第454話 リュコの実力

「話は終わったか?なら、始めてもいいか?」

「あ、はい……えっと、武器は使わないんですか?」

「ん?ああ、大丈夫だ。私は拳闘家だからな」

「拳闘家?」

「格闘家系統の称号だよ。拳闘家の場合は主に手技の戦技が優れていると言われてるね」



リンの言葉にリュコは頷き、彼女はレナに対して拳を握りしめた状態で向ける。その拳はまるで歴戦の武闘家の拳の如く傷だらけであり、同時に威圧感を感じさせた。


最初はレイナも素手の相手にこちらは武器を使用して戦っても良いのかと思ったが、リュコは武器無しで黄金級冒険者に上り詰めた達人であり、彼女も特に相手が武器を使うからと言って文句を言わない。同じ格闘家ならばともかく、武器を持たぬ相手にリュコは本気で戦えないと告げる。



「私が素手だからと言って遠慮する事はない、それにこの服は見た目よりも頑丈に出来ているから安心してくれ」

「安心しろと言われても……」

「レイナ、戦うんなら本気で挑みな。そいつはマジで強いからね……手加減なんて考える余裕はないと思いな」

「ええっ……まあ、そこまで言うのなら」



レイナはデュランダルを構えると、リュコはその大剣を見て感心した表情を浮かべ、随分と重量がありそうな大剣をレイナは片手で軽々と扱う姿に彼女は興味を抱く。



(一見するだけでは普通の少女にしか見えないが、大剣を片手で扱う腕力……侮れんな)



大剣を担いだだけでリュコはレイナが只者ではないと見抜き、そもそも常人が金級冒険者にまで昇格できるはずがないと思い直し、拳を構える。こちらの世界の大抵の格闘家はボクシングスタイルである事が多いが、リュコの場合は腰を落とし、中国拳法のような構えを取った。


着用している服もチャイナドレスと酷似しているため、レイナは中国拳法家と戦っているような気分に陥りながらもデュランダルを構える。そして先ほどのリンの言葉を思い出し、嫌な汗を掻く。



(本当にこんな強そうな人を相手に出来るかな……でも、やるしかない)



リュコと向かい合ったレイナはまずは相手の様子を伺おうとした時、5メートルほど離れた位置でリュコは気合を込めた声を放ちながら片足を地面に踏み抜く。



「かあっ!!」

「うわっ!?」

「ゆ、揺れた!?」

「これは……震脚!?」

「「ぷるるるっ!?」」



勢いよく足が地面に踏みつけられた瞬間、まるで地震の如き激しい振動が広がり、観客の冒険者が騒ぎ出す。クロミンとシルに至っては身体が震えすぎて残像を生み出し、リュコと対峙していたレイナも体勢を崩しそうになった。


その隙を逃さずにリュコはレイナに向けて駆け出し、凄まじい瞬発力で距離を縮める。そして体勢を崩したレイナに向けて右拳の中段突きを放つ。



「崩拳!!」

「ぐふぅっ!?」

「レイナ様!?」

「やばい、まともに喰らったぞ!?」



体勢を崩したレイナに対してリュコは力強く踏み込み、拳を叩き込む。巨人族である彼女から繰り出される拳は並の格闘家の比ではなく、レイナの身体が吹き飛んで石畳製の闘技台から落ちてしまう。


レイナが吹き飛ばされたのを見て慌ててティナたちは駆け込み、彼女の安否を心配するが、一方でリュコの方は拳の感触から驚いた表情を浮かべる。



「あいててっ……し、死ぬかと思った」

「レイナ様!?」

「良かった、無事だった……」

「レイナ、大丈夫!?」

「あんた、よく意識が残ってたね!?」



闘技台から落ちたレイナは起き上がると、腹部を抑えてはいるが特に大した怪我は負った様子はない。その様子を見てティナたちは驚くが、一方でリュコの方はレイナが無事の理由を語る。



「……拳を叩き込んだ時、金属の感触がした。咄嗟に大剣を盾にして防いだんだな?それに当たる寸前に後ろに飛んで衝撃を殺そうとした」

「えっと……まあ、そんな感じです」

「な、なんて奴だ……あのリュコの攻撃に反応してたのか!?」

「レイナちゃんもマジで半端ないなっ……」



リュコの言葉を聞いて観客たちは動揺し、レイナの敗北に賭けている冒険者達でさえも彼女の行動に感心してしまう。一方でレイナはリュコの言葉に対して表面上は余裕の態度を取るが、内心は非常に焦っていた。


実際の所はリュコの攻撃に対してレイナは別に防御に成功したわけではなく、反射的に身体が動いて最善の行動を取っていただけに過ぎない。当の本人は自分が無事だった理由をリュコの話から聞いて理解した程である。



(今の攻撃……ティナの大剣を受けた時よりもやばかった。もしもまともに当たっていたら負けてたかも)



ティナの大剣から繰り出される一撃よりもリュコの拳の攻撃の方が非常に重く、もしも大剣で防ぐことに成功していなかったらレイナの意識は飛んでいた可能性が高い。それを理解した上でレイナはもう相手が武器を所持していないからといって妙な気遣いはせず、全力で挑む事に決めた。


闘技台に落ちれば敗北という規則ではなかった事にレイナは命拾いしたが、冷静に考えればわざと負けた方がこれほど化物じみた強さを持つリュコと戦わずに済むのではないかと考えてしまう。しかし、既に立ち上がった以上はレイナも引くわけには行かず、改めて闘技台に移動してリュコと向かい合う。





※おまけ


「かあっ!!」( ゚Д゚)←震脚

「うわっ!?」(; ゚Д゚)

「ゆ、揺れた!?」( ・`д・´)←レイナの胸をガン見

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