第463話 聖剣VS妖刀

「――がはぁっ!?」

「きゃああっ!?」

「うおっ!?な、何だ!?」

「て、敵か!!敵襲、敵襲!!」



窓を破壊して屋敷の中庭に吹き飛ばされたハンゾウは地面に叩きつけられると、屋敷の中に存在した使用人の悲鳴と警備兵の驚愕の声を耳にする。すぐにハンゾウは体勢を立て直そうとするが、予想以上に吹き飛ばされた際の衝撃が強すぎて身体がまともに動かない。


老人が繰り出したとは思えないほどの強烈な一撃にハンゾウは懐に隠していた注射器型の回復薬を取り出し、首筋に突き刺して中身を注ぎ込む。こちらの回復薬もリーリスが生成した代物であり、口に含むよりも血管に流し込んだ方が効果が早く、すぐに彼女は身体の自由を取り戻す。



「ぐっ……逃げなければ」

「逃がすと思っておるのか?」

「なっ!?」



いつの間にか窓から降りてきたツルギが紅月を振りかざし、ハンゾウの元に駆けつけていた。老人とは思えないほどの足の速さにハンゾウは咄嗟にフラガラッハを構えるが、それに対してツルギは剣を振り抜く。



「牙斬!!」

「ぐあっ!?」



不規則な剣の軌道でフラガラッハの刃に触れずにツルギはハンゾウの左手を切り裂き、手首から先を切り落とす。更にツルギはハンゾウに目掛けて蹴りを放ち、彼女は苦悶の表情を浮かべて吹き飛ぶ。


ツルギは地面に落ちたハンゾウの左手を確認して笑みを浮かべ、片手を失った時点でハンゾウの戦力は半減し、見せつけるかのように彼女の前で左手を紅月で突き刺す。その行動にハンゾウは忌々し気な表情を浮かべ、残された右手でフラガラッハを構えた。



「つ、ツルギ様!?これはいったい、何事ですか!?」

「気を付けよ!!こいつはリル王女が送り込んだ刺客、ガームとガオ王子を殺すために送り込まれた暗殺者だ!!」

「っ……!?」



警備兵がツルギに気付くと彼の元に集まり、何事が起きたのかを問い質す。その質問に対してツルギは即座にハンゾウをリルが送り込んだ刺客に仕立て上げる。


実際の所はハンゾウがリルの側近であり、これまでにも彼女はケモノ王国の敵になり得る存在を排除してきたのでツルギの言葉は強ち否定できない。だが、今回彼女が送り込まれた理由はガームの真意を測るためであり、決して彼を暗殺に来たわけではない。


最もこの状況で言い訳をしても聞き入れてくれるとは思えず、ハンゾウはどうにか逃げ出すためにフラガラッハを背中に戻して左手首を抑えながらもツルギに向かい合う。



「この借り……必ず返すでござる」

「ふん、戯言を……そんな状態のお前に何ができるというのだ?」

「生憎と、逃げる事は出来るでござるよ」



ハンゾウは笑みを浮かべると、彼女は胸元を開ける。その行為に警備兵たちは驚くが、ハンゾウの胸元には二つの「煙玉」が仕込まれており、彼女は導火線にライター型の魔道具で火を灯すと、地面に転がす。



「御免!!」

「うおっ!?な、なんだぁっ!?」

「け、煙で前が……」

「落ち着け!!無暗に剣を抜くな、同士討ちになるぞ!!」



煙玉によって屋敷の中庭が白煙に覆われてしまい、兵士達は騒ぎ出す。一方でツルギの方は彼等を落ち着かせるために怒鳴りつけると、騒動を聞きつけたガームが窓を開いて外の様子を伺う。



「お前達、何の騒ぎだ……!?」



彼は窓を開いて中庭の異変に気付くと、いったい何が起きているのかと同様の表情を浮かべる。だが、窓を開いた瞬間に煙の中から何かが飛び出し、ガームの元へと迫る。


反射的にガームは身体を仰け反らせると部屋の天井に「クナイ」が突き刺さり、それを確認したガームは敵襲だと判断した。彼は自分の屋敷が襲撃を受けたという事実に驚くが、すぐにガオの身を案じて彼は部屋を抜け出す。



「敵襲だ!!警戒態勢に入れ!!戦えない者は地下の倉庫に避難させろ、侵入者を逃すな!!」

「は、はい!!」

「直ちに!!」



ガームの言葉に警備兵は即座に対応を行い、一方で彼はガオに与えた部屋へと向かう。今回の敵襲が彼はリル王女の送り込んだ刺客なのかと考えたガームは歯を食いしばり、もうここまで来たら和解は出来ないのかと彼は嘆く――






――この日、ガームの屋敷が襲撃を受けた事は彼の管理する領地の民や兵士全員に伝わり、王女が送り込んだ刺客がガームとガオの命を狙ったという「事実」に全員が戦慄した。もう王女はガームと和解するつもりはなく、ここで戦を起こすつもりかと民は恐れ、一方でガームの配下の者達は怒り狂う。


ガームが管理する兵士達はケモノ王国の兵ではあるが、彼等が忠誠を誓う相手はガームであってリルではない。しかも刺客を送り込んでガームを暗殺しようとした時点で兵士達の怒りは頂点に達し、ガームの方も流石にこれ以上は我慢できなかった。


リルの事をガームも信じていただけに今回の出来事はガームも衝撃が大きく、同時に彼も覚悟を決めざるを得なかった。翌日、正式にガームは王都に攻め寄せるための準備を行うように各領地の軍団長に命令を与え、遂に北方領地を治めるケモノ王国の最強の軍隊が動き出した――

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