第452話 腕試し

「ネコミン、勝手な事を言わないでよ……こっちも暇じゃないんだよ」

「でも、最近は仕事もせずにずっと引きこもっている」

「うっ……それを言われると言い返せない」

「引きこもりは身体に悪いぞ、ちゃんと外にでて身体を動かした方がいい」



先日に単独で依頼を行っていた時にレイナは襲われた事を思い出し、最近は一人で仕事に出向かず、黄金級冒険者の手がかり探しに専念していた。折角、金級冒険者に昇格したというのにレイナは碌に依頼を受けておらず、ネコミンの言葉にも一理はあった。


魔王軍の幹部に二度も接触し、更に命を狙われているのであまり派手な行動は取るのは得策ではないのだが、ここまで目立つと何も行動してなくても人の注目を浴びてしまい、実際に噂を聞きつけたリュコが宿屋にまで訪れていた。それにリュコもレイナの実力は気になるらしく、ティナに尋ねる。



「お前とレイナはどちらが強い?」

「……そうですね、単純な剣の技量ならば私の方が上でしょう。しかし、レイナさんの場合は私よりも様々な能力を持ち合わせています」

「能力?それは技能の事を言っているのか?」

「半分は正解とだけ言っておきましょう……少なくとも私とレイナさんの間に実力の差は殆どありません」

「ほう、増々興味が湧いた。レイナ、試しにあたしと腕試ししてくれないか?」

「ええっ……」



ティナは誇らしげにレイナの強さを語ると、リュコは先ほどよりも強い興味を抱いたようにレイナの肩を掴む。彼女の大きな手に捕まれたレイナは戸惑うが、最近は碌に身体も動かしていなかった事もあり、この際にリュコがどれほどの実力を持つのか気になったため、彼女は仕方ないという風に承諾した。



「じゃあ、とりあえずは場所を移動しましょうか……ここからだとギルドが近そうだし、ギルドの訓練場で戦うのはどうですか?」

「おお、戦ってくれるのか。それは有難い……そうだな、ギルドの訓練場ならあたしも問題ない」

「では行きましょうか……あ、扉を潜り抜ける時は壊さないように気を付けて下さい」

「分かった」



リュコの承諾も得たレイナはとりあえずは冒険者ギルドへ赴き、彼女と腕試しを行う事になった。だが、後にレイナは適当に腕試しを行う場所をギルドの訓練場に決めた事を後悔する事になる――





――冒険者ギルドに二人の黄金級冒険者が赴き、更には最近は話題に上がっているレイナも一緒に行動していた事でギルドで騒いでいた冒険者達は静まり返り、リンでさえも3人が同時に訪れた事に表情を引くつかせる。



「黄金級冒険者のリュコだ。これから訓練場でここにいるレイナと試合を行いたいが、問題ないか?」

「あ、ああ……久しぶりだね、リュコ。それにしても帰って早々に訓練場で試合かい……しかも、その相手があんたかい」

「どうも……なんか、成り行きでこんな事になっちゃいまして」

「はあっ……しょうがないね、だけど地下の訓練場は貸せないよ。黄金級冒険者に暴れられて訓練場が崩壊したら困るからね。戦うのならギルドの裏手にある方の訓練場で戦いな」

「すまない、迷惑を掛ける」



リンの言葉にリュコは丁寧に頭を下げると、レイナを連れて訓練場の裏手へと向かう。そして話を聞いていた他の冒険者達も黄金級冒険者のリュコと、驚異的な速度で金級冒険者に昇格を果たしたレイナが戦うと聞いて興味を抱かざるを得なかった。



「お、おい……今の聞いたか?あの金剛拳のリュコと、話題の大型新人のレイナちゃんが戦うみたいだぞ!?」

「ど、どっちが勝つと思う?」

「馬鹿、リュコに決まってるだろ!!あいつは素手で竜種を倒せると言われる女だぞ!!」

「それを言ったらレイナちゃんだって只者じゃねえ!!あのティナさんよりも早く金級冒険者に昇格を果たしたんだぞ!?いや、もしかしたら近いうちに黄金級冒険者へ認定されるかもしれない逸材だ!!」

「よし、それなら賭けをしようぜ!!どっちが勝つのか賭けろ!!俺はリュコさんに銀貨3枚だ!!」

「それならこっちはレイナちゃんに銀貨2枚!!」

「こっちもレイナちゃんに銀貨5枚だ!!」

「なら俺はリュコさんに金貨1枚!!」

「おいおい、あんたら!!勝手に賭け事なんてするんじゃないよ!!」



騒ぎ出した冒険者達に対してリンや受付嬢たちは慌てふためき、彼等を落ち着かせようとした。しかし、黄金級冒険者のリュコと金級冒険者の中でも最も黄金級冒険者への昇格が期待されているレイナが戦うと聞けば一般人でも落ち着いてはいられない。


次々と当人たちが知らないところで外野が騒ぎ出し、二つの机に次々と冒険者達は硬貨を置く。この二つの机はレイナとリュコがどちらが勝つのかを示し、やはりというべきか黄金級冒険者のリュコ側の方が数多くの硬貨が積み重ねられていく。レイナの方もそれなりの金額の硬貨が置かれているが、その殆どが銅貨や銀貨で金貨の数は非常に少なかった。

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