第459話 ガーム将軍の苦悩

――国王の暗殺の容疑を掛けられたガーム将軍はガオ王子を連れて自分の管理する領地に引き返した後、彼は幾度となく使者を派遣して誤解を解こうとした。だが、何度使者を送り込もうとしても王都に辿り着くまでの道中で魔物に襲われたり、盗賊の襲撃を受けて使者は王都に辿り着く事も出来なかった。


自分の無実を証明できず、しかもガオを連れて帰った事で彼は王位をガオに継承させるためにリルと戦うつもりなのかと家臣たちは騒ぎ出すが、当のガームはケモノ王国に反旗を翻すつもりはない。しかし、何度も使者を送りつけても王都に辿り着く事も出来ないという状況に彼は日に日に苛立ちを募らせる。



「くそっ!!何故だ、どうしてこうなった!!」

「将軍、落ち着いて下さい!!」



酒瓶を壁に叩きつけたガームは怒りを抑えきれず、先日に送り込んだ使者が道中で崖崩れによって王都に辿り着けずに立ち往生しているという報告を聞いた彼は癇癪を引き起こす。既に彼は幾度と使者を王都に送り込んだのだが、どれもこれも必ずや何らかの理由で王都に辿り着く前に引き返してきた。


いっその事、軍勢を動かして使者を送り込む事も考えたが、現在のガームの立場を考えると下手に軍勢を動かしたら王都への侵攻だと判断されかねない。そうなれば下手をすれば戦になりかねない事態に陥る。




「ガーム様、また屋敷の前にガーム様の面会を求める者達が……」

「誰一人として入れるな!!どうせ、ガオを国王にして国を治めるように言い出しに来たのだろう!!」



ガーム将軍の領地に存在する精鋭10万の軍勢ならば王都へ攻め寄り、陥落させる事も不可能ではない。だが、ガームはケモノ王国の忠臣であるため、攻めるつもりはない。しかし、既に彼の配下の中ではガオを次の王位の後継ぎにして彼に国を治めさせようとしている派閥も存在した。


確かにガームにとってはガオは実の甥であり、子供の頃から可愛がっていた。未だに未熟な部分は多いが、それは国王が甘やかして育てた面もあり、自分が厳しくしっかりと教育を施していればガオも国王に相応しい人物に育つと信じている。


だが、今のガオは自分が国王の暗殺の容疑を掛けられ、先日に自分が結成した騎士団を奪われた姉であるリルが国王代理として現在は国を統治している事を知って引きこもってしまった。最愛の父親を失くし、自分よりも優れた姉が国を治める事に関してガオは未だに立ち直れずにいた。



「ガーム将軍、どうしても配下の者達が会いたいと申していますが……」

「くどい!!今は誰とも会うつもりはない、これ以上に食い下がるようならば厳罰に処すと伝えろ!!」

「はっ……」



使用人に対してガームは怒鳴りつけ、このままでは駄目だとは分かっているが打開策が思いつかない。現時点では王都のリルは特に北方の領地に攻め込む様子は見せず、各領地の軍勢を動かしているという報告は聞いているが、それはガームの領地を責めるためではなく、王都の守備のために兵士を動かしているために動いているのは明白である。


リルもガームとの衝突は避けたいと考えているのは間違いなく、ガームとしてもリルと争うつもりはない。ガオほどではないが彼もリルの事は姪として気遣い、このまま姉弟同士で争うのは何としても避けねばならない。



「いったいどうすればいいのだ……むっ!?誰だ、そこにいるのは!?」

『ひょひょっ……相変わらず勘が鋭いのう』



ガームは微かな気配を感じ取って部屋の前で待ち構える人物に怒鳴りつけると、扉を開いて現れたのは黄金級冒険者の「ツルギ」と呼ばれる老人だった。彼はレナ達が探し求める最後の黄金級冒険者なのだが、ガームは目の前に現れたツルギに対してため息を吐き出す。



「何だ、老師か……いくら老師とはいえ、人の部屋の前で盗み聞きするのは感心せんな」

「ひょっひょっ……すまんな、かつての弟子がどれほど成長したのか少し気になってな。年齢は重ねたが、相変わらず勘は鋭いのう」

「それはお互い様だろう。だいたい、老師の方が30歳も年上ではないか。いつまで現役の冒険者でいるつもりだ?そろそろ引退して隠居でもしたらどうだ?」

「抜かせ、生涯現役が儂のぽりしーじゃ」

「何だ、そのぽりしぃ……というのは?」



ツルギを部屋の中に迎え入れるとガームは疲れた表情を浮かべながらも彼のために酒を注ぎ、互いに酒を飲む。実はこの二人、かつては師弟関係の間柄であり、ガームが大将軍に昇格する前はツルギの指導を受けていた時期がある。


現在のガームはツルギから正式に免許皆伝の証を与えられたが、二人は数十年来の付き合いであり、ガームが子供の頃からツルギは色々と面倒見てやった。これはガームの父親がツルギの親友であったが、不慮の事故でガームの父親は亡くなってしまい、代わりにツルギがガームの面倒を見た事もあった。


最初の頃は二人は義理の親子のような関係だったが、ガームが武を志してからはツルギが弟子として彼を迎え入れ、今では年齢の離れた無二の親友のように接している。

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