第461話 ツルギの目的

――ガームの部屋から退出したツルギは彼に用意された部屋にまで戻ると、松葉杖を手放してツルギは疲れた表情を浮かべながらも椅子に腰かけた。しばらくの間は身体を休ませるように椅子に座り込んでいたツルギであったが、何かに気づいたように彼は部屋の天井へ向けて語り出す。



「出てくるがいい、この部屋には儂しかおらん」

『……よく気づいたでござるな』

「たわけが、そんな生半可な気配の殺し方で儂を欺けると思ったかっ」



ツルギは若干苛立ったような様子で天井に話しかけると、やがて天井に張り付いていた黒装束の人物が地面に降りる。その人物の正体はガーム将軍の領地の偵察に赴いたハンゾウであり、彼女は短刀を構えながらもツルギと向き合う。


ツルギは武器を手放した状態で椅子に座り込み、態度を崩さずにハンゾウの様子を眺める。そんな彼の態度にハンゾウは警戒心を解かず、ツルギに話しかけた。



「流石は黄金級冒険者でござるな……これでも一応は完璧に気配を殺していたつもりでござるが」

「なるほど、和国の忍者か。大方、リル王女に仕える忍といったところか」

「察しの通りでござる。ツルギ殿、拙者の質問に答えて欲しいでござる」

「まあ、いいだろう。今日は女を切る気分ではないからな……質問に答えてやろう」



ハンゾウの問いかけに対してツルギは余裕の態度を崩さずに尋ねると、その彼の態度にハンゾウは冷や汗を流す。老人ではあるが、ツルギと対峙しているだけでハンゾウは冷や汗が止まらず、下手に動けば自分がやられるという確信を抱く。


武器を手にしていない相手と既に戦闘準備を整えた自分、それにも関わらずにハンゾウはツルギに攻撃を仕掛けても勝てる自信はない。これこそケモノ王国に所属する黄金級冒険者の「最強の剣士」と謳われるツルギの圧倒的な存在感なのかとハンゾウは追い詰められる気分がした。



(落ち着くでござる、拙者は忍者……決して動揺してはならないでござる)



表面上だけでもハンゾウは冷静さを保ち、ツルギに質問を行う。彼女がこの数日の調査の結果、ガーム将軍の配下たちと彼が接触しているという事実は既に掴んでいた。



「ツルギ殿、どうして貴方はガーム将軍とリル王女を戦わせようとしているのでござる?」

「ふむ、質問の意味が分からんな……その言い方だと、儂がガームの奴をけしかけて戦を引き起こそうとしているように聞こえるではないか」

「言葉通りの意味でござる。ツルギ殿はこの数日の間、ガーム将軍の配下の者達と内密に接触し、彼等がガーム将軍にガオ王子を後継ぎに祭り上げて戦を仕掛けさせるように説得しているのは調査済みでござる」

「ほう、そこまで調べていたか。中々優秀な忍ではないか」



ハンゾウの言葉にツルギは否定する事はなく、笑い声をあげる。その様子を見てハンゾウはやはり彼がガームとガオを利用して戦を仕掛けさせようとしている「黒幕」だと見抜く。



「ツルギ殿!!ふざけないで答えて欲しいでござる!!どうしてツルギ殿はガーム将軍とガオ王子を利用して王都に攻め寄せようとしているのでござる!?そんな事をすればこの国はどれほど大変な目に遭うのか理解しているのでござるか?」

「分かっておるわ、仮にどちらが勝利しようとこの国は大きく荒れ、そしてヒトノ帝国辺りが好機と判断してどちらかの勢力を支援するだろうな。だが、そんな事は儂にはどうでもよいのだ……儂の目的はただ一つ、この任務を果たせれば儂は名実共に最強の剣士の称号を手に入れられるのだ!!」

「何を馬鹿な事をっ……!?」



ツルギの言葉を聞いてハンゾウは意味が分からず、どうして戦を引き起こせばツルギが最強の剣士の座に就けるのかと問い質す。彼は椅子に座った状態のまま不敵な笑みを浮かべ、やがて自分の傍に置いていた松葉杖に手を伸ばす。


その様子を見てハンゾウは咄嗟に動き出し、ツルギが所有する松葉杖が仕込み刀である事は彼女も理解していた。短刀を構えたハンゾウはツルギが杖を掴む前に攻撃を仕掛けようとしたが、老人とは思えぬほどの身軽さでツルギは松葉杖を掴んだ瞬間に空中に跳躍し、杖に仕込んだ刃を引き抜く。



「抜刀!!」

「くぅっ!?」



ハンゾウが繰り出した短刀に衝撃が走り、金属音と共に根本の部分が切り裂かれた刃が壁に突き刺さった。床に着地したツルギは武器を失ったハンゾウに刃を見せつけ、笑みを浮かべる。



「舐めるなよ、小娘が……老いたとはいえ、お主程度の小娘に後れを取るほど耄碌しておらんわ」

「……なるほど、流石は剣聖でござるな」



自分の短刀の刃が切り裂かれた事にハンゾウは冷や汗を流し、一方でツルギの方は武器を手にした事で余裕の態度を浮かべる。だが、そんな彼に対してハンゾウは残された武器に手を伸ばし、攻撃を仕掛けた。






※本日は1話です。今年もよろしくお願いします。

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