第468話 奇策

「仮にこのまま北方軍が来た場合、勝ち目はあるんですか?」

「8万対4万……普通に考えれば勝ち目はないだろう」

「何を弱気な事を……戦は必ずしも兵数では決まらない。量で劣ったとしても質で勝ていれば十分に勝ち目はあるだろう」

「それは一理あるが……その質も相手側の方が有利だろう」



リルの言葉にリュコは口を挟むが、残念ながら兵士の質も量も北方軍の方が勝っている。せめてあと一か月は遅れてくればリルも万全な準備を整えて迎え撃つ事が出来たのだが、それを見越して相手側も動いたのだろう。


ツルギの正体が何者なのかは不明だが、今回の一件はガームの仕業というよりもツルギの策略であり、ここから和解を提案するのは難しい。ハンゾウは自分が暗殺者に仕立て上げられた事を悔しく思う。



「申し訳ないでござる!!拙者のせいでこのような事態に陥るなど……切腹して責任を取るでござる」

「わあっ!?こらこら、駄目だよ!!命を大事に!!」

「ハンゾウ、落ち着く!!ぱぁんっ!!」

「はぐっ!?」

「そうだ、無駄に命を散らすような真似は僕が許さない……死ぬぐらいならば生きて功を立ててくれ」



ハンゾウは自決しようと短刀を取り出すが、慌ててレイナが抑えつけるとサンが張り手を食らわせる。それを見たリルも頷き、今はこちらに近付いている北方軍に対してどのように対処するべきかであった。



「リル様、ここは撤退して籠城に持ち込み、他の地方からの援軍を待つのはどうでしょうか?」

「それは得策とは言えませんね。そんな事をした場合、各地の貴族が寝返ってガーム将軍に就く場合も十分に高いです。国内の貴族達はリルル王女が国王になるからと信じて味方していますが、もしも籠城戦に持ち込まれて追い込まれれば必ずガオ王子に寝返る輩が現れるでしょうね」

「その可能性は十分に有り得る……というよりもそう考える方が妥当だろう。ここで私が劣勢に陥れば味方してくれている貴族達も不安を抱き、ガオに就くだろう。だが、正攻法で勝ち目はないとすれば……奇策で北方軍を破るしかないな」

「奇策ですか……しかし、どのような方法で北方軍8万を打ち破るおつもりですか?」



リルの言葉にティナが口を挟むと、リルはレイナの方に視線を向ける。この状況を打破できる力を持つ者がいるとすればレイナ以外に存在はせず、彼女はレイナに頼み込む。



「私の考えた策は持久戦に持ち込み、出来る限りの時間を稼ぐ事……そして北方軍の糧道を絶ち、兵糧を送り込めないようにする事だ」

「時間稼ぎと兵糧?」

「具体的な作戦はこうだ。まずは北方軍をこの高原にまで誘き寄せ、そこから互いに持久戦へと持ち込む。つまり、初戦で北方軍を警戒させるほどの大打撃を与える必要がある」

「そんな事が出来るんですか?」

「出来るとも、レイナ君とクロミンとサン君の力を借りればね」

「ぷるんっ?」

「サンも?」



まさかのリルの発言にクロミンとサンは不思議そうな表情を浮かべ、リルは自分が考えた奇策を語る。その内容にレイナ達は驚かされるが、話を聞く限りでは十分試してみる価値はあり、レイナ達は行動へ移る――






――翌日、時刻は昼頃を迎えると遂に北方軍は守備軍の陣地の前に訪れ、8万弱の大軍が姿を現した。兵の質も量も相手が上回る状況の中、リルは陣に引きこもる事もなく、自らが先頭に立って北方軍と向かい合う。


リルル王女を目にしたガームは険しい表情を浮かべ、未だに彼はリルが本当に自分とガオを国王の暗殺犯に仕掛けた人物なのかと疑っていた。だが、既に自分達は引き返せない状況にまで立っている事は理解しており、彼はリルと戦う事を決意していた。



「ガーム将軍、そして我が弟のガオ!!聞こえているのならば前に出てくるがいい!!」

「……おうっ!!」

「ひぃっ……」



側近を傍に控えた状態でリルは怒鳴りつけると、北方軍の方からガームとガオが姿を現す。ガームは普通の馬ではなく、ボアに乗り込んで近づき、その後ろにファングに乗り込んだガオも続く。


改めて対峙したリルとガームは互いの考えを読み取ろうと睨み合い、そんな二人に挟まれる形のガオは顔色が悪い。その様子を見てレイナの隣に立つ「」は妙に気分が悪そうなガオを見て不思議に思う。


ちなみに現在のレアは白狼騎士団の団員であるレイナとしてではなく、勇者レアとして行動をしている。リルの傍にはチイとオウソウも同行し、大将軍であるライオネルが軍隊の指揮を任せている。両軍の兵士が互いの大将の様子を伺い、話し合いが行われる。



(この人がガオ王子か……改めて見ると本当に若いな、俺とそんなに変わらないのか。それに噂で聞いていたよりもなんか気弱そうな人だな)



レアはガオに視線を向けると、相手はレイナに気付いたように戸惑い、どうして人間がリルの傍にいるのかと思ったが、彼女の格好を見て騎士団の団員だと判断して目を背けた。

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