第451話 リュコの条件

「なるほど……事情は分かりました。わざわざ私に会うためにここまでご足労おかけいたしたようですね」

「別に気にする必要はない、あたしが勝手に会いに来ただけだ」

「でも、丁度良かった。私達も貴女に用事があった」

「あたしに?」



リュコが訪れたお陰でレイナ達は探す手間が省け、リルから預かっていた手紙を差し出す。彼女はそれを受け取って中身を確認すると、王女からの手紙だと知って驚く。


その場で手紙の内容の確認を行い、現在のケモノ王国は黄金級冒険者の力を必要としている事を察すると、彼女は難しい表情を浮かべながらも手紙を机に置く。



「なるほど、お前達はただの冒険者ではないのか」

「そう、ここにいるレイナは白狼騎士団の幹部でもある」

「え、何時の間に幹部に……」

「私も現在はリルル王女様の依頼を引き受け、現在は王都で待機を命じられています。謀反を引き起こした疑いがある王子を匿っているガーム将軍が軍勢を率いて王都まで攻め寄せてきた場合に備え、王国側は戦力となり得る存在を集めています」

「なるほど、そういう事情か……しかし、あたしはこの依頼を引き受けるのは難しいな」



仮にも王女にして現在はケモノ王国の国王代理を務めるリルからの依頼に対してリュコは難しい表情を浮かべ、彼女は思い悩むように腕を組む。その様子を見てレイナ達は彼女に何か事情があるのかと思って尋ねる。



「依頼を引き受けられない理由があるんですか?」

「ある、あたしは冒険者活動を行っている理由は自分が強くなるためだ。強敵と戦って腕を磨き、同時に人助けも行って生活費も稼ぐことが出来る。だからこそ私は冒険者を志した」

「そ、そうなんですか……しかし、それでは何が問題なのでしょうか?」

「この手紙によると何時までの期間、冒険者活動を中断して王都に待機しているのかが記されていない。下手したら長期間の間、私は冒険者活動が行えない」

「滞在中の費用に関しては王国が支払う予定ですけど……」

「それは駄目だ。あたしは常に身体を動かす仕事をしていないと落ち着かない……何もせずに王都に留まるというのは性に合わない」



リュコに不満があるのは彼女が冒険者を志した理由は今以上に強くなる事らしく、そういう点では冒険者活動は非常に都合が良かった。


討伐系の仕事を引き受ければ魔物を倒してレベルを上昇させたり、あるいは商人や貴族など護衛の依頼の際は襲撃を仕掛けてきた悪党と戦って対人戦の技術を磨く事も出来る。自分の腕を磨けてしかも金を稼げる仕事はこれ以上にないため、彼女としては何もせずに待機しているだけでは身体が訛って納得いかないという。



「国の危機だというのは理解したが、あたしとしては身体を動かすような仕事でなければやる気が起きない……残念だが、今回の依頼は断らせてもらう」

「そ、そうですか……」

「レイナ、勘単に諦めたら駄目」

「そうですね、それに武芸を磨きたいという理由なら王国側も条件を変えてみたらどうでしょうか?例えば……騎士団の指導の依頼とかは?」

「それは駄目だ、あたしは他人を指導するのは苦手だ……それに巨人族の私では獣人族や人間とは身体の造りが根本的に違う。だから肉体面の指導は難しいぞ」



ティナは身体が動かすだけなればリュコに王都に所属する騎士団の指導を提案したが、リュコ曰く巨人族の自分では獣人族や人間の兵士の指導は不向きだという。


この場合は種族感の身体能力や特徴に違いがある事が問題であり、例えば獣人族は運動能力に特化しているが、巨人族の場合は主に筋力と体力に優れている。人間の場合はこの二つの種族と比べると身体能力の面はかなり低いが、一方で魔術師などの魔法に優れた際を持つ者も多い。


それにリュコからすれば自分はまだまだ未熟なため、他の人間の指導など到底出来ないと断った。しかし、やっと出会えた黄金級冒険者をここで諦めるわけにもいかず、とりあえずはリュコにどのような条件ならば依頼を引き受けてくれるのかを尋ねる。



「あの……リュコさんはこの条件なら仕事を引き受けてもいい、というのはないんですか?」

「むうっ……そういわれても思いつかないな。強いて言えば強い魔物や武人と戦える仕事場を用意して欲しい」

「どちらも難しいですね……あまり王都から離れすぎるわけにもいきませんし、それに魔物はともかく武人の方も難しいですね」

「……それならレイナやティナが毎日リュコと戦えばいいと思う。そうすればリュコも身体を動かせて腕も磨ける」

「ほう、それは面白そうだが……ティナはともかく、そちらのレイナという少女も強いのか?」



ネコミンの適当な言葉にリュコは少し興味を抱いたような表情を浮かべ、このようなパターンは碌な事が起きない事を知っているレイナは面倒そうな表情をネコミンに浮かべる。

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