まさか数が多い自分達の軍の陣地に相手の方から先に攻め込んでくるなど思わなかったガームは、自分の油断に対して怒りを抱く。すぐに彼は夜襲を仕掛けてきた人数がどの程度なのかを尋ねる。



「敵の数は!?規模はどれくらいだ!?」

「わ、分かりません!!しかし、既に陣地内に侵入している模様です!!」

「何だと!?見張りの兵士はどうした!?」

「それが、恐ろしく強い剣士が二人ほど存在し、しかも兵糧に火を放っています!!」

「何っ!?という事は奴等の狙いは……我々の兵糧か!!」



敵の狙いが兵糧だと判断したガーム達は顔色を青くし、戦に置いて兵糧は何よりも大切な物である事は彼等も理解している。特に獣人族は並の人間よりも食事量を必要とするため、もしも兵糧を失ったらとんでもない事態に陥るだろう。


ガームはまさか相手の方から仕掛け、兵糧を狙ってきたという事実に歯痒い思いを抱き、同時に感心さえも抱く。確かに策としては悪くはなく、相手が油断している隙に戦の要である兵糧を狙う事自体は素晴らしい作戦だった。



(ぬかった!!リル王女を甘く見過ぎていたか……大軍である我々が兵糧を失えば追い詰められるのはこちらの方、新しい兵糧が届く前に現在備蓄している兵糧を失えば取り返しがつかん!!)



現時点で北方軍が所有している兵糧は一か月分しかなく、新しい兵糧は北方領地から送り込まれる予定ではあるが、届くまでに時間が掛かり過ぎてしまう。何としても全ての兵糧を焼き払われる前に侵入者に対処する必要があり、ガームは命令を降す。



「すぐに出向くぞ!!師よ、力を貸してくれ!!」

「ふむ……剣士という事は噂の勇者か、それとも黄金級冒険者のティナの奴も出向いておるかもしれん。儂が出向かねばまずいだろう」

「その通りだ!!お前達もすぐに自分の持ち場へと戻り、侵入者の対処を行え!!」

『はっ!!』



ガームはツルギと共に幕舎を出る際、軍団長達に指示を残して陣地内の様子を伺う。そして仮設の兵糧庫の方で火災が起きている事を確認すると、二人は即座に駆け出す――





――同時刻、大量の兵糧が積まれた荷車の前に大勢の兵士が集まり、迫りくる二人の「大剣剣士」を相手に彼等は怯えながらも立ち向かった。



「く、くそっ……近寄るな!!」

「何なんだ、こいつら!?」

「ば、化物かっ!!」

「女性に対して化物など……失礼ではありませんか!?」



陣地内に侵入した剣士の正体は銀の大剣を掲げるティナと、漆黒の大剣を掲げるレイナだった。二人は迫りくる兵士達を次々と薙ぎ払い、兵糧が積まれている荷車に向けて事前にリリスから受け取っていた特製の火炎瓶を放つ。


掌に収まる程度の大きさの小瓶の中に赤色の液体が入っており、この液体は強い衝撃を受けると爆発を生じさせ、一気に炎が燃え広がる。先日に巨塔の大迷宮にて入手した火属性の良質な魔石を使用して作り出したリリス特製の魔道具でもある。



「見様見真似……回転!!」

「うわぁああっ!?」

「ひいいっ!?」

「た、助けてくれぇっ!!」



レイナが大剣を振り回しながら兵士達を追い散らすと、その間にティナは火炎瓶を取り出し、兵糧を焼き払う。ここまでの道中で相当な数の兵糧を焼き払い、もう頃合いだと判断した彼女はレイナに撤退を提案する。



「レイナ様、もう引きましょう!!長居すると我々の方が危険です!!」

「分かった、それなら引き返そう……えっと、こうして噴けばいいのかな?」

「「ウォオンッ!!」」


犬笛を取り出したレイナが笛を鳴らした瞬間、何処からかシロとクロが駆けつけ、ティナとレイナの前に立ち止まる。2匹は急いで自分に乗り込むように促し、2人は背中に乗り込んだ瞬間に駆け出す。



「じゃあね、これに懲りたら引き返してね!!」

「行きましょう!!」

「「ウォンッ!!」」

「に、逃げたぞ!?追えっ、追えっ!!」

「ああ、食料が……俺達の食料がぁっ……!!」

「畜生、火を消すんだ!!早くしろっ!!」



逃げ去っていく二人の後を兵士達は慌てて追いかけ、一方で燃え盛る炎に対して慌てて兵士達は消火作業を行う。だが、魔法で作り出した炎は簡単に消す事は出来ず、効果は切れるまでは炎は燃え続けた。

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