第453話 ティナの熱意

「待て待て、落ち着けお前ら!!しっかりと自分の賭ける金額を先に答えてから金を置け!!後で虚言を吐いて余分に価値分を得ようとするなよ!!」

「他にレイナちゃんに賭ける奴はいないのか!?いるなら返事してくれ!!」

「……相変わらずこういう時だけ冒険者はノリがいい」

「たくっ、あんたらの所の娘のせいで面倒な事になったね、この調子だと賭け事を中止させるのは出来なさそうだね」



机の前には「鑑定士」の称号を持つ人間が記録を行い、絶対に賭け事で不正を行わせないように彼等は冒険者達の動向を見張る。机に硬貨を置くときは必ず鑑定士に自分が支払う金額を提示し、それを記録させてから鑑定士が硬貨を受け取り確認を行う。


冒険者の中には暗殺者や盗賊などの称号を持つ人間もいるため、それらの称号を所有する人間は手先が器用で様々なイカサマを得意とする。過去に賭け事を行った際、記録に記した賭け金よりも多くの金銭を盗み出そうとした輩もいたため、冒険者での間の賭け事は慎重に行われる。


賭け事を行う冒険者達の姿をネコミンとリンは並んで呆れた表情を浮かべて見届ける中、今まで様子を見ていたティナがもう我慢できないとばかりに動き出す。



「いい加減にしなさい!!貴方達はふざけているのですか!?」

『っ!?』

「ちょ、ちょっと……ティナ、別にそこまで怒らなくても」

「どうどう、落ち着いて……レイナが賭け事の対象にされたから怒ったの?」



激怒したティナの言葉に冒険者達は震え上がり、慌ててリンとネコミンが彼女を落ち着かせようとした。しかし、そんな二人を無視してティナは自分の懐からパンパンに詰まった小袋を取り出すと、レイナの賭け金の机の上に置いて堂々と宣言した。



「レイナさんが勝つに決まっているでしょう!!詳しくは数えていませんが、金貨100枚ぐらいはあるはずです!!これを全てレイナさんに賭けます!!」

『えぇええええっ!?』



ティナの行動に冒険者ギルド内にて驚愕の声が響き渡り、その声は訓練場に向かっていたレイナとリュコも耳にして二人は驚いたという――






――自分の知らぬ間に冒険者達の賭け事の対象にされ、更にティナが自分の全財産を自分の勝利に賭けたと聞いたレイナは大きく動揺し、当然ではあるが最初は彼女を止めようとした。


しかし、ティナはレイナの勝利を疑わず、仮に負けたとしてもレイナのせいではなく、自分の責任であると言い張ってティナは一度出した賭け金をひっこめる事はなかった。リンとしてはまさかここまで大きな賭け事になるなど予想も出来ず、彼女は困った試合前にレイナに話しかける。



「おい、どうしてくれるんだい……あんたらのせいで馬鹿共がとんでもない金額で賭け事を始めたんだよ!?責任とれるのかい!?」

「そ、そんな事を言われても……」

「あんたの所のティナのせいで他の冒険者も引くに引けなくなって手持ちの金を全部賭ける馬鹿もいっぱい出たんだよ!!このままだとあんたは勝っても負けてもとんでもないかずの冒険者に恨まれる事になるよ……!!」

「ええっ……な、何でこんな事に」



レイナとしては軽い腕試しのためにリュコとの試合を行おうとしたのだが、自分の知らぬ間に勝手に賭け事が行われ、しかも勝利しようと敗北しようと他の冒険者に恨まれる可能性がある事に理不尽さを覚えた。


だが、理由はどうであれ今回の出来事の中心にいるのはレイナとリュコである事に変わりはなく、どちらが勝とうと片方の冒険者は大儲けする一方、もう片方の冒険者は悲惨な目に遭うだろう。そして賭けに敗北した方の人間達は間違いなく負けた側の冒険者にいい感情は浮かばないだろう。



(何でこんな事に……勝っても負けても駄目だなんて、どんな理不尽だ!!)



既にレイナは石畳の闘技場で待ち構えるリュコに視線を向け、彼女は今回の賭け事に関しては特に興味を抱いていないのかストレッチを行って身体を解していた。そんな彼女の態度を見てレイナは今からでも試合はなかった事にしてもらえないかと頼もうかと思うが、その考えを読み取ったようにリンが口を挟む



「言っておくけどね、今更試合を中止するなんて口が裂けても言うんじゃないよ。ここまでデカい賭け事になると中止すると必ず顰蹙を買う……そうなると下手をしたら敗北した時よりもまずい事になるかもしれないよ」

「そんな……なら、どうすればいいんですか?」

「そんな事をあたしに聞かれても困るよ!!でも、そうだね……どうしてもこの状況を何とかしたいというのなら……ごにょごにょ」

「えっ……そんな方法で大丈夫なんですか?」



リンに耳元で囁かれたレイナは彼女の提案に驚き、その一方で納得する。確かに彼女の出した案を成功させればレイナは他の冒険者に恨まれる事はなく、ティナを大損させる事もない。


しかし、リンの提案は非常に難しく、レイナは自分にそんな真似が出来るのかと不安を抱く。だが、こんな事態に陥った以上は退くに引けず、レイナは覚悟を決めてリンの提案に乗る事にした。

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