第457話 治療

――黄金級冒険者と期待の新人冒険者の決闘騒ぎは引き分けへと終了し、その後はリンは観客たちを解散させ、レイナとリュコの治療を行う。二人の治療は治癒魔導士であるネコミンが請け負い、まずは負傷が激しいリュコの回復を優先した。



「はんどぱわぁっ」

「おおっ……痛みが引いていく、ありがとう」

「あいてててっ……ネコミン、終わったらこっちもお願い」

「だ、大丈夫ですか?どこか怪我を?」

「いや、お腹も痛いけど……さっきの剣技で身体を動かしすぎて筋肉痛になった」

「あんな無茶苦茶に大剣を振り回せばそうなるだろうね……ほら、マッサージしてやるからこっちにきなっ」

「サンもマッサージする!!もみもみ~」

「ちょ、サン!?そこは揉まなくていいから……あんっ、だ、駄目ぇっ……」

「…………(←レイナの反応に頬を赤らめてドキドキするティナ)」



負傷に関してはレイナもリュコの前蹴りを叩き込まれた腹部と、先ほどの剣技で激しく動いたせいで身体中の筋肉が悲鳴を上げていた。先ほどレイナが使用した「模倣剣技」は完全には完成しておらず、勢い余って剣を振り回すと身体を酷使して大きな負担と化す。


チイとの剣の指導の時も彼女からは無暗に「回転」の模倣剣技は使用する事は禁じられていた。理由としてはレイナでは剣技の引き際が未だに理解できず、必要以上に剣を回転させれば当然だが身体に余計な負担を与えるため、チイからは実戦で使用する際は必ず他の人間が傍に居る時にだけ使用するように厳重注意されていた。


だが、結果的にはレイナは模倣剣技を使用しなければリュコには勝てなかったのも事実のため、彼女の訓練のお陰でレイナは黄金級冒険者にも勝てた。最も実戦だったならば最初にレイナが吹き飛ばされた時、リュコが追撃を加えていれば勝負は終わっていただろう。だからこそ必ずしもレイナがリュコよりも実力が勝るとは言い切れない。



「レイナ、治療が終わったから治してあげる」

「おお、ありがとうネコミン……後でたっぷり可愛がってあげるからね」

「それは楽しみ」

「か、可愛がる……!?い、いったい何をする気ですか!?」

「え?いや、マタタビとか猫じゃらしで遊んであげるだけなんだけど……」

「あっ……(←赤面するティナ)」



リュコの治療を終えたネコミンは横たわるレイナに掌を添え、回復魔法を施す。回復薬に余裕があれば使用した方が回復は早いのだが、ガーム将軍が王都へ軍隊を派遣する場合に備えて市販の治療薬の類は現在は生産が制限されている。


ガーム将軍が王都に攻め込んできた場合に備えて王国側も軍勢を集めており、ガーム将軍とガオ王子に王都へ赴くように使者を派遣しているが、一向に戻ってくる様子はない。現在の両名には国家反逆罪の容疑が掛けられており、このままでは戦争が起こりかねない状態だった。


リルとしては弟を相手に殺し合いはしたくはないが、このままガオ王子が何の反応も返さなければリルは国王代理として決断しなければならない。だが、その前に出来る限りの事は全てやるつもりだった。



「ふうっ……大分楽になったよ、ありがとう」

「どういたしまして……それよりもレイナ、前よりお肉が付いた?」

「えっ!?太ったの!?ちゃんと毎日運動しているのに……」

「違う、前よりも筋肉が付いた気がする」

「ああ、そういう事か……びっくりした」



レイナは召喚されたばかりの頃と比べても激しい運動を行い、習得した技能の効果もあってか以前よりも筋肉が身についていた。といっても外見の方は殆ど変わりはなく、普段からレイナと接している人間でなければ分からないほどの違いだが肉体は確実に成長していた。


その一方でレイナは自分が女性の姿で過ごす事にだんだんと慣れてしまい、よくよく考えれば男性の状態の時よりも女性の肉体の方で過ごす時間の方が長くなっている事に悩む。このまま女性として過ごしていれば男性の姿に戻った時に不具合が生じるのではないかと思うほどだが、現状では勇者レアとして行動するよりは冒険者レイナとして行動する方が色々と都合がいい。



(元の世界に早く帰りたいけど、リリスの話によると今の状態だと帰還方法を調べるのも難しいらしいしな……まあ、あの3人の件もどうにかしないと元の世界に戻れないしな)



ヒトノ帝国で勇者として歓迎されている3人の勇者の事を思い出し、ここでレイナは彼等が何をしているのか気になった。茂とは先日に遭遇したが、時間の問題や彼と話す暇がなかったので仕方なく自分の手がかりになりそうな道具を渡す事でレイナは自分の嵌めた大臣の悪事を明かそうとした。


しかし、レイナは知らないが彼を陥れた大臣はもうこの世には存在せず、それどころヒトノ帝国の方でも途轍もない出来事が起きようとしていた――

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