第460話 ツルギの提案
「それでガームよ、お主はどうするつもりだ……と聞きたい所だが、どうやらその様子では何も名案は思い付いてない様子じゃな」
「……見ての通りだ。ガオは引きこもり、俺の方は誤解も解けず、家臣共は王都を攻め寄せろと騒ぎ立てている」
「そうか……」
ツルギはガームの部屋の様子を見て呆れた表情を浮かべ、毎日ガームが暴れるせいで酷い有様だった。家具は破壊され、壁に叩き込まれた拳の後がめり込み、窓に至っては硝子が割れるどころか窓枠さえも壊れている有様である。
この部屋の様子だけでどれだけガームが追いつめられているのかが目に見えて分かるが、いくら暴れたところで名案など思い付きもしない。ガームはツルギと共にコップの酒を飲み干すと、ツルギが尋ねて来た理由を問う。
「それで老師、今日は何の用だ?」
「何、弟子が困っているようだからな。儂に何か力になれる事はないかと思ってここまで尋ねに来ただけよ」
「おお、そうだったのか……そうだ!!老師ならば信頼できる、実は頼みたい仕事があるのだが……」
「ほうっ、まずは話を聞かせてくれ」
ガームはツルギの言葉を聞いて表情を明るくさせ、年老いたとはいえ、元黄金級冒険者にして多数の冒険者を弟子として従えているツルギならば信用できると考えた彼は王都に送り込む使者の件を話す。
「実はな、幾度も俺は王都へ使者を送っている。だが、途中で賊の襲撃や災害などに見舞われて未だに王都へ辿り着いた使者はおらんのだ」
「その噂ならば聞いておる。ここまで妨害を遭うなど普通ではない。何者かに邪魔をされておるとしか考えられんな」
「ああ、それは俺も思っていた。恐らくだが、ガオを後継ぎとして祭り上げて王都へ攻め入ろうとする派閥の仕業だろうが……」
「それはどうかな?」
「何?どういう意味だ?」
ガームの予想では使者の侵攻を妨げているのは自分達の配下の仕業だと思っていたが、ツルギの考えは違った。彼は話を聞く限り、使者の妨害を行っているのはガームの配下ではなく、王都のリル王女ではないかと考えていた。
「お前の送り込む使者を儂が王都まで護衛して送り込んだとしても、恐らくは排除されるだろう」
「何!?いったいどういう意味だ?」
「まだ分からんのか、今回の妨害行為を行っているのはリル王女の可能性もあるのだ。王女はこの機にお前と共にガオ王子を排除しようと考えているのではないのか?」
「馬鹿な、あり得ん!?」
ツルギの言葉にガームは即座に否定し、現在の状況で国内で戦を引き起こせばどれほどの大問題なのかはリルも理解しているはずである。彼女は聡明な女性で決して愚かな判断は下さない。
しかし、リルは王女として立派な務めを果たしていたにも関わらず、先代の国王は実子であるガオを優遇していた。実際にリルは危険な任務を実行し、今まではどうにか任務を全うして果たしてきたが、これまでに何度も命を落としかねない危険な任務も与えられている。先日のヒトノ帝国の勇者暗殺の任務が例である。
「リル王女は先日まで、例の勇者を連れて帰るまでは国内での立場は非常に弱かった。ギャン宰相、そして元大将軍のお主がガオ王子の派閥であった事も原因の一つじゃろう」
「それは……そうだが」
「正直に言ってリル王女はお前に良い感情を抱いているとは思えん。実際に勇者を連れて帰った一見でギャン宰相は解雇、ガオ王子は騎士団の没収、そしてお前は王子と共に国王暗殺の容疑を掛けられておるではないか。よく考えるのだ、これらは全てリル王女にとっては都合が良い方向に進んでおる気がする」
「…………」
言われてみればガームはツルギの言葉に否定は出来ず、実際にリルの立場は国へ引きかえす前と現在では大きく一変していた。しかし、だからといってガームはリルが自分と弟のガオを排除するために戦争を仕掛けるなど思えなかった。
「だが、我等に戦を仕掛けるなど……俺が管理する領地の兵士は我が国最強の精鋭だ。一方で王都の守備軍は我々の勢力の半分以下、これでは戦にもならんだろう」
「お主は考えが甘すぎる。既にリル王女の元には勇者と呼ばれる存在がおる事を忘れたのか?他にも白狼騎士団はこの国の武芸者を集めて築き上げた最強の騎士団とさえ噂されている。実際に今まで誰も攻略する事を果たせなかった巨塔の大迷宮さえも制覇した。他にも儂以外の黄金級冒険者が王都に集い、リル王女の味方に付いたという報告が届いておる」
「ぬうっ……」
「ガームよ、お主の考えは甘すぎる。このままでは王都に各地から援軍が到着し、いずれ勢力差が逆転されてしまうぞ。その前にお主は動かなければならんのだ」
「……俺にリル王女と戦えというのか?」
「それしか方法はあるまい、ガオ王子を次の後継ぎに取り立てて戦を仕掛けるのだ。そのためならば儂も力を貸してやろう……どうする?」
「……考えさせてくれ」
尊敬する師の言葉に対してガオは他の部下のように怒鳴りつけて追い返す事も出来ず、彼は椅子に座り込むと頭を抱える。そんな様子を見てツルギは彼の部屋から出て行った――
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