第455話 レイナVSリュコ

「来たか……なら、行くぞ!!」

「うわわっ!?」



闘技台にレイナが戻るとリュコは駆け出し、拳を繰り出す。先ほどのような一撃で仕留める攻撃ではなく、連打でレイナを確実に仕留めようと拳を繰り出してきた。



「乱打!!」

「くっ!?」



リュコの腕が幾つにも増えたかのような残像を生み出す程の速度で繰り出され、咄嗟にレイナは後ろに飛んで回避する。しかし、後方に跳躍した事でリュコに隙を生み、彼女は左拳を掌底へと変化させると、レイナに突き出す。



「掌打!!」

「ひゃんっ!?」



突き出された掌底に対してレイナは可愛らしい悲鳴を上げながら上体を逸らす事で回避を行い、この攻撃も避けられた事にリュコは驚く。


その一方でレイナの方も体勢を整えると大剣を握りしめ、勢いよく地面を踏みつけて横なぎに振り払う。この時に刃の部分ではなく、刃の腹の部分を利用してリュコの胴体に叩きつける。



「このぉっ!!」

「硬皮!!」

「うわっ!?」



しかし、横なぎに振り払われた大剣がリュコの身体に衝突する寸前、彼女は片腕を構えると、筋肉を凝縮させてまるで金属のような硬度へと変化させてレイナの大剣を弾き返す。


人体とは思えないほどの硬さにレイナは驚き、これも戦技の一種なのかと思いながらも彼女は弾かれた大剣と共に後ろに下がり、今度は上段に構えて振り下ろす。



「これならっ……どうだぁっ!!」

「受け流しっ!!」

「うわっ!?」



上から振り下ろされた大剣に対してリュコは両腕を構えると、空手の「回し受け」のように円を描くように腕を動かして刃の軌道を逸らす。そして体勢を崩したレイナに対して彼女は前蹴りを繰り出す。



「はあっ!!」

「ぐふぅっ!?」

「やばい、まともに受けた!?」

「レイナ様!!」



前蹴りを受けたレイナは後方へと吹き飛び、今度こそ彼女がやられたのかと他の者達は心配した声を上げるが、一方で攻撃を仕掛けたリュコは眉を顰める。


足がレイナの身体にめり込んだ際に彼女はこれまでにない感触を味わい、最初はゴムのように柔らかい物に当たったと思った直後、まるでゴムに包まれた金属のような筋肉を感じ取る。そして攻撃を受けたはずのレイナは今度は闘技台から吹き飛ばされず、踏み止まった。



「いでででっ……さっきより、痛い!!」

「ぶ、無事なのかい!?」

「凄い……あれほどの一撃を受けてなんという耐久力!!」

「レイナを甘く見たら駄目……今までどんな状況でもレイナは負けなかった」

「きゅろっ!!流石はサンのご主人様!!」

「ご主人様!?あんたらそういう関係だったのかい!?」



サンの発言にリンが驚愕の表情を浮かべるが、今のレイナはそんな彼女達に構っている暇はなく、腹部を抑えながらも起き上がるとリュコと向かい合う。


正直に先ほどの攻撃はもう駄目かと思われたが、ちゃんと「金剛」の効果のお陰でレイナの防御力は4倍近くまで上昇している。普段はあまり攻撃を受けないように立ちまわっているので忘れていたが、レイナは身体強化系の技能は全て極めた状態である。


リュコも攻撃力を上昇させる技能は持ち合わせており、更に彼女の場合は巨人族なので人間よりもレベルは高い。だが、レイナの方も金剛以外にも防御に有利な技能も覚えているため、どうにか耐え切る事は出来た。それに先ほどの攻撃も腹部だった事もあり、事前に警戒して攻撃を受ける際に防御に専念できることが出来た。



(このままだとやばいな……こっちの攻撃はまともに喰らっても弾かれるし、かといって防戦だけだと勝てるはずがないし……こうなったらこの間の剣の訓練で編み出した新しい「剣技」を試すしかない!!)



レイナはデュランダルを構えると、覚悟を決めた様に真っ直ぐに伸ばす。その行為にリュコは疑問を抱き、他の者達も訝し気な表情を浮かべる。レイナがいったい何をする気なのかとこの場に存在する人間は誰も分からなかった。




――仮にこの場にチイが存在した場合、レイナが何をしようとしているのかは彼女は見抜く事が出来るだろう。先日、王城でレイナはチイに剣の指導を受けていた際、戦技が覚えられないレイナに対してチイは助言を与えた。




『レイナ、お前は戦技は使えないといっていたな?戦技といっても所詮は技にしか過ぎない。つまり、別に戦技を発動する事は出来なくとも、戦技を模倣する事は不可能ではないはずだ』

『えっ……どういう意味?』

『例えばそうだな……兜割りという戦技がある。この技は剣の戦技の基本の一つだが、名前の通りに敵の兜を割る勢いで剣を振り抜く……と言えば聞こえはいいが、要するに上段から剣を振り下ろすだけの戦技だ』

『うん、それで?』

『つまり、戦技が使えなくともお前だってこの「兜割り」のような単純な剣の戦技は真似できるだろう。だから戦技が扱えないからといって不貞腐れるな、お前の力は私がよく知っている。今から私が扱える戦技を全部見せてやるから、模倣できると思った剣技は全て真似して会得してみろ』



その後、チイは覚えている剣技を十数個ほど見せてくれると、レイナが真似できそうな剣技を選抜し、最終的にチイから一つだけお墨付きを貰った「剣技」をレイナはリュコに発動しようとした。

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